「経理の仕事」に関係する法律知識
   
作成日:06/26/2003
提供元:月刊 経理WOMAN
  


記名と署名はどう違う? 売掛金の時効は何年?
「経理の仕事」に関係する法律知識




 普段、何気なく処理している経理業務の中にも、法律の問題が絡む事柄があります。また、最近では新しい法律の成立や取引形態の変化等で、新たに知っておかなければならない法律知識もあるでしょう。

 そこでここでは、経理の仕事にまつわる法律知識を、Q&Aで分かりやすく解説します。



Q1
 経理の仕事には、あらゆる種類の文書がつきものですが、そもそも文書の「原本」と「コピー」とは、どう違うのですか?

A1
 原本とは、最初に作成されたオリジナルの文書のことをいいます。つまり、印鑑を押したものであれば朱肉の色がついた文書のことを指します。

 一方のコピーとは、日本語でいえば「謄本」のことです。これは読んで字のごとく、複写した文書のことをいいます。

 では、原本と謄本の違いは何でしょうか。

 それは、「証明力」です。仮に裁判になったとき、証拠として文書を提出する場合、原本の証明力を100とすると、変造することも可能な謄本は、一般に70程度の証明力しかないことになります。

Q2
 署名と記名の違いを教えてください。

A2
 皆さんも普段の生活や仕事の中で、サインを求められる機会が少なからずあるはずです。サインのことを日本語では「署名」や「記名」などといいますが、そもそも「署名」と「記名」は、どのように違うのでしょうか。

 まず「署名」ですが、これは「自分の名前を手書きすること」を指します。手書きするということは自分自身の証明でもある筆跡を残すことにもなり、万一裁判等で問題になったとき、本人のサインだという動かぬ証拠となります。

 一方の「記名」とは、一般に、「署名」以外のサインすべてのことを指します。つまり、手書きでなくてもスタンプやワープロ印字された文字でもよいわけです。eメールの最後に名前を入れることを「署名」といったりしますが、こう考えると、本来は「記名」にあたることが分かるでしょう。

 「署名」と「記名」の相違点ですが、Q1の原本とコピーの関係のように、この二つでは証明力が異なります。当然、本人の筆跡が残る「署名」の方が証明力が高く、「記名」はそれよりも劣るわけです。

 実務上、「記名」をする際に捺印が求められる場合が多いのは、こうした理由からです。また、その際の印鑑も、実印(役所に届け出ている印鑑)であることが望ましいとされています。

Q3
 領収書・請求書・契約書に必ず必要な記載事項を教えてください。

A3
 原則として、領収書・請求書・契約書ともに、法律で決められた記載事項はありません。

 というのも、そもそもこれらが企業間で取り交わされるのは、起こり得るトラブルを防止し、また万一問題が起きた際の対策を講じておくためです。そう考えると、実務上、これらの書類に記載しておいた方がよい事柄が自然と理解できるのではないでしょうか。

 まず、共通する基本事項は次の4点です。

1)WHO「誰が」→(株)○○商事(自社名)
2)WHOM「誰宛に」→△△(株)(相手先の会社名)
3)WHEN「いつ」→○年○月○日(日付)
4)WHAT「どのような内容を書いたか」→金×××円(金額)

 領収書の場合は、この4点が明記されていれば万全でしょう。

 また、請求書ですが、本来は先の基本事項が明示されていればよいのですが、企業間では継続取引(毎月同じ製品が、ほぼ同量、反復的に取引されること)が多いため、プラス1W、

5)WHY「どういう理由で請求しているか」→平成○年○月の売買代金として(請求の根拠)

を追加するとモレがありません。

 さて、最後は契約書です。先ほど「(契約書等の)文書は起こり得るトラブルを防ぐために取り交わす」、つまり事故防止のために取り交わすのだと説明しましたが、契約書には領収書や請求書以上の対策が必要になります。ここでは、会社間の取引でよく見られる売買契約に限定して考えていきましょう。

 そもそも売買契約とは、物と金銭を交換する取引のことです。こうした取引の際に、起こり得るトラブルとはどんなことか、また問題が起こった際、どんなことを事前に決めておけばスムースに解決するかを考えればよいのです。

 そこで、契約書には以下の事項を明記しておきましょう。

1)物(商品)の特定
2)交付時期
3)交付方法
4)交付場所
5)金銭の金額
6)支払い時期
7)支払い方法
8)支払い場所

 この八つのポイントには、前述の「4Wプラス1W」の要素がすべて網羅されていることが分かりますね。この他に、次の4点も明記しておけばより万全です。

9)交付前に物が滅失した場合の処理
10)物が約束と違っていたときの処理
11)遅延利息や違約金
12)管轄裁判所(トラブルが発生し、裁判に至った場合の裁判所の特定)

 また、継続取引の契約書の場合、「即時解除条件」(相手先に信用不安が起こった場合には契約を即時解除できる条件)や「期限の利益の喪失約款」(相手先に信用不安が起こった場合には、債務全額につき一時に支払わなくてはならないという条件)を定めておくとよいでしょう。

Q4
 古くからの付き合いがある取引先とは、契約書を取り交わしていません。そもそも、契約書がない契約は有効なのでしょうか?

