間違えやすい「ソフトウェア」の税務処理Q&A
   
作成日:02/25/2003
提供元:月刊 経理WOMAN
  


よくある疑問にズバリお答えします!
間違えやすい「ソフトウェア」の税務処理Q&A




 パソコンの普及は目覚ましく、ソフトウェアの購入や開発の機会が増えてきました。IT関連の用語は請求書の明細を見ただけでは内容がよく分からないことが多いため、実態を把握してそれに沿った税務処理が必要になります。

 今回はソフトウェアにまつわる税務処理について、よくある疑問を解説します。

Q1
 そもそもソフトウェアの税務上の基本的な処理はどのようになっていますか?
A1
 まずは基本を押さえておきましょう。平成12年4月の税制改正によりソフトウェアを購入あるいは制作した場合には、無形固定資産の「ソフトウェア」という勘定科目で処理をすることになっています。資産に計上して減価償却を行ないます。

 耐用年数は、用途により次の三つに区分されます。1)販売用のもので「複写して販売するための原本」については3年、2)その他「自社利用のもの」は5年、3)「研究開発に使われるもの」は3年で償却します。

 償却方法は定額法ですが、無形固定資産の場合は残存価額がゼロなので、月数按分による均等償却となります。たとえば5年償却は初年度は60ヵ月分の取得月から決算期末までの月数、2年目は60ヵ月分の12ヵ月で計算します。

Q2
 税抜価格で9万8000円の販売管理ソフトと15万円の給与計算用ソフトを購入しました。資産計上の必要はありますか?
A2
 ソフトウェアが減価償却資産に該当することは、Q1でお話した通りです。減価償却資産は取得価額が10万円以上のものは資産計上し、10万円未満のものは少額減価償却資産として全額損金に算入することができます。

 この場合の10万円未満か10万円以上かの判定は、会社が消費税の計算で税抜経理をしているときは税抜価額で判定します。したがって、ご質問の場合会社が税抜経理をしているときは、9万8000円のソフトウェアは資産に計上しないで全額損金とすることができます。一般的には「備品費」あるいは「消耗品費」などの勘定科目で処理します。

 一方、10万円以上のものは資産に計上することになっていますが10万円以上20万円未満の場合には、一括償却資産の損金算入制度により3年で償却することができます。資産の耐用年数にかかわりなく3年間で3分の1ずつ償却するので、耐用年数3年以上のものなら一括償却資産で処理した方が有利です。また、経理上も個別管理をする必要がなく、年度ごとにまとめて償却するので処理が簡単に済みます。

Q3
 パソコンを購入したら、このパソコンには最初から基本ソフトのほか、表計算ソフトなどの応用ソフトが組み込まれていました。請求書の明細を見てもソフトウェア代金として区分されていません。このような場合にもパソコンとソフトウェアに区分して償却する必要がありますか?
A3
 最近のパソコンは、最初からオペレーティング・ソフト(OS)といわれる基本ソフトのほかに、表計算ソフト、ワープロソフトのようなアプリケーションソフトが組み込まれているものが多く見受けられます。

 このうち基本ソフトについては、コンピュータが作動するのに最低限必要なものであり、コンピュータ本体の一部を構成するものと考えられます。また、アプリケーションソフトについては、もともと個別の単価が低いソフトが組み込まれていて、サービスあるいは値引きといった性格のものと考えられます。

 ですから、ご質問のように最初からソフトが組み込まれている場合には、ソフトウェアとして区分はせず、購入価格の全額をパソコン本体の取得価額として減価償却することになります。

 もちろん、パソコン本体の価額とソフトウェアの代金が見積書あるいは請求書などで明らかに区分されているときは、それぞれの資産に区分して計上することになります。

Q4
 システムのバージョンアップは修繕費になりますか? それとも資本的支出になりますか?
A4
 ソフトウェアについての修繕費と資本的支出についての考え方ですが、その所有しているソフトウェアについてプログラムの修正等を行なった場合、その修正等がプログラムの機能上の障害の除去、現状の効用の維持等に該当するときは、その修正等に要した費用は修繕費に該当します。また、新たな機能の追加、機能の向上等に該当する場合には、その修正等に要した費用については資本的支出に該当します。

 IT用語としてのバージョンアップは「ハードウェアやソフトウェアが世代交代され、新しい製品が発表されること」という意味合いで使われていますが、実際には、1)製品の大部分を作り直す大幅なバージョンアップと、2)既存の製品に機能を追加する、または操作性を向上させるなど、それほど大幅でないバージョンアップの二つがあります。

