「値引き・割引」があったときの税務処理10問10答
   
作成日:05/26/2004
提供元:月刊 経理WOMAN
  


あなたは知らないままに間違って処理していませんか?
「値引き・割引」があったときの
税務処理10問10答




 取引において、値引きや割引はよくあることですが、税務処理を間違えると会社の利益に直接影響してきます。また、取引先とのトラブルを避けるため、債権を滞らせないためにも、正確な処理が求められます。

 ここでは、初心者が迷いがちな「値引き・割引」の税務処理について解説します。

Q1
 「値引き」と「割引」の違いを教えてください。
 
 商品の販売側からみた、値引き・割引等を説明していきます。

 まず、「売上値引」とは、販売した商品等が品質不良だったり破損したりした場合、値引きとして販売代金から控除することをいいます。

 売上値引があった場合、売上高を直接減額する直接控除法と、売上高の控除項目として別途、売上値引で処理する間接控除法の二つの処理方法があります(図1参照)。どちらの処理方法でもよいのですが、間接控除法であれば、売上高の総額と売上値引の額を別々に帳簿上で把握することができます。



 売上値引と似たものに、「売上割戻し」があります。

 これは、ある期間に大量に購入してもらった得意先に対して売上代金の一部を戻す、いわゆるリベートのことです。売上割戻しの金額については、ある期間得意先に購入してもらった金額や数量に応じて取り決めしたりします。そのような販売金額や販売数量を算定基準にして取り決めされる売上割戻しについては、売上値引と同じ方法で処理します(図2参照)。



 なお、それらの算定基準がないものや販売促進効果を期待して支出する販売奨励金等については、販売促進費等で処理することになります。

 また、売掛金を早めに回収できたときに代金を割り引くことを「売上割引」といいます。

 先述の売上値引と売上割戻しが営業上の理由による代金の引下げであるのに対して、売上割引は早期回収に対する金融上の費用ということになります。よって、売上高からの控除項目ではなく、営業外費用の区分になります(図3参照)。


Q2
 大量に購入してくれた得意先に対して、売上割戻しをすることになりました。計上時期はいつにすればよいのでしょうか?
 
 売上割戻しは大きく2パターンに分かれます。

 もし今回の売上割戻しにおいて、その算定基準が販売数量などによっており、かつ、その算定基準を得意先に明らかにしている場合には、原則として販売した日に計上します。

 ただし、得意先に売上割戻しの金額を通知した日または支払をした日に計上しているときは、その後も継続してそれらの日に計上することを条件に、例外として認められます。

 一方、売上割戻しの算定基準が販売数量などによらない、または算定基準を得意先に明示していない場合には、原則として売上割戻しの金額を通知した日、または支払をした日に計上します。

 ただし、決算日までに売上割戻しの算定基準と支払を社内で取り決めている場合において、その基準により計算した金額を未払金計上し、申告期限までに得意先に通知をしているときは、その後も継続してその方法を取ることを条件に例外が認められます。その未払金計上した売上割戻しについて、その決算期の損金として取り扱うことができます。

Q3
 領収証の金額より受け取った金額の方が1万円少なかったのですが、後日調査したところ売上値引の契約を見落として間違った請求書及び領収証を発行していたことが判明しました。この場合の取扱いはどうなりますか?
 
 仕訳処理は図4のとおりとなります。



 取引事実と契約書・請求書・領収証等の内容とは一致させておくべきです。すでに発行している10万円の請求書・領収証を破棄してもらい、9万円の請求書・領収証の再発行等を行なった方がよいでしょう。

Q4
 領収証の金額より受け取った金額の方が1万円少なかったのですが、後日調査したところ得意先の送金ミスによることが判明しました。この場合の取扱いはどうなりますか?
 
 この場合、得意先と債権の付け合わせを行ない、差額1万円について、未入金となっているということをお互いに確認する必要があります。仕訳処理は図5のとおりです。差額1万円は売掛金残高として残ります。


Q5
 領収証の金額より受け取った金額の方が少なかったのですが、得意先との関係で差額の原因追求や領収証の再発行ができない事情があります。この場合の取扱いはどうなりますか?
 
 得意先との取引関係や取引のいきさつ等により、領収証の再発行や差額の原因追求ができないケースですね。差額の原因にはいろいろなケースが考えられますが、原因追求が実際にできない以上、正しい処理は不可能です。したがって、後日税務署の税務調査が入ったときに、その差額について指摘されるリスクがあります。

 たとえば、差額1万円について、Q3で説明した売上値引処理をとりあえず行なっていたとします。その後、税務調査で、得意先からその得意先営業担当者個人に対し営業報酬として1万円支払われていたことが判明したとしましょう。

 この場合、その差額については、売上値引ではなく交際費として取り扱われることになります。ご存じのとおり、交際費は原則として損金になりません(ただし、すべての会社において該当するわけではなく、会社の資本金の大小によっては、交際費をある金額まで損金に落とすことができます)。いずれにしても損金に落とせないということは会社にとって不利で、その分税金を追加で納付しなくてはなりません。さらに、ペナルティとして加算税という税金を納付することになります。

Q6
 売上割戻しの算定基準に基づいて、得意先の担当従業員を旅行に招待しようと思っています。この旅行招待に要する費用は、交際費に該当するのでしょうか?
 
