中小企業の会計に関する指針
 税効果会計(61−66) [メニューへ] [前 へ] [次 へ]

 税効果会計


 要 点
一時差異(会計上の簿価と税務上の簿価との差額)が生じた際に、将来その一時差異が解消されるときに課税所得が減少し、それに伴い税金費用が減少することにより純利益が増加する場合には繰延税金資産を計上する。また、一時差異が解消するときに課税所得が増加し、それに伴い税金費用が増加することにより純利益が減少する場合には繰延税金負債を計上する。なお、一時差異に重要性がない場合には繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しないことができる。
繰延税金資産については、回収可能性があると判断できる金額を計上する。回収可能性の判断は、収益力に基づく課税所得の十分性に基づいて、厳格かつ慎重に行わなければならない。


61.税効果会計

(1)  税効果会計は、一時差異(会計上の簿価と税務上の簿価との差額)がある場合、利益を課税標準とする法人税等の額を適切に期間配分することにより、税引前当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続である。

(2)  一時差異には、未払事業税、賞与引当金、損金不算入の減損損失等一時差異が解消する期の課税所得を減額する効果を持つ将来減算一時差異と、その他利益剰余金において処理される圧縮記帳や純資産の部に直接計上されるその他有価証券評価差額金(評価差益)等一時差異が解消する期の課税所得を増額する効果を持つ将来加算一時差異とがある。
 なお、将来の課税所得と相殺可能な繰越欠損