 基本的には、バージョンアップは資本的支出と考えられますが、最近の財務会計ソフトのバージョンアップなどを見ると商法改正に伴なうほんの手直しというようなものも見受けられます。したがって、資本的支出か修繕費かの判断は、個々に判定することになります。

 現実には市販のソフトウェアについては、旧バージョンのユーザーに対して、安価に新バージョンにするバージョンアップサービスが行なわれているのが一般的です。結果として10万円未満で損金算入となるケースがほとんどといってよいでしょう。

Q5
 現在使用している給与計算用ソフトの使い勝手がよくないので、ほかのソフトと替える計画があります。しばらくの間データを残しておく都合から旧ソフトはパソコンに残しておきますが、給与計算は新しいソフトに完全に移行します。償却期間の5年を経過していませんが、税務上の処理はどうすればよいですか?
A5
 ソフトウェアに関しては物理的な除却、廃棄、消滅等がない場合でも、ほかのソフトウェアを利用することになって従来のソフトウェアを利用しなくなったことが明らかな場合には、そのソフトウェアの帳簿価額を除却損として損金に算入することができます。

 ご質問のように償却期間の5年が経過していない場合でも、利用していないことがはっきりすれば、除却処理することができます。有形固定資産で「有姿除却」といって実際に除却していなくても除却損が認められているように、ソフトウェアについても明確に有姿除却を認めています。これはご質問のケースのように、たとえ利用しなくなってもデータのバックアップ等のために、そのデータの記録媒体とともにソフトウェアを保存しておくことが十分考えられるからといえます。

 また、複写して販売用の原本となるソフトウェアについても償却期間の3年を経過する前に、新製品の出現、バージョンアップ等により、今後販売を行なわないことが社内稟議書等や販売流通業者への通知文書等で明らかな場合には除却処理ができます。

 いずれにしても、無形固定資産であるソフトウェアは利用廃止の事実や、ソフトウェアとしての利用価値を失ったというような事実が見えにくいので、客観的な資料を整えておくとよいでしょう。

Q6
 パソコン10台で使用するソフトウェアを20万円で購入しました。取得価額はどのように考えればよいのでしょうか?
A6
 ソフトウェアを個々に購入する場合には、資産計上しなければならないかどうかの判定は、その個々の値段で10万円以上であれば資産計上となることは明らかです。ところが、パソコンが会社に何台もある場合には、ご質問のようにライセンス契約といって、「その会社のパソコン10台で使用する権利の対価として20万円を支払う」というような形態があり、当然に1台ごとに1本ずつ買うよりは数段に安くなっています。この場合に取得価額の判定はどのように考えるかというと、「通常一単位として取引される単位」で判定します。

 つまり、パソコン1台につきソフトウェア1本ということです。ご質問のケースでは10台分を20万円で購入ということですから、1本あたり2万円となり、10万円未満の少額減価償却資産に該当して、全額損金
算入となります。

Q7
 宣伝用のホームページを開設することになりました。制作は他社に依頼して作ってもらいます。ホームページの制作費用はどのように取り扱えばよいですか?
A7
 ホームページの制作を外部に依頼した制作費用は、原則として損金に算入することができます。ホームページは事業内容や商品宣伝のために作成されることが一般的で、その内容は頻繁に更新されるため、その制作費の効果は1年以上に及ぶことはまれだろうと考えられるからです。したがって広告宣伝費で処理するのが一般的でしょう。

 ただし、ホームページの中にはデータベースやネットワークとアクセスできる機能を持っているものもあります。このような高機能なホームページを作るには、データベースやネットワークとアクセスできるコンピュータプログラム(ソフトウェア)の作成が必要となります。この場合には、ホームページの制作費用とは別にプログラムの作成費用を区分して、無形固定資産として計上し5年の耐用年数で償却します。

ワンポイントアドバイス
定額法と定率法の違いって?
 減価償却の方法はいろいろありますが、ソフトウェアなどの無形固定資産や建物については定額法、その他資産は定率法を用いるのが一般的です。

 定額法は償却額が毎年一定で、計算が簡単です。取得価額からスクラップとしての価額(残存価額)を差し引いた金額を耐用年数に渡って均等に償却していく方法です。

 一方、定率法は取得価額から前年度までに計上した減価償却費の合計額を差し引いた残額(期首未償却残高)に、一定の割合を乗じて求めます。ですから、減価償却費の額は初めの年ほど多く、年度が進むにつれて次第に減少していきます。

〔月刊 経理WOMAN〕