同族会社のための上手な「相続税対策」教えます
   
作成日:08/23/2005
提供元:月刊 経理WOMAN
  


同族会社のための
上手な「相続税対策」教えます。




 同族会社にとって、もっとも頭の痛い問題の一つが相続です。利益が出ている会社であれば一株あたれの単価が高くなり、多額の相続税が発生してしまうからです。未公開の中小企業は市場で株を売却することができないため、納税資金に窮する恐れもあります。

 そこで、同族会社のための上手な相続税対策をわかりやすくアドバイスします。

■なぜ、同族会社の相続は問題となるのか?

 本題に入る前に、なぜ同族会社の相続が問題となるのかについて解説しておきましょう。

 ここでいう同族会社の株式とは、証券取引所に上場されていないものを指します。同族会社の株式は上場されている株式とは異なり、時価が明確ではありません。ところが、同族会社で株式が贈与されたり相続されたりするときには、相続税や贈与税を課すために、株式の金額を明らかにする必要があります。

 そこで、同族会社で相続がある場合には、国が定めた「相続税評価額」という基準を使って株式の金額を明らかにし、課税することとされています。この相続税評価額は、その株式を実際に売却できる金額ではなく、あくまでも贈与税や相続税を計算する上での数字です。ですから、贈与や相続を受けて税額が確定しても、その株式を証券市場で売却して現金化することはできないので、手元に納税資金がないという事態に陥る恐れがあるのです。

 相続や贈与されるのが土地や上場している会社の株式であれば、納税資金がないときには物納といって、お金に代えて相続財産そのもので納税することが認められています。しかし、非上場の同族会社の株式を物納財産として認めてもらうには、さまざまな要件を満たさなければならず、難しいというのが現実です。

 ですから同族会社には、相続税対策が必要になってくるというわけです。


■同族会社の株式の相続税評価額はどうやって決まるのか?

 相続税や贈与税は、株式の時価に対して税金をかける仕組みになっており、このときの時価が「相続税評価額」といわれるものです。

 同族会社の株式の相続税評価額は、その株式の相続や贈与を受けて取得した人が、会社にとって、どのような株主に該当するのかということによって変わってきます。

 たとえば、ある同族会社の株式をたくさん所有している人が、相続を受けることによってさらに持株を増やすとします。すると、その人は株主としての立場がより強固になり、会社に対する支配権が増すことになります。こうした立場の人の場合は「原則的評価方式」という計算方法で評価されます。

 一方、上場していない会社の株主は、社長とその親族というケースがほとんどです。しかし、社長やその親族以外の人が経営に影響のない程度の同族会社の株式を持っている場合、その人にとって株式の価値は会社の支配権よりも配当をもらえるという点にあります。こういう場合は、「例外的評価方式」という計算方法で評価されることになるのです。

 また「例外的評価方式」の場合は、必然的に「配当還元方式」という方法で具体的な計算をしていくことになりますが、「原則的評価方式」の場合は、さらに細かい判定が必要になります。

 「原則的評価方式」の場合、会社の規模によって計算の方式が違ってきます。たとえば、大会社であれば「類似業種比準価額方式」になります。小会社は「純資産価額方式」か「併用方式」のうち、有利な方を選択できます。ちなみにこのときの会社の規模は、従業員数、総資産価額および売上高によって判別されます。

 一般的に「原則的評価方式」での計算は株価が高くなり、「例外的評価方式」での計算の方が株価が低くなります。

 これはなぜかというと、株式を評価する要素が方式によって次のように異なるからです。

 「例外的評価方式」の「配当還元方式」は、株式の価格を評価する要素が配当しかありません。これに対して、「原則的評価方式」は、配当・利益・純資産という三つの要素を使って計算する仕組みになっているのです。

 具体的に説明すると、「類似業種比準価額方式」は、同じような業種の大会社の平均株価をもとにして株価を計算します。また「純資産価額方式」は、会社を清算した場合に株主に分配される正味財産の価値で株価を計算し、「併用方式」は文字どおり、この二つの計算方式を併用して計算を行なうものです。

 中でも、赤字でない会社の場合は「純資産価額方式」が、もっとも高い価格になりがちです。これは、他の会社と比較することなく、会社が持っている純資産のみで株価の判断をすることになるからです。「類似業種比準価額方式」と「併用方式」に関しては、配当・利益・純資産の3点で他の会社と比較し、その会社に魅力があるかどうかを判断します。つまり、利益が出ている会社でも、他の会社と比較して魅力が小さければ、それだけ株価も低くなります。しかし、「純資産価額方式」は他の会社と比較されることがないので、毎年の利益の積重ねが株価を高くしてしまうというわけです。


■同族会社の相続税対策とは?