 交際費に該当します。販売数量等に応じて旅行先や旅行の規模などを決定するような基準を設けたとしても、得意先の従業員個人に対する接待・慰安として、交際費扱いになります。

Q7
 得意先に、売上割戻しと同じ算定基準によってビール券や商品券等を交付しようと思っています。これらは交際費になりますか?
 
 ご質問のビール券については、1枚あたり3000円以下のビール券でしたら交際費になりません。商品券の場合は1枚あたり3000円以下でも交際費になります。

 もう少し詳しく説明すると、売上割戻しの算定基準と同じ基準で物品の交付を行なうときは、その物品が事業用資産または少額物品であれば交際費に該当しません。少額物品とは、購入単価がおおむね3000円以下のものです。ビール券以外にもペン、タオルやゴルフボールなど、その購入単価が3000円以下であれば、少額物品に該当します。ですから、1個3000円の少額物品をたとえ100個配布しても、交際費にはなりません。あくまで一品ごとの購入単価で判定します。

 これに対して、商品券や旅行券等のように供与されるサービスや物品が特定していないものについては、1枚あたり3000円以下であっても交際費に該当します。

Q8
 特約店を通して商品を販売しています。その特約店のセールスマンや従業員に対して、彼らの販売金額合計を基準に売上割戻しを支払うことになっています。この支払は交際費になるのでしょうか?
 
 その特約店専属のセールスマンや、もっぱら御社の商品等を取り扱う特約店の従業員に対して、売上高を基準に算出した金銭を支払った場合には、その支払は交際費に該当しません。ただし、この取扱いは、個人事業主と同じように、その受ける報酬につき事業所得として所得税の確定申告をしているセールスマン、または従業員に対する支払に限ります。

 なお、そのセールスマンまたは従業員1人に対する支払が、1ヵ月で12万円を超える場合には、御社において所得税の源泉徴収が必要となります。

 また、その支払に対する消費税の取扱いは課税対象となります。

 特約店の従業員のうち給与所得者に対する支払は、交際費となります。また消費税については、課税の対象になりません。

Q9
 売上値引にかかる消費税の取扱いについて教えてください。
 
 売上値引にかかる消費税は、売上に対する消費税から控除することができます。

 消費税の基本的なしくみは、預かった消費税(売上に対する消費税)から支払った消費税を差し引いた金額を申告・納付することとなっています。売上値引、販売数量などを基準にして算出される売上割戻し、売上割引、売上返品等のことをまとめて消費税では「売上げに係る対価の返還等」という特別な用語で呼んでいます。この「売上げに係る対価の返還等」のうち消費税相当額は、支払った消費税と同様に売上に対する消費税から控除できることとなっています。仕訳処理は図6のとおりで、計上時期については、Q2で説明した内容と同じ取扱いになります。



 なお、図6の(1)または(2)のいずれの処理でもよく、最終的な消費税の申告納付額に影響はありません。

Q10
 当社は卸売業を営んでおり、得意先から商品代金を入金してもらうときに20%差し引いた金額を入金してもらっています。簡易課税制度により消費税を申告していますが、損得だけでいえば、販売手数料と売上割戻しのどちらで処理した方が得なのでしょうか?
 
 損得だけでいえば、売上割戻しで処理した方が得です。

 仮に売上金額を1000万円、売上割戻し、または販売手数料を200万円と仮定して、売上割戻し処理と販売手数料処理のそれぞれのケースについて消費税申告額を試算してみましょう。

(1)売上割戻し処理(直接控除法を用いた場合)

 まずは、売上に対する消費税額を求めます。(売上1000万円│売上割戻し200万円)×5%=40万円

 次に支払った消費税額を求めます。簡易課税制度では、売上に対する消費税に事業種ごとに定められた割合を乗じた金額を、支払った消費税とみなします。卸売業にかかる割合は90%です。売上に対する消費税40万円×90%=36万円

 したがって、消費税申告額は次のとおりとなります。

40万円-36万円=4万円

(2)販売手数料処理

 (1)と同様に、まずは、売上に対する消費税額を求めます。

売上1000万円×5%=50万円

 次に、支払った消費税額を求めます。

50万円×90%=45万円

 消費税申告額は次のとおりです。

50万円-45万円=5万円

 (1)(2)の結果からお分かりいただけるように、売上割戻し処理の方が1万円だけ消費税の申告納付額が少なくて済みます。

 簡易課税制度を採用している場合、簡単にいうと売上に係る消費税の一定割合(上記ケースだと10%(100%-90%))が申告納付額となります。売上割戻しは、売上に係る対価の返還等として売上からの控除項目となるため、売上に対する消費税がその分少なくなります。

 これに対して、販売手数料は、売上からの控除項目ではないため、その分売上に対する消費税も多くなります。よって、その多くなった消費税の10%相当分だけ(200万円×5%×10%=1万円)申告・納付額が多くなるということです。

 ただし、損得計算の前に、その取引の実態や契約内容をよく調査して、その差し引き金額が売上に係る対価の返還等なのか、それとも販売代理店契約等に基づく販売手数料なのかを明らかにすることが必要です。


〔月刊 経理WOMAN〕