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「経済データ」の意味が分かる講座
作成日:
09/26/2002
提供元:
月刊 経理WOMAN
新聞でよく見かける
「経済データ」の意味が分かる講座
●「経済データ」をチェックしよう
新聞を読んでいると、ほぼ毎日のように経済データが報道されています。みなさんも、「○月の鉱工業生産は前月比△・△パーセント増だった」とか、「○~○月期のGDP(国内総生産)は、前期比△・△パーセントのプラス成長になった」といった記事を、どこかでご覧になったことがあるのではないでしょうか。
経済データは、景気や物価など、経済の動きを把握するために各省庁や日銀(日本銀行)、あるいは業界団体などが毎月、または四半期に一度公表しています。政府や日銀は、多くの経済データの動きを調べることによって足元の景気判断を行ない、必要であれば政策を変更します。
しかし、経済データは政府や日銀にとって重要なだけではありません。経営戦略を練る企業の経営者、さらには売上や収益の動向を常に把握しておかなければならない経理担当者のみなさんにとっても、ぜひチェックしておくべきものといえます。
ただし、世の中のすべての経済データを細かく見ていく必要はありません。
重要な経済データは、新聞やテレビのニュースがきちんと報道してくれますので、その報道の内容を理解するだけでもかなりのことが分かるはずです。
そこで以下では、各種の指標の中でもっとも重要だと思われる代表的な経済データをいくつか取り上げて、その読み方を簡単に解説していきましょう。
●GDP(国内総生産)
経済の動きをもっとも包括的に示した経済データが、この
GDP(国内総生産)
です。これは、その名前のとおり、財やサービスが一定期間中に国内でどれだけ生産されたかを示したデータです。内閣府が四半期に一度公表しますが、公表日の夕刊各紙では、必ず一面で大きく報道しています。
このGDPの伸びが大きくなれば、全体として景気が上向いていると判断され、マイナスになれば景気は悪化していると判断されます。ただし、GDPの動きを見る場合、物価の変動を取り除いた「実質GDP」の動きに注目するのが普通です。というのも、物価が上昇していれば経済活動の水準がまったく同じでも、金額が膨らんでしまうからです。
GDPは、国内で生産された財やサービスの総額を、個人消費や設備投資、公共投資など、人々がどのような形で購入したかを計算していきます。そのため、「○~○月期は、個人消費は好調だったものの、設備投資が落ち込んだために、結局マイナス成長になった」といった説明がされるわけです。
世の中には毎月公表される様々な経済データがありますが、内閣府の担当者はそれらを総動員して、個人消費や設備投資など、GDPを構成する各項目の額を計算し、それを積み上げてGDPの数字を作成しています。つまりこの指標は、冒頭で述べたとおり日本経済全体の動きをもっとも幅広く捉えたデータといえるでしょう。
ただしGDPは、公表されるタイミングが遅いというのがこれまで問題になっていました。というのも、四半期の終了後、2ヵ月と7日前後が公表日となっていたため、その分タイムリーな経済データとはいいにくい側面があったのです。
そこで内閣府は、今年4~6月期分からGDPの計算方法を見直し、公表時期を若干早めています。
●景気動向指数
世の中には様々な経済データが月次ベースで公表されています。そこで、その中から景気の動きを敏感に反映する代表的な経済データを集め、いわば「ダイジェスト版」を作るというのがこの
景気動向指数
の発想です。
景気動向指数には、(1)
先行指数
、(2)
一致指数
、(3)
遅行指数
の三種類があります。
(1)
先行指数
の取りまとめ方を説明すると、各種指標の中から景気の動きを先取りして示すことが知られている経済データを11集めます。そのうち3ヵ月前と比べて改善したものの比率を計算し、それをパーセント表示したものを先行指数とするわけです。つまり、たとえば11のうち六つの指標が改善していれば、6÷11という計算から54.5となります。
また、(2)
一致指数
とは、景気の動きとほぼ一致して変化する指標を、最後の(3)
遅行指数
とは遅れて変化する指標を集めて、先行指数と同じ方法で計算するわけです。ちなみに、一般的に注目度が高いのは、三つのうち(1)
先行指数
と(2)
一致指数
の動きです(図1参照)。
この景気動向指数は、細かい経済データの動きをまとめて見る指数なのでなかなか便利なデータです。新聞などでも大きく取り上げられることが少なくありません。
見方としては、50が一応の目安となっており、それを3ヵ月連続で上回れば「景気は拡大局面に入った」、逆に3ヵ月連続で下回れば「景気は後退局面に入った」と判断します。
ただし、公表時期が2ヵ月遅れとなっているので、GDPと同様、タイムリーな経済データとはいえないところがやや難点です。
●短観(企業短期経済観測調査)
日本の経済指標の中で、GDPと並んでもっとも注目されているのが、日銀が四半期に一度公表するこの
