兼務役員の「給与・賞与・退職金」をめぐる税務取扱いQ&A
   
作成日:10/26/2004
提供元:月刊 経理WOMAN
  


調査で否認されないためにこれだけは知っておこう
兼務役員の「給与・賞与・退職金」をめぐる税務取扱いQ&A




 中小企業では、役員が使用人としての職務を兼ねることはよくあると思います。みなさんの会社でも、実際に使用人として働いている営業部長のAさんや経理部長のBさんが、「取締役営業部長」「取締役経理部長」といった肩書を持っている、なんてことはありませんか?

 税務上、役員と使用人(社員・従業員のこと)の報酬・給与、賞与、退職金の取扱いは大きく異なります。一般的に役員は、経営の実権を握りますから恣意性が入りやすいといえます。そこで、課税を公正に行なうために、報酬等の取扱いについてはさまざまな制限やルールが設けられているのです。

 ただし、使用人の職務を兼務する役員(税法上の専門用語で「使用人兼務役員」といいます)については、その使用人としての職務を考慮し、本来の役員とは区分して課税上有利な取扱いが設けられています。

 そこでここでは、どのような役員が使用人兼務役員に該当するのか、またその報酬・給与、賞与、退職金の税務上の取扱いについて、どのような点に注意すればよいかを解説していきましょう。


■使用人兼務役員って何?

 使用人兼務役員とは、法人税法で「役員でありながら使用人としてその職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事している者」と定められています。

 「使用人としての職制上の地位」とは、部長、課長、支店長、工場長、営業所長、支配人、主任など“使用人としての肩書き”のことです。総務担当、経理担当というような場合は、ある部門を統括しているに過ぎませんから、使用人兼務役員には含まれないことになります。ただし、事業が単純で少人数の使用人で営んでいる商店の役員などで、使用人としての肩書きを定めていないケースでは、使用人と同等の職務を行なっている実態があれば、使用人兼務役員として認められます。

 また、使用人兼務役員は「常時使用人として職務に従事」する必要があり、使用人として常勤していなければなりません。

 その他、以下に該当する人は、実情に関わらず、使用人兼務役員になることができませんから覚えておきましょう。

使用人兼務役員になれない者

1)社長、副社長、代表取締役、専務取締役、常務取締役、その他これらに準じる社員(明らかに会社の経営に深く関わる者)
2)合名会社、合資会社の業務執行役員
3)監査役および監事(監査役は監査業務に専念しなければならないため)
4)同族会社(3人以下の株主グループにより会社の発行済株式総数の50%を超えて保有されている会社のこと)の役員のうち、一定の持株割合を超える株主グループに属し、かつ一定の持株要件を満たす者
※“株主グループ”とは、1人の株主とその親族などの同族関係者のグループをいう。


■役員と使用人に対する“労働の対価”の考え方の違い

 ところで、役員と使用人が受ける労働の対価(いわゆる給与)の税法上の取扱いが違うのはなぜでしょうか? その理由は次のとおりです。

 まず、会社と使用人との間には“雇用契約”が結ばれます。給与は労働の対価として使用人に支払われるものですから、無条件で会社の経費(損金)として認められます。

 これに対し、役員の契約は株主から委託されて会社の経営を任された“委任契約”です。その任務について役員が受けるものは賃金ではなく、委任業務の報酬となり、不相当に高額な部分は経費(損金)として認められません。

 また、役員に対する賞与については、一定の業績をあげた場合に、「利益の中からさらにお支払いします」といった意味合いを持つため、利益が確定して初めて決定するもの(利益処分)と考えられ、やはり損金として認められません。

 つまり、役員と使用人では対価の性格が異なるのです。

 先述したように、役員は経営に直接関わり、利益操作を自由に行なえる立場にあります。そのため、法人税の負担を免れる目的で、役員に対する対価の支払いを不当に増やすことが考えられます。そこで、課税の公平性を保つために、税法上では役員に対する職務の対価に一定の制約を設けているのです。

 以上のことを踏まえ、次に使用人兼務役員の報酬・給与、賞与、退職金それぞれの取扱いについて見ていきましょう。


■報酬・給与の税務上の取扱いは?

 前述のとおり、使用人に対して支払われる給与は、その全額を経費(損金)とすることができますが、役員に対して支払われる給与(役員報酬といいます)のうち、不相当に高額な部分(過大分)は、損金として認めないという規定があります。役員賞与が損金とならないため、賞与分を役員報酬の名目で支給して損金とするのを防止する意味合いです。

 以下の表を見てください。過大役員報酬額とは、実質基準と形式基準により、大きい方の金額で判断します。

過大役員報酬限度額の判定
過大役員報酬額とは…AとBのどちらか大きい金額です
A.実質基準1)その役員の職務内容
2)法人の収益状況
3)使用人への給与支払い状況
4)同業種・類似規模会社の役員報酬支払い状況
実際支給額と左の要素を勘案した適正報酬額と比較した場合の超過額
B.形式基準定款や株主総会の決議で役員報酬の支給額限度が定められている場合限度額が各人ごとに規定各人ごとの実際支給額と限度額を比較した超過額
限度額が総額により規定各人の実際支給額の合計額と限度額を比較した超過額