A4
 契約書を相手先と取り交わすのは、1)約内容の明確化と、2)一裁判に至った際の証拠になる、という二つの目的があります。しかし、これらはどちらも法律で決められた契約成立のために必要な要件ではありません。

 そもそも契約は、(原則として)当事者同士の意思の合致で成立するものです。したがって、契約書を取り交わしていない契約でも有効といえます。

Q5
 一度取り交わした契約が無効・取消しになるのはどんなケースですか?
 また、契約が解除になる場合も教えてください。

A5
 まず、契約が「無効」あるいは「取消し」になるのは、錯誤(内容に間違いがあった)があった場合や、詐欺(騙された・脅迫された)にあった場合のみです。となると、通常の企業間の取引で、契約が無効・取消しになるのは極めて稀なケースだといってよいでしょう。

 会社の取引でよく見受けられるのは、「契約の解除」ではないでしょうか。とくに昨今では、始めはきちんと契約を履行するつもりでいたのに、会社の業績の悪化等でそれができなくなる、つまり債務不履行になる会社が後を絶ちません。

 そこで、約定日を過ぎても納品しない等、相手先が契約の履行不能になった場合は、契約を解除することになります。その際、Q3でも述べたとおり、契約書に即時解除条件や違約金を定めておけば、それ以上無用なトラブルを避けることができます。

Q6
 売掛金には「時効」があると聞きましたが、何年で時効になるのですか?

A6
 「時効」とは、時間の経過によって権利の取得(取得時効)や消滅(消滅時効)をもたらす制度です。これらは対象になる事物の種類によって、成立年数が異なってきます。

 ご質問の「売掛金」を、商品の販売代金だと考えると、法律上の「短期消滅時効」に該当し、なんと2年で時効が成立してしまいます。この他、建築の請負代行や、運送代金なども「短期消滅時効」に該当し、前者は3年、後者に至っては1年です。よく調べてみると、皆さんの会社にもすでに時効に差し掛かっている売掛金があるのではないでしょうか?

 ただし、時効には「中断」というものがあります。この「時効の中断」とは、いわばストップウォッチのリセットボタンと同じ役割を果し、中断事由に当てはまることが起これば、進行していた時効期間をゼロに戻すことができます。

 時効の中断事由に該当する要件は次の3点です。

1)差押さえ・仮差押さえ
2)承認
3)請求

 経理担当の皆さんに係わりのある中断事由としては、2)承認と3)請求の2点ではないでしょうか。

 2)承認とは、債務者側が「間違いなく○○の債務を負っている」と了承することを指します。また、債務のうち一部弁済をすることも承認にあたります。

 また、3)請求とは、実際に裁判を起こす裁判上の請求と、相手先に督促状を送る等の裁判外の請求とがあり、裁判外の請求の場合は、6ヵ月以内に実際の裁判を起こさなければなりません。万一起こさなかった場合は、時効の中断をしなかったことになってしまいます。

 時効にかかってしまった代金は、その後請求することはできません。しかし、時効には「援用(債務者が時効の権利を行使すること)しなければ成立しない」という側面もあるため、債務者が時効の成立を知らずに支払いをした場合は、代金を受け取ってもよいのです。また、総額の一部でも支払ってもらえれば、この行為は時効成立後でも「中断事由」に該当し、またゼロから時効期間をスタートさせることができます。

Q7
 最近、当社でもインターネットでの取引を開始しました。eメールで注文を受けているのですが、そもそもメールは発注書の代わりになるのですか?
 また、インターネット取引で注意しなければならない点を教えてください

A7
 パソコンの普及で、現在では多くの会社でインターネットを使った取引を行なっています。ただし新しい取引形態なだけに、法律の見解で戸惑うケースも少なくありません。

 まず最初のご質問である、「eメールは発注書の代わりになるか」ということですが、eメールは文書ではありませんので「発注書」とはいえません。ただし、Q4で解説したとおり、受発注契約は、書面を取り交わさなくても、当事者間の合意があれば締結できます。したがって、厳密にお答えするならば、eメールは発注書ではありませんが、発注書の「代わり」は十分果たせる、といえるでしょう。

 さて、インターネット取引で注意すべき点ですが、次の3点は十分注意していただきたいものです。

1)重要な契約は別途契約書を作成し、郵送等で取り交わす

 メールのやり取りで受発注契約が成立するというのは前述のとおりですが、ネット取引ではインターネットの持つ、「匿名性」や「不確実性」がたびたび問題になっています。

 そこで、重要な契約の場合は、別途正式な契約書を作成し、郵送等で取り交わすとよいでしょう。

2)IDやパスワードの管理に注意する

 インターネット上では書面のやり取りができないため、こちらが署名や捺印をする、または取引先にしてもらうことは不可能です。そこで、この署名・捺印に代わるのが、IDやパスワードを使っての本人確認なのです。

 しかし実際のところ、このIDやパスワードの管理が甘い会社は少なくありません。これらが誰でも知り得る状態だということは、会社の実印が誰でも手に入れられる場所に放置されているのと同じです。

 また、自社が顧客のIDやパスワードを管理している場合も、情報の漏洩等の問題が起こらないよう、十分な注意が必要です。

3)契約成立時点を知っておく

 eメールでの取引では、いつの時点で「契約が成立した」といえるのか、その判断が難しいところです。当然従来は、法律でもこうした問題を解決する定めはありませんでした。

 しかし、平成13年に成立した新法(「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」)では、電子的な方式による契約(つまりeメール等による契約)の場合、申込者に相手方からの承諾メールが到達した時点で契約が成立すると定められました。また、いつの時点で「承諾メールが到達した」と定義するかというと、原則として「申込者がメールサーバーにアクセスした時点を持って到達と見なす」と定められています。

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 普段何気なく処理している作業も、関係する法律知識を持っていれば無用なトラブルを避けることができます。以上にあげたポイントを、ぜひ皆さんの日ごろの業務にも役立ててください。

〔経理WOMAN〕