話題の「連結納税制度」のことが30分で分かる講座
   
作成日:02/28/2002
提供元:月刊 経理WOMAN
  


すったもんだの末に4月さかのぼり適用!
話題の「連結納税制度」のことが30分で分かる講座


 昨年(平成13年)の11月22日、塩川財務大臣が連結納税制度の導入を1年先送りする考えを表明し、これに産業界が猛反発したことが新聞・雑誌を賑わせました。その後、平成14年度中の制度実施か延期かの議論が二転三転し、結局のところ、連結納税制度の法案提出・成立は平成14年4月以降で、制度成立後はさかのぼって平成14年4月から適用スタートという“変則技”を使うことで決着しました。

 このように大きな議論の的となり、難産の末誕生することとなった連結納税制度ですが、ここでは、連結納税制度の内容や影響、そしてなぜこの制度が誕生するまで紆余曲折を経る必要があったのかについて、分かりやすく解説していきましょう。

連結納税制度とは?

 連結納税制度とは、企業グループの一体性に着目して、企業グループ内の個々の法人の所得と欠損を通算して所得を計算するなど、企業グループをあたかも一つの法人であるかのように捉えて法人税を課税する仕組みです。

 たとえば、A社が、B社の発行済株式の100%を保有して、B社をいわゆる完全子会社としている場合、それぞれの企業が個別に税務申告するのではなく、両社の所得を合算して一緒に税務申告することをいいます。

 この連結納税には、大きく分けて二つの種類があります。一つは、連結対象グループ内の課税所得の合算を認める「所得通算型(狭義の連結納税)」と、もう一つは、親子会社間の損益の振替を認める「個別損益振替型」であり、我が国では所得通算型が採用される予定です。なお、連結納税は連結財務諸表に課税するものではないので混同しないようにしましょう(図表1参照)。

図表1 従来の個別納税と新設される連結納税


 なお、新設される連結納税の基本的ルールは次のようになる予定です。


(1)適用範囲は親会社と100%子会社

(2)適用は任意

(3)適用しようとする事業年度開始の日の前日から起算して6月前の日までに親会社とすべての100%子会社の連名で承認申請書を国税庁長官に提出し、承認を受ける必要がある

(4)一旦選択した場合は継続して適用することとされ、連結グループから離脱した法人については、5年間再加入を認めない

(5)連結納税グループ間での内部取引によって生じた譲渡損益は、その資産がグループ外へ移転するときまで繰り延べる

(6)税額の計算は、各法人の所得金額を基礎とし、一定の調整をした上で連結グループ一体としての税額を計算する

(7)税率は、原則として普通法人の税率+付加税2%

(8)納税は親会社が行ない、各子会社は連帯納付責任を持つ

(9)事業年度は親会社の事業年度に統一する

なぜ連結納税制度の導入が望まれたのか?

 会社分割制度、持株会社制導入などによる企業再編が実効的なものとなるかどうかは、「連結納税」の導入が大きなポイントであるといわれています。

 単一の企業内で複数の事業を行なう場合には、一つの事業部で損失が発生すると全体の収益を減らすことになり、結果として税金も減ることになります。これに対して、会社を分割し連結経営体制を採用することにより各会社が個々の事業を行なうと、ある子会社の赤字は他のグループ企業の損益には影響を与えませんから、結果として減税効果を失うことになってしまいます。

 たとえば、A社という一つの企業の中で二つの事業を行なっていたとします。その結果A社の利益は0円で、これに対する税額も0円であったとします。ここで、A社を分割してB社に二つの事業のうち一つを移管したとします。その結果、B社は赤字で税額も発生しませんが、新A社では利益60000が発生し、これに対して税額24000が発生することになります。すなわちA社を分割することによって企業グループ全体の税負担が増加してしまう問題が起こるのです(図表2参照)。

図表2 企業分割による税負担増の問題


 このような企業分割による税負担増の問題は、企業再編を実質的に阻害することになり、これを解決する必要がありました。

 そこで、経済界などから強く要望されていたのが今回の連結納税制度です。連結納税によると、一つの子会社の赤字について、所得が通算されることによりグループ全体の所得に影響を与えるので、企業分割によって減税効果を失うという不利益を解消することができるのです。

 先ほどの例で説明すると、新A社の利益とB社の損失を合算してこれに税率をかけて税額を計算しますから、税額を0円にすることができるのです(図表3参照)。

図表3 連結納税による減税効果


 そのため、分社化等の徹底した組織改革を行なうためにも、従来より連結納税の導入が経済界から強く要望されており、平成10年度税制改正において通産省(現在の経済産業省)からも制度創設の要望が提出されました。

連結納税制度の導入が繰り返し審議されたのはなぜ?

 すでに説明したように、連結納税は事業再編を行なおうとしている企業にとって大きなメリットがあるもので、産業界からも制度創設が要望されていたにもかかわらず、それはなかなか実現されませんでした。

 その理由にはさまざまなものがありますが、何といっても連結納税制度の減税効果が原因です。減税効果は各企業にとっては非常に歓迎すべきことなのですが、反対に国にとっては税収減という頭の痛い問題になります。

 財務省の試算によると、連結納税制度導入による税収減は8000億円とされています。現在30兆円に抑えられている国債発行枠を守りつつ財源を確保するためには、税収を減らすわけにはいかないのが我が国の台所事情です。

 そのため、税収減となる制度を簡単に導入することができなかった経緯があるのです(図表4参照)。

図表4 連結納税制度導入に関する審議の経緯
2000年07月政府税調中期答申で本制度導入を目指す旨を明記
12月与党3党が本制度の2002年度導入を目指す旨を確認
2001年09月財務省が本制度導入による税収減8000億円の試算を政府税調に報告
10月政府の改革工程表に本制度の2002年度導入を目指し検討を進める旨を明記
11月政府税調が総会で本制度導入案を了承
12月・塩川財務相が本制度の導入先送りを表明
・自民税調が本制度の創設を決定


連結納税制度が中小企業に与える影響は?

 連結納税制度は、事業再編等の組織改革を行なっている大企業を中心に要望されていたものであり、残念ながら中小企業にとってあまりメリットの感じられる制度とはいえません。

 強いてメリットをあげるならば、たとえば事業承継を行なう際に会社を分割して複数人に承継させる場合には、グループ会社全体の税額を軽減するために連結納税制度を活用することが考えられます。

 このようなメリットより、むしろ連結納税制度の導入は中小企業にとってデメリットの方が多いかもしれません。連結納税制度導入による税収減を穴埋めするために今後さまざまな税制改正が行なわれ、その結果中小企業にとって増税となる可能性があるからです。

 なお、今年度の税制改正では税収減の穴埋めのために、(1)初年度における新規子会社の加入制限、(2)子会社の連結前繰越欠損金の繰越控除の制限、(3)連結納税制度の選択法人に対する税率2%の連結付加税の導入、など連結納税制度内での税収増措置が盛り込まれています。

 その他に(4)退職給与引当金の廃止、(5)受取配当の益金不算入措置の縮減、(6)特別修繕金の取崩期間の短縮などの法人税の一般的な課税ベースの見直しや、(7)租税特別措置の縮減などで賄うことが決まっています。現実には中小企業にあまり影響の大きな改正はありませんでしたが、今後もこの新制度の動向に注意する必要があるでしょう。