 それでは、具体的な相続税対策について解説していきましょう。


1)

配当還元方式が使える人に、株式を贈与・遺贈する

 利益が出ている会社や資産の含み益を抱える会社の相続税対策としては、原則的評価方式を使う株主から、一般的に株価が安くなる配当還元方式を使える親族等に、生前贈与または遺贈する方法が考えられます。


2)

従業員持株会を活用する

 従業員持株会がある会社では、これを使った相続税対策があります。純資産価額を下げる方法としては、第三者割当増資(株主であるかないかに関わらず、特定の第三者に「新株引受権」を付与して新たに発行する株を引き受けさせるというやり方の増資)があります。これを従業員持株会に対して行ない、

 株式数を増やすのです。株式数を増やすことで、一株あたりの単価を引き下げることが可能です。


3)

配当の額を安くする

 株価を評価する要素に配当を含んでいる「類似業種比準価額方式」と「配当還元方式」に関しては、配当の額を安くすることが株式評価額の減額につながります。


4)

含み損を計上する

 会社が所有する資産が含み損を抱えているケースも少なくないと思います。こういう場合、その資産の含み損を実現させる、つまり売却損を出せば利益が減少するので「類似業種比準価額方式」での対策に有効です。


5)

特定同族会社株式についての相続税の課税価格の計算の特例

 被相続人(相続人が相続する財産などの元の所有者、つまり亡くなった人)の親族が、相続により取得した同族会社の株式については、税金が軽減される特例があります。

 相続人である親族が引き続き、その株式を有し、役員としてその会社の経営に従事するなどの一定の要件を満たせば、相続税の課税価格の10%を減額することができます(10億円が限度)。


6)

贈与についての特例の活用

 生前贈与で相続対策をすることも考えられます。通常の贈与の場合、贈与を受ける人には1暦年間について110万円の非課税枠があります。これを超えるときに、その超えた分の金額に対して贈与税が課税されます。

 しかし、相続時精算課税制度という制度があり、65歳以上の親から20歳以上の子に対する贈与であれば、2500万円まで無税で財産を贈与することができます。2500万円を超えた場合には、その超えた金額の分に対して20%の税率で贈与税が課されます。

 そして、後で相続が発生したときに、相続財産にすでに生前贈与をした財産が贈与価額(生前贈与をしたときの株価)で組み込まれ、相続税として精算されるという仕組みになっています。

 相続税は、相続が発生した時点での相続財産の時価によって課税されます。ですから株価が今後上昇していくことが見込まれる場合は、株価がまだ低い段階で贈与しておくのが得策でしょう。後で株価が値上がりした際の相続には、贈与価額すなわち株価が低かったときの価額で組み入れられるので、税額が抑えられるからです。ただし、逆に相続発生時に株価が下がっていた場合は、この対策は逆効果になってしまいます。

 また、この制度を使って贈与を受けた同族会社株式についても、相続人が一定の要件を満たしていれば、5)の特例の適用を受けられます。


■相続対策で経理担当者が気を付けたいこと


1)

資産の時価に気を配る

 同族会社の株式評価については、会社の所有する資産の時価が大きく影響してきます。ですから、日頃から時価に気を配る必要があるでしょう。また、顧問税理士などの手を借りて年に1回は株価を算定し、大まかな金額を把握しておくことも大切です。

 相続税対策として贈与等を検討している場合は、大まかではなく正確に資産や株価の金額を計算しなければなりません。それには会社が保有している資産の時価が分かる資料等が必要になりますが、これについては顧問税理士などの専門家の指示を仰いでください。


2)

過度の利益圧縮に要注意

 相続税対策として株価を下げたいばかりに会社の利益を必要以上に圧縮してしまうと、取引金融機関との関係が悪化し、融資などを受けづらくなるなどの影響が出る恐れがあります。普段の会社経営とのバランスを考えた相続税対策をするようにしてください。

 また、利益や配当が株価に影響を与えるということは、常に頭に置いておく必要があります。


3)

株主名簿の整備

 配当を行なわない場合には、株主名簿の作成がおろそかになりがちです。名簿がない状態で贈与等を繰り返していると、誰がどれだけの株式を所有しているのかが分からなくなる恐れがあります。また従業員持株会を管理したりするためにも、株主名簿はきちんと整えておきましょう。

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 相続や贈与は頻繁に起こることではない上、仕組みが複雑なので経理ウーマン1人で対策を行なうのは困難です。税理士などの専門家に協力してもらい、スムースな対策を進めてください。

〔月刊 経理WOMAN〕