「役員賞与・給与」の税務処理
   
作成日:08/23/2006
提供元:月刊 経理WOMAN
  


事前届出が損金算入の要件に!?
「役員賞与・給与」の税務処理
―これからはここにご注意!




 平成18年度税制改正により、税務上損金に含まれる役員給与の範囲が変更されました。

 これにより、従来は原則損金不算入として処理されていた役員賞与についても、支給する額を事前に届出た場合には損金として認められることになります。

 損金不算入であれば、役員賞与を支給した法人と、受け取った役員(個人)との両方で税金が発生することとなりますが、損金算入となれば、支給した法人においては税負担額が軽減されます。事前届出の有無によって税負担額に影響を及ぼすことになるわけです。

 ここでは、改正された役員給与の税務処理について、とくに「事前届出制度」を中心に解説していきましょう。

■損金算入となる役員給与の範囲

 役員給与のうち、税務上損金として認められるものは、1ヵ月以下の一定期間ごとに支給し、かつ、各支給時期における支給額が同額である給与です(定期同額給与)。つまり、毎月一定額を支給する通常の役員報酬であれば、特段の制約を受けることなく税務上損金に含めることができます。

 ただし、不相当に高額な役員給与であれば、たとえ定期同額であっても損金算入は認められませんのでご注意ください。

 また、定期同額給与以外に、次の給与についても損金算入が認められます。


1)

事前確定届出給与…事前に確定した額をもって所定の時期に支給するもの

2)

利益連動給与…同族会社以外の法人で、利益に連動して算定されるもの

 事前確定届出給与とは、事前に支給時期、支給額を確定し、かつ、税務署にその確定額等の届出を行なった役員給与をいいます。

 通常、会社が役員に対して報酬を支給する場合、それが毎月一定額であれば、前述の定期同額給与に該当しますが、賞与については定期同額となりません。しかし、定期同額でない役員賞与については、この事前届出を行なうことにより、損金に含めることができるようになるわけです。

 一方の利益連動給与は事前の届出等を要しませんが、その算定方法について、報酬委員会の決定等の手続きが必要であるほか、有価証券報告書への記載が求められます。

 同族会社以外の法人で、報酬委員会や有価証券報告書のある法人が対象ですので、どちらかといえば大会社向けの制度となります(以下、本稿では利益連動給与についての解説は割愛させていただきます)。

 このように、損金算入の役員給与の範囲が変更されたことにより、これまで原則損金不算入であった役員賞与について、一定の条件を満たした場合には損金として認められる一方、これまで損金として処理していたものについて、届出等をしなければ損金不算入となるなど、税務処理の変更に注意する必要があります。


■事前確定届出給与のポイント

 これまで、役員賞与は原則損金不算入として取り扱われていました。改正後においても、定期に同額支給する通常の役員給与(定期同額給与)とは別に支払う役員賞与は損金に含めることができません。

 しかし、前述のとおり定期同額給与以外の給与等について、事前に支給時期および支給額を確定している場合には、それを税務署へ届け出ることにより、損金として認められることとなります。上手に活用できれば会社にとってのメリットは大きいわけです。

 事前確定届出給与の手続きのポイントは、次の3点です。

1)支給時期・支給額の確定

 事前確定届出給与は、定期同額給与以外に支給する給与の額について、その「支給時期」および「支給額」を適正な手続きを経て事前に確定させる必要があります。

 適正な手続きとは、株主総会の決議等、役員に対して支給する額について、法に則った適正な手続きをいいます。会社法においては役員の職務に対する対価の額は、定款に定めがない場合には株主総会の決議により決められることとなっていますので、通常は決算後に開かれる定時株主総会の決議によって、「支給時期」と「支給額」を確定させるわけです。

 当然ですが、定期同額給与についても、同様の手続きを経て確定させる必要がありますので注意してください。

2)届出の提出と職務の執行

 1)で確定した金額等については、職務執行開始の日と、会計期間開始の日から3ヵ月を経過する日とのいずれか早い日までに、納税地の所轄税務署長へ届出が必要となります。

 したがって、少なくとも役員の職務執行開始時点においては、支給時期・支給額が確定され、税務署に対して届出がされている状態となるわけです。

 提出期限および届出内容については後述を参考にしてください。

3)事前確定届出給与の支給

 事前に確定した支給時期において、確定額を支給することとなりますが、「確定した額」にもとづいて支給するものですので、実際の支給額が異なることのないように注意が必要です。

 事前届出制度は、損金算入枠を届出るものではなく、確定した額を事前に届け出るものです。

 したがって、100万円で届出をした場合であっても、「100万円までは損金算入できる」という性格のものではありません。「100万円を支給することが事前に確定し、かつ、実際に100万円支給するもの」でなければ事前確定届出給与に該当しないことになります。

 なお、手続きの流れは図のとおりです。

図 事前確定届出給与の手続きフロー


■事前届出の提出期限とその内容

 前述のとおり、事前届出は・職務執行開始の日、または・会計期間開始の日から3ヵ月を経過する日までのいずれか早い日までに提出する必要があります。

 なお、ここでいう職務執行開始の日とは、定時株主総会の日となると考えられます。

 会社法では、役員の選任は株主総会決議によることになりますし、役員に対する職務執行対価の額(給与)についても、定款に定めがない場合には株主総会決議により決定されます。このような観点からすると、定時株主総会の日をもって職務執行開始の日として問題ないようです。

