第117回 時計を作る経営者になる
(2008/03/21)

 今回は、「経営者の役割」について考えてみたいと思います。


●経営者に必要なのは・・・

 「ビジョナリカンパニー」を読みながら「経営者の役割」について色々と考えました。

 一般的に、優秀な経営者というと、

「カリスマ性があって、トップダウンで会社を強力に引っ張っていくリーダー」

というイメージがあります。

 会社の大きな方向性はもちろん、全体の戦略や、場合によってはかなり細かい戦術レベルでも、トップ自ら指示を出して会社を強力に引っ張っていくという感じです。

 マスコミに取り上げられる有名経営者は、大なり小なりこのタイプで、私も以前はこうした経営者のスタイルを目指していました。

 と言っても、「自分にはカリスマ性はないし、とても有名経営者にはかなわないよな〜」と半ば諦めていたのです。(^_^;

 しかしながら「ビジョナリーカンパニー」によると、必ずしもこういうタイプの経営者が優れている訳ではないそうです。


時を告げる経営者 ●時を告げる経営者

 こうしたスタイルは、極めて優秀な経営者が

「みんな、俺についていこい」

という感じですから、

「経営者が答えを全て知っている」

場合は、非常に効果的な経営スタイルになります。

 でも答えを考えるのはトップの経営者ただ一人ですから、その経営者がいなくなると会社が回らなくなる、というのが「ビジョナリーカンパニー」の主張です。

「ビジョナリーカンパニー」の中では、こうした経営者を

・時を告げる経営者

という言い方をしています。

 社員が自分で「時を知る」のではなく、経営者が常に「時を告げてあげる」という感じです。

 
●時計を作る経営者

 こうした「時を告げる経営者」ではないタイプとして

・時計をつくる経営者

というフレーズがビジョナリーカンパニーには出てきます。

 経営者自ら「時を告げる」のではなく、社員が自分で時を知ることができるように、「時計をつくる」ことに注力する経営者のことです。

 社長から答えを教えてもらうのではなく、社員が自ら答えを見つけ出せるように、会社の仕組みを整えることを重視する経営者ということですね。


●自分の分身を作れるか

 中小企業の場合、社長さんがスーパーマンで、社長さん自ら何でもやってしまう、あるいはかなり細かい所まで口出ししてしまう、というケースが少なくありません。

 一般的に中小企業では社長さんが社内で一番優秀ですから、ついつい何でも口出ししてしまいたくなるのです。

 「部下に任せると遅いし心配だから、きちんと指示を出したい」という気持ちは、私もよく分かります。

 ただしこれでは、いつまで経っても社長さんは楽になりません。

 会社が小さいうちはともかく、だんだんと所帯が大きくなってくると、口出ししなければいけない事も増えてきます。

 当然、それに伴って社長さんの忙しさは加速していくことになるのです。

 ですから社長さんが楽になろうと思ったら、

・自分の分身を作る

か、あるいは

・口出ししなくても済むような「仕組み」を作る

ことを心がけるしかありません。


●企業理念と仕組み

 私はもともと、銀行でシステム開発を担当していました。

 当時は、何十億円ものシステム開発プロジェクトのリーダーをしていましたから、外部のベンダーさんを含めると300人くらいの関係者を指揮していたことになります。

 この時の経験が今の弊社のマネジメントスタイルの元になっているのですが、たくさんの人間を動かそうと思ったら、「仕組み」を作らないとにっちもさっちも行きません。

 各人の作業について一々口をはさんでいたら、自分の身がいくつあっても足りない訳です。

 従って、口をはさまなくてもプロジェクトが回る仕組みが必要でした。

 そのために徹底したのが「システム開発の標準化」です。

 プロジェクトを進める際の基準を「標準化ルール」として定め、その標準に準拠しているかどうかを、仕事を進める際の判断基準にしてもらったのです。

 そしてこのやり方を、通常の会社経営に当てはめると、

「企業理念」

が、標準化ルールに当たります。

 社員が仕事を進める際の判断基準を「企業理念」という形でまとめて、その理念に基づいて意思決定してくれればよい、という考え方です。

 もちろん企業理念を具体化する仕組みは必要なのですが、何かルールがないと、社員としては判断の基準がありませんから、一々トップにお伺いを立てることになってしまいます。

 従って、基本ルールとして「企業理念」を定めて、それを社員に徹底できれば、社長が口を出さざるをえないケースをかなり減らすことができます。


●弊社の場合・・・

 こんな風に考えて、弊社では毎日

「企業理念を、声を出して唱和」

しています。(^^)V

 新卒社員の頃は、こうした「理念を声を出して読み上げる」という行為を「最も悪しき日本企業の習慣」と思って馬鹿にしていたのですが、自分が経営者になるとすっかり変わってしまいました。(^_^;

 始めた当初、社員には極めて不評でした。

 「理念が長い」とか、「疲れる」とか、相当ぶつぶつ言っていたのですが、そんな不平不満を無視して1年以上続けています。

 その甲斐あって、理念がだいぶと定着してきたと思います。

 毎日声を出して理念を読み上げることで、私が社員に求めていることを皆が確実に理解してくれている、そんな実感があります。

 「自分だったら、こういう風に物事を判断する」という判断基準を、企業理念に毎朝読み上げてもらうことで、社員に伝えることができているのです。

 もちろん企業理念を毎朝読み上げれば、会社の業績が自動的に向上するほど簡単な話でありません。

 でも長い目でみれば、企業理念を定着化させることで、

「経営者の価値観を浸透させ、物事を判断する基準を統一できる」

というメリットがあります。

 「ビジョナリーカンパニー」で言う所の「時計をつくる経営者」が心がけるポイントの一つが、この「企業理念の定着化」です。

 弊社もまだまだ発展途上ですが、本当に「企業理念」は大切だと思う今日この頃です。