 実質基準の判定では、使用人部分も含めて過大であるかどうかの比較をします。また、形式基準では、会社が定款または株主総会の決議で、役員報酬の支給限度額に使用人兼務役員の使用人分の給与を含めない旨を定めている場合は、使用人分給与を役員分報酬とは別枠で計算することができます。

 使用人分の給与として認められるかどうかは、その使用人兼務役員が従事している使用人としての職務と類似した仕事をしている使用人がいる場合、その使用人に支給した給与を適正額として判断されます。もし、適当な使用人がいなければ、その使用人兼務役員が役員となる直前にもらっていた給与にその後のベースアップを加味して算定した金額や、使用人のうち最上位にある者に対する給与などを勘案して見積もります。

 例を挙げて説明しましょう。使用人兼務役員の役員に昇格する直前の給与が50万円だったとします。そして、役員昇格時においてもっとも類似した使用人Aの給与が40万円で、現在Aの給与が48万円になっているとします。このベースアップ率を用いて計算すると、使用人分の給与適正額は60万円となり、支払った報酬合計から60万円を引いた金額が役員報酬分となります。

●使用人分給与適正額の計算例
50万円×(48万円÷40万円)=60万円


■賞与の税務上の取扱いは?

 役員に対する賞与は利益の分配という考え方をとるため、原則として損金として認められませんが、使用人兼務役員については「使用人部分の賞与」を損金とすることができます。

 ただし、使用人部分の賞与が損金として認められるためには、次の三つの要件をクリアしなければなりません。

1)他の使用人と同時期に支給する
2)使用人部分の賞与が適正額である
3)使用人部分の賞与を損金経理する

 まず1)は、文字どおり使用人兼務役員に対し一般の使用人と同時に支給する必要があるということです。一般の使用人に賞与を支給したときに未払金として計上しておき、実際には利益処分時に支給したという場合は損金として認められなくなってしまいます。

 2)の使用人部分の賞与の適正額については、「使用人部分の給与」と同様に、その使用人兼務役員が実際に従事している使用人としての職務と類似した仕事をしている使用人がいる場合は、その使用人に支給した賞与を使用人部分の適正額とし、適当な使用人がいない場合には、その使用人兼務役員が役員になる直前にもらっていた給与に、その後のベースアップを加味して算定した使用人部分給与額に他の使用人に支給した賞与割合を乗じた金額や、使用人のうち最上位にある者に対する賞与などを適正額とします。

 3)は、損金経理(賞与として費用処理)が要件であるということです。たとえば、「仮払金」と処理してしまった場合には、その期はもちろん、仮払金を費用に振り替えた期にも損金とならなくなってしまうので注意が必要です。

■退職金の税務上の取扱いは?

 役員に対する退職金についても、不相当に高額な部分の金額は、損金になりません。不相当に高額であるかの判断基準は、1)業務に従事した期間、2)退職の事情、3)同業種・類似規模会社の役員退職金の支払い状況などの要素を勘案して判断されます。

 使用人兼務役員に対する退職金の取扱いは、たとえそれが役員分と使用人分に区分して支給されていたとしても、役員分のみで不相当に高額であるかどうかの判定をするわけではありません。使用人分も含めたところで判定していくことになります。ケースを挙げて見ていきましょう。

●ケース1
 使用人兼務役員が専任の役員になったことにより、使用人兼務役員であった期間の退職金を支払った場合

 この場合は、たとえ使用人分に対応する適正部分であったとしても、支給した全額が“役員賞与”とみなされ、損金にはなりません。

 使用人から使用人兼務役員になったときに、使用人であった期間にかかる退職金を支払った場合は、損金として認められますが、その後、使用人兼務役員から専任の役員になったときは、単に役員の中での地位に変動があっただけとされ、使用人からの退職として認められず、支払った退職金は“役員賞与”とされてしまうのです。

●ケース2
 使用人兼務役員が専任の役員になったことにより、使用人であった期間と使用人兼務役員であった期間の使用人分の退職金をまとめて支払った場合

 この場合は、1)使用人から使用人兼務役員になったときに退職給与を支払っていないこと、2)使用人の退職金規程により支給され、使用人分の退職金として適正額であることなどを条件に、使用人分の退職給与は損金として認められます。


■税務調査で否認されないために注意するポイント

 税務調査で否認されないために、使用人兼務役員の取扱いにおけるチェックポイントをいくつかあげておきましょう。

1)使用人兼務役員として賞与を支給した人の中に、使用人兼務役員に該当しない役員は含まれていないか(同族会社ではとくに注意が必要)
2)報酬は役員報酬部分と使用人給与部分の根拠を明確に区分し、その算定根拠を議事録等に残してあるか
3)使用人兼務役員に対する使用人分の賞与が、他の使用人と比べて高額になっていないか
4)使用人兼務役員に対する賞与の支給時期は、他の使用人と同時
5)給与台帳等はしっかり整備・保存してあるか(支給明細の区分)

 使用人兼務役員だけでなく、役員についても、支給したものが報酬になるのか、賞与となるのかの区分の取扱いはまったく異なりますので、税務調査で問題となるポイントです。

 税法では、定期に定額で支払われるものが報酬であり、臨時に支払われるものが賞与とみなされます。その実質に関わらず、形式的に判断し、臨時と判断されたものはすべて役員賞与とされてしまいますから、経理ウーマンのみなさんは、くれぐれもその取扱いに注意するようにしてください。

〔経理WOMAN〕