会社・役員間の「金銭貸借」―税務処理はこうするのが正しい!!
   
作成日:07/22/2002
提供元:月刊 経理WOMAN
  


ありがちなケース・よくある質問にズバリ答えます!
会社・役員間の「金銭貸借」―税務処理はこうするのが正しい!!

 会社の資金繰りのために社長からお金を借りたり、逆に会社から社長に資金を貸し付けるなど、会社と役員の金銭貸借にはいろいろなケースがあります。間違った処理をしてしまうと後々課税関係が生じることにもなりかねません。
 そこで、会社と役員間のお金にまつわる取引について、税務上の取扱いを分かりやすく解説していきます。



役員への貸付

Q1
 会社が役員に、無利息または通常の利率よりも低い利率でお金を貸し付けた場合、税務上どのような問題がありますか?
 会社が役員に無利息または通常の利率より低い利率でお金を貸し付けた場合、その役員は経済的利益を受けたとみなされ給与または賞与として所得税が課税されます。
 課税される経済的利益の額は、無利息の場合は通常の利率(後述)により計算した利息の相当額、通常の利率より低い利率で貸し付けた場合は通常の利率により計算した利息の額と実際に受け取る利息の額との差額の相当額です。
 この場合、会社経理上は(借方)役員報酬(貸方)受取利息・雑収入等と処理しますが、税務上は過大役員報酬や役員賞与として損金不算入となる場合もあります。
 なお、会社の経理で前述の仕訳をしていない場合は、法人税の計算では、収入の計上漏れとして別表四の税務調整が必要になります。

Q2
 会社が役員にお金を貸し付ける場合、通常の利率の利息を受け取っていれば問題はありませんか?
 また、経済的利益として課税されない通常の利率とはどんな利率ですか?
 会社が役員にお金を貸す場合、通常の利率で利息を受け取っていればとくに問題はありません。
 また、経済的利益として課税されない通常の利率とは、次のような合理的と認められる貸付利率をいいます。

(1) 会社の借入金の平均調達金利(算式:会社が貸付を行なった日の前事業年度中の借入金利息/会社が貸付を行なった日の前事業年度中の借入金平均残高(*)×100で求められます)

*借入金平均残高=各月末の借入金残高の累計/12

(2) 貸付を行なった日の属する年の前年の11月30日の公定歩合に4%を加算した利率(0・1%未満の端数があるときはこれを切り捨てます)

(3) 役員に貸し付けたお金が、他者から借り入れて貸し付けたものであることが明らかな場合は、その他者から借り入れた借入金の利率

Q3
 役員に対する貸付金の中で、無利息でも経済的利益として課税されない例外はありますか?
 あります。災害、疾病等により臨時的に多額な生活資金が必要となった役員に対し、その資金に充てるために貸し付けた金額については、その返済に要する期間が合理的であれば無利息でも課税されません。
 また前述の災害等の場合でなく、通常の貸付金の場合でも、会社の事業年度中のその貸付金に係るQ1で述べた「経済的利益の額」の合計が5000円以下の少額のときは課税しなくてよいことになっています。つまり、経済的利益の額が5000円以下の少額となる場合は、無利息でも問題はないことになります。

Q4
 会社が役員にお金を貸し付ける場合に注意することは何でしょうか?
 会社が役員にお金を貸し付ける場合に注意すべきことがいくつかあります。
 まず、取締役会の承認を受けておかなければなりません。万一その貸付金が回収できなくなったときは、全役員が連帯して返済しなければいけないことになっています。
 次に、その貸付金は合理性のあるものでなければなりません。たとえば、役員に対する個人的支出で返済のあてのない本来役員賞与となるべきものを貸付金として処理していたり、相手先を明示できない使途秘匿金となるべきものを貸付金としているなどということがないように注意が必要です。

役員からの借入

Q5
 会社が役員から無利息でお金を借りた場合、税務上の問題はありますか?
 役員から会社がお金を無利息で借りた場合は、特殊な場合を除いて、今のところ問題になることはないようです。
 貸した場合は無利息だと問題になり、借りた場合は問題にならないというのは変だと思うかもしれません。
 法人税の対象となる会社は営利を目的に存在しています。会社が役員に無利息でお金を貸すことは会社が本来受けるべき利益を放棄し、逆に役員に不当な利益を与えることになります。しかもその役員は自分に都合のよい決定を行なえる立場にいます。
 それは会社のオーナーである株主にも損失を与えてしまいます。また、利益となるべきものが計上されない場合は、その分法人税も少なくなり課税上弊害が起きてしまいます。
 一方、役員が会社に無利息でお金を貸した場合は、役員は損をしますがそれは自己の判断で行なったもので、もしそれが嫌であれば行なわなければよいわけです。嫌だけれども会社のために実行したとしても、役員としては仕方がない行動ともいえます。この場合、会社としては経済的利益を受けますが、それは支払利息がその額だけ少なく計上されることにより利益が増加して、その結果その利益の増加分について法人税が多く課税されます(赤字の会社は損失の減少となります)。このため、法人税法上の課税の不公平はないということです。