短観(企業短期経済観測調査)
です。
これは、日銀が全国の主要企業を対象に行なっている一種の「アンケート調査」(企業サーベイ)です。その項目は、景気判断、在庫や雇用の状況、財務状況、資金繰りなど多岐に渡っていて、企業の判断が集計されています。
この短観の中でもっとも注目されるのが「業況判断指数」です。これは、日銀が各企業に対して景気の状況について、「良い」「さほど良くない」「悪い」のどれかを選ばせ、「良い」と答えた企業の割合から、「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた数字を指します。たとえば、「良い」と答えた企業、「悪い」と答えた企業の割合がそれぞれ30パーセント、10パーセントであれば、業況判断指数は20となります。もちろん、この指数が高くなれば高いほど景気がよいと判断されることになるわけです。業況判断指数はさまざまな業種ごとに公表されていますが、そのうちもっとも注目されるのは大企業のうち製造業の指数です(図2参照)。
短観には、このほかにも重要な情報が含まれています。たとえば在庫や雇用人員の水準、資金繰りや金融機関の貸出し態度を企業がどのように判断しているか、そして売上や経常利益の見通し、設備投資計画なども調査されています。景気判断にとってきわめて貴重なデータです。
これらは新聞などでは業況判断指数の動きが大きく報道されますが、日銀のホームページにアクセスすると、詳細な情報を入手することができます。
●マネーサプライ
世の中にどれだけのお金が出回っているかをまとめたものが、この
マネーサプライ(貨幣供給量)
です。日銀が毎月中旬に公表しますが、前年の同じ月に比べてどれだけ増加したか、という形で見るのが一般的です。
日本でマネーサプライという場合、もっとも注目されるのは「M2+CD」といわれる指標です。M2とは、現金に当座預金や普通預金、定期預金を加えたもの、CDは企業などが対象となる譲渡可能な大口の預金で、現在このM2とCDを足した額は670兆円程にのぼっています。ただし、郵便貯金はこのM2+CDには含まれていません。
日本銀行は現在、市場金利をほぼゼロパーセントに誘導するとともに、お金をどんどん世の中に供給するという「量的緩和」政策を実施しています。この場合、実際にはお金がどこまで増加しているかが重要なチェックポイントとなりますので、このマネーサプライの動きにも注目する必要があるわけです。
残念ながら、日銀の「量的緩和」政策にもかかわらず、このマネーサプライはこれまでのところ大きく伸びていません。銀行が企業に対する貸出しを抑制しているので、お金が世の中に円滑に流れていないからです。逆にいうと、このマネーサプライが順調に伸びるようになれば、景気拡大がお金の面でも確認できることになります。
●消費者物価指数
物価の動きを示す経済データもいくつかあります。そのうち消費者段階で物価の動きを見たものが、総務省が毎月公表している
消費者物価指数
です。
最近の日本では「デフレ」という言葉が定着していますが、その状況をもっとも鮮明に映し出している経済データの一つがこれです。消費者物価指数は前年の同じ月からの変化率で示すのが普通なのですが、このところ、それが前年の水準を割り込む、つまり上昇率がマイナスとなる状況が続いています。
消費者物価指数を算出するには、まず基準時点を決め、そこで消費者がどのような商品やサービスを、どのような比率で購入しているかを調べます。そして各時点で、それぞれの商品やサービスの値段を基準時点における購入比率で掛け合わせます。こうして得られた数字がどのように変化しているかを調べて、経済全体の物価の動きを探るわけです。
ただし、生鮮食料品は天候によって値段が大きく変動します。そのため、生鮮食料品を除いた物価の動きを見るということもよく行なわれています。実際、日銀も、生鮮食料品を除いた消費者物価指数の前年からの上昇率がゼロになるまで、「量的緩和」を続けるとしています。
また消費者物価指数は、毎月の月末に前の月の数字が公表されますが、同時にその月の東京都区部の数字も速報値として公表されます。
◇ ◇
いかがでしたか? ここでは重要な経済データの概略と、見方のポイントを解説してきました。しかしここで取り上げた指標は、数あるデータの中のほんの一部にしかすぎません。景気動向を示す経済データとしては、このほかに鉱工業生産指数や機械受注、家計調査、百貨店販売額、また、物価動向を示すものとしては卸売物価指数などがあります。
もちろん、すべての経済データをウオッチするのは大変ですし、たとえそれらを駆使しても正確な景気判断を下すことは容易ではありません。しかし、経済は毎月変化しています。私たちが社会に出て働いている以上、経済の動きをまったくチェックしなくてよいということはないはずです。
そこで、やはり新聞が大きめの見出しで報道するような、重要な経済データの記事には、一応は目を通しておくことをお勧めします。それを繰り返していくうちに、知らず知らずのうちに経済の動きが把握できるようになってくるでしょう。
〔月刊 経理WOMAN〕