 したがって、6月決算法人で9月25日に定時株主総会を開く場合には、事前届出の提出期限は次のとおりとなります。


1)

会計期間開始の日から3ヵ月を経過する日…9月30日

2)

職務執行開始の日(通常は株主総会日)…9月25日

3)

1)と2)のいずれか早い日…9月25日

 ただし、9月25日に定時株主総会を開いた場合であっても、翌月の10月1日以降の役員に対する給与を定めるケースも考えられます。このような場合には、職務執行開始の日を10月1日として問題ありません。

 また、事前届出の内容については、次の項目を記載しなければなりません。


1)

事前確定届出給与の対象となる役員の氏名・役職

2)

事前確定届出給与の支給時期および支給額

3)

支給時期・支給額を定めた日およびその機関

4)

職務執行開始の日

5)

定期同額給与として支給しない理由および・を支給時期とした理由

6)

1)の役員に対して事前確定届出給与以外の給与を支給する場合における、その他の給与の支給時期および支給額

7)

直前の会計期間において、1)の役員に対して支給した給与の支給時期および支給額

8)

1)以外の役員に対する給与の支給時期および支給額

9)

その他参考となるべき事項

 このように、事前届出を行なう場合には、役員給与に関する細かい情報まで記載して提出することになります。

 記載するのは事前確定届出給与に該当するものだけでなく、定期同額給与となるものについても記載しなければなりません。また、事前確定届出給与の対象以外の役員についてまで記載が求められます。

 記載項目も比較的多いものとなっておりますので、専門家等に相談するなどして、間違いのない提出をすることが大切です。


■役員給与ケーススタディ

1)事前届出金額と異なる金額を支給した場合

 事前確定届出給与は、事前に届出をした金額(および時期)にもとづき支給する必要があります。

 したがって、届出額と実際支給額が異なる場合には事前確定届出給与に該当しないこととなりますので、その支給したすべてが損金不算入となるものと考えられます。

 増額分あるいは減額分のみ損金不算入となるわけではない点にご注意ください。

 たとえば、100万円支給する旨の事前届出をしたけれども、実際には120万円支給したとします。届出額より20万円の増額ですが、損金不算入となるのは20万円ではなく120万円すべてとなるわけです。

2)年に数回に分けて役員給与を支給する場合

 役員に対し、年に数回に分けて役員報酬を支給するケースがあります。

 これまでは、その支給が役員報酬に該当するものであれば、原則損金として認められてきました。

 しかし、改正により、定期同額給与以外に支給されるものについては、事前確定届出給与(あるいは利益連動給与)に該当しなければ損金として認められません。

 したがって、このような支給方法を採っている場合には、あらかじめ支給時期・支給額を定めて事前届出することが必要となります。

 また、年数回に分けず、毎月同額支給するよう、支給方法を変更することも考慮すべきでしょう。

3)定期同額給与を改定する場合

 定期同額給与を改定する場合、会計期間開始の日から3ヵ月を経過する日までにその改定がされる必要があります。前述した事前確定届出給与の場合と同様、原則として職務執行開始までに定められたものであれば、定期同額給与に該当することとなります。

 また、経営状況の悪化等やむを得ない事情により、支給額を減額改定した場合であっても、その改定前と改定後でそれぞれ定期同額であれば、定期同額給与として損金算入されます。

 会計期間開始の日から3ヵ月を経過する日までの改定、あるいは経営状況の悪化等による改定以外の改定については、原則、定期同額給与として認められませんのでご注意ください。

4)役員給与の増額改定による一括支給

 定時株主総会により、役員報酬の額を増額改定した場合、期首から株主総会までの期間(遡及分)に相当する増額分を一括して支給する方法があります。

 これまでは、増額改定による一括支給分については、税務上損金として認められていましたが、改正後においては損金として認められません。

 前述の・にあるように、定期同額給与として認められるものは、原則として職務執行開始前にあらかじめ定められているものです。

 増額改定により、過去に遡及して支給するものについては、いわば事後的に確定したものですので、定期同額給与とならない点に注意してください。

5)使用人兼務役員の場合

 使用人兼務役員に対して支給する給与・賞与の場合、使用人分については事前届出の必要はありません。

 事業年度の中途において査定等により給与等が変更された場合であっても、それが使用人分であれば定期同額給与とは関係なく処理されることとなります。ただし、役員分の給与等については、定期同額給与に該当しなければ損金として認められない点に注意しなければなりません。

 もちろん役員分の賞与として支給する場合には、事前届出によるものでなければ損金不算入として取り扱われます。

◇     ◇

 今回の税制改正で損金算入となる役員給与の範囲が改定されたことより、損金として認められる役員給与が従来にくらべて明確になりました。

 一方、定期同額給与に該当しない場合には、事前届出等による場合を除いて損金として認められないなど、その取扱いにはこれまで以上に注意が必要です。

 役員給与が定期同額給与に該当するものであるか、しっかり確認すると同時に、定期同額給与に該当しない支給がある場合には、事前届出制度などを活用して、十分な対策を講じていただければと思います。

〔月刊 経理WOMAN〕