老人ホームからの入居一時金の返還金は相続財産に帰属すると判断
カテゴリ:05.相続・贈与税 裁決・判例
作成日:04/12/2016  提供元:21C・TFフォーラム



 被相続人が介護型有料老人ホームに入居する際に支払った入居一時金の返還金が相続財産に算入されるか否かの判断が争われた事件で東京地裁(増田稔裁判長)は、事業者の返還事務の便宜のため受取人を相続人に指定していたにすぎず、相続人による入居一時金の出捐事実も認められないことを理由に相続財産に帰属すると認定、棄却した。

 この事件は、相続税の期限後申告及び修正申告後に、原処分庁が相続税の課税価格及び納付税額の計算誤りを指摘した上で、更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分をしてきたため、相続人らが納付すべき税額を超える部分及び賦課決定処分の取消しを求めて提訴したもの。

 被相続人は生前、介護型有料老人ホームと入居契約を締結して入居一時金を支払ったが、この入居一時金は入居月数等に応じて所定の償却金を控除した残額を返還金受取人に返還するという性格のもので、相続が起きた場合、相続人が受け取るという内容になっていた。しかしながら、入居後1ヵ月以内に被相続人が死亡したため、その殆どが返還されたという事案である。

 そこで相続人側は、入居一時金は被相続人に預けていた金額から支払われたものであり、その預け金が返還されただけのことであるから、相続財産には帰属しないと主張して、原処分の取消しを求めたわけだ。

 判決はまず、被相続人への預け金があったとする的確な証拠もなく、相続人側の供述を採用できないとその主張を否定した上で、返還金は入居契約の解除又は終了に伴う現状回復、不当利得として返還されるものであり、受領すべきは入居契約の当事者であると入居契約の内容から認定。

 さらに、被相続人が死亡した場合は、被相続人の受領が不可能なため、単に老人ホーム側の返還事務の便宜のために、相続が起きた場合の受取人を指定しているにすぎず、指定された受取人に返還金全額を帰属させる趣旨ではないと判断。結局、被相続人への預け金の存在を認めることができないことから、実質的に相続人が一時金を出捐したという余地もなく、返還金は被相続人に帰属すると認定して棄却した。

(2015.07.02東京地裁判決、平成25年(行ウ)第503号)