税理士事務所の承継時の金員は譲渡所得に該当せずと判断
カテゴリ:02.所得税 裁決・判例
作成日:03/29/2011  提供元:21C・TFフォーラム



 税理士事務所を他の事務所に承継する際に受領した金員の所得区分の判定が争われた事件で、国税不服審判所は、資産としての営業権もしくはそれに類似する権利が存在していたとは認識できないと指摘して審査請求を棄却した。

 この事件は、税理士業を営んでいた審査請求人がその事業を補助税理士に承継する際に、その補助税理士から受領した金員を雑所得として申告した後、譲渡所得として申告すべきであったとして更正の請求をしたことが発端になっている。これに対して、原処分庁が更正すべき理由がない旨の通知処分をしてきたため、税理士がその取消しを求めて審査請求していたという事案である。

 税理士は、税理士事務所は税理士、補助税理士、従業員及び顧問先と事務所独自のノウハウ等が一体となって運営されているから営業権あるいは企業権というものを認識できると指摘した上で、その営業権という資産を譲渡したのであるから、その対価として受領した金員は譲渡所得に該当すると主張して取消しを求めていた。

 しかし裁決は、1)税理士と顧問先の関係は税理士個人に帰属し、一身専属性が高く、その税理士を離れて営業組織に結実することはなじまない、2)事業を承継するのは補助税理士のみで、かつ、承継の際に引き継いだ従業員はなく、補助税理士・従業員・顧問先との関係は生じない、3)事務所独自のノウハウ、超過収益を稼得できる無形の財産的価値を有していた旨の具体的な証拠の提出や主張がなく、それを認めることもできないと指摘。結局、これらの指摘を踏まえて、譲渡所得の基因となる資産としての営業権もしくはこれに類似する権利が存在していたとは認められないと判断して、審査請求を棄却している。

(国税不服審判所、2010.06.30裁決)