立退料は譲渡の実現に客観的に必要とは認められないと判断
カテゴリ:02.所得税 裁決・判例
作成日:06/07/2016  提供元:21C・TFフォーラム



 共同住宅及びその敷地の売却に伴い、事務室を賃借していた建物の管理会社に立退料名目で支払った金員が、建物の譲渡費用に該当するか否かの判断が争われた事件で国税不服審判所は、客観的に見て譲渡の実現に必要な費用の支払いであったと認めることはできないと判断して、審査請求を棄却した。

 この事件は、不動産賃貸業を営む審査請求人が、賃貸用の共同住宅及びその敷地の売却に伴い、共同住宅1階の事務室を賃借していた建物管理会社に立退料名目で支払った金員を譲渡費用に算入して所得税の申告をしたのが発端。これに対して原処分庁が、譲渡費用には当たらないと判断して更正処分等をしてきたため、これを不服とした請求人がその全部取消しを求めて審査請求したという事案である。請求人側は当然ながら、立退料名目で支払った金員は譲渡費用に該当する旨主張して、原処分の取消しを求めたわけだ。

 裁決はまず、資産の譲渡の際に支出した費用が譲渡費用(所法33③)に当たるどうかは、現実に行われた資産の譲渡を前提に、客観的に見て譲渡を実現するためにその費用が必要であった否かによって判断すべきであると指摘。その上で、請求人と賃借人間の賃貸借契約は遅くとも譲渡の日までに合意解約されたものと認められるものの、合意解約がされるまでの間に、買主が賃借人に事務室からの退去を求めた事実を認めることはできないと認定した。

 また、請求人と賃借人との間で退去に伴う金員の支払いに関する合意が成立したとする主張は主観に基づくものであり、合意の成立を明らかにする書面作成の事実も伺われないため、合意の成立を認めることも困難と指摘した。結局、賃借人の退去は客観的に見て譲渡の実現に必要であったとは認められず、金員の支払いも客観的に見て譲渡の実現のために必要な費用の支払いであったと認めることはできないから、譲渡費用には該当しないと判断して審査請求を棄却している。

(2015.09.30国税不服審判所裁決)