Q6
 役員からお金を借りる場合、どのようなことに注意すべきでしょうか?
 役員からお金を借りること自体にはとくに問題はありません。ただ役員としての節度が保たれたものでなければいけないこととされています。
 節度が保たれていない場合とは、次のようなケースが考えられます。

(1) 金融機関から市中金利で借りられるのに、わざわざ役員からそれ以上の高い金利で借りて会社に損をさせる。

(2) 資金的必要がないのに役員から借入をしてあえて利息を支払っている。

 なお、役員が会社にお金を貸す場合はその役員は後日の税務調査のとき、そのお金の出所を説明できるようにしておいてください。明らかにできないと「所得隠し」や「脱税」を疑われることもあります。
 また、役員からお金を借りる場合、無利子、無担保のときは多額でない限り取締役会の承認は不要ですが、利息を支払ったり担保を提供するときは取締役会の承認が必要です。

Q7
 役員からお金を借りる場合に金利は自由に決めてよいのでしょうか?
 原則的には自由に決めてよいのですが、金利が高過ぎる場合は役員に対する給与または賞与とされます。
 その目安は状況によってケースバイケースですが、特別の事情がなければ金融機関から借りる場合の市中金利が上限といわれています。
 なお、原則として利息を受け取る役員は、雑所得として所得税の確定申告をしなければならないことになっています。ただし、年末調整で課税が完了する非同族会社の役員については、その利息と給与所得及び退職所得以外の所得の合計額が20万円以下である場合は申告不要です(医療費控除などを受けるため確定申告をする場合は、20万円以下でも含めます)。
 確定申告をする場合には、12月31日現在に未収利息となるものについても収入金額に含めなければならないことになっています。
 また、利息を支払う場合(受け取る場合も同じですが)は金利だけでなく、期間や支払方法をどうするかということも大事なことです。
 たとえば利益が出た事業年度に、まとめて5年前からの借入金の利息を一度に計上するようなことは認められません。利息を未払とする場合は、会社は決算期毎に未払金として計上するとともに、その役員は未収利息として毎年確定申告をしなければなりません。

Q8
 会社が他者から借入をする際、役員を連帯保証人としその役員に信用保証料を支払うことにしましたが問題はありますか?
 連帯保証人になった役員に対して会社から信用保証料を支払うことはあまりないと思いますが、支払った場合でも適正額であれば問題はないでしょう。適正額の基準は、信用保証協会の保証料率を参考にします。この適正額を超えた場合は、超えた部分が役員報酬とされるというのが一般的な考え方です。

Q9
 経営が苦しいため役員の給料を無利子で借り入れています。税務上何か問題はありますか?
 一度給料として支払ったものを改めて借入金として受け入れた場合は、今までの解説と同様にとくに問題はありません。
 ただ、給料を支払えず未払いとして処理したものを借入金に振り替える場合で、源泉所得税の処理がされていないものは源泉所得税を預かるべきと考えます。源泉所得税は支払ったときに預かりますので、未払給料の場合は源泉所得税を預かっていないことが考えられます。しかし未払給料を借入金とすることは、一旦支払ったものを借りたと考えられますので源泉所得税を預かり納付すべきでしょう。
 また、未払給与としている場合に、それが支払えないためその未払給与を返還するものとしたときにも、その給与に係る源泉所得税をなかったものとすることはできません。

Q10
 会社の状態が悪化しているため、役員からの借入金を返済できません。今後も返済できる見通しが立たないので債務免除をしてもらおうかと考えています。何か問題はありますか?
 会社の状態が悪いため、役員からの借入金の免除を受けて立て直しをしようとすることは最近よく見られます。このケースで注意しておかなければいけないことは、会社の状態が悪いといってもどのくらいかということです。
 債務免除を受けた金額は当然、収益として計上され、利益が出れば法人税が課税されます。最終的に損失や繰越欠損金の範囲内であれば課税はありません。
 またその債務免除の結果、債務超過でなくなり、純資産額(*)(資産―負債)が増加し、その会社の一株当たりの単価(純資産÷発行済株数)が増加すれば株主への贈与税の問題が出ます。
 債務免除を受けても株価に影響がなければ贈与税の問題は出ません。たとえば同族会社で社長からの借入金について債務免除を受け、その結果、株主である子供達の株価が増加した場合、子供達の「株」という財産が増えたことになり、その増えた額は社長(父)から債務免除の方法により贈与を受けたものと考えられます。債務免除を受けても債務超過であれば株価はゼロ円のままですので、贈与の問題はありません。

*純資産額=相続税法に基づき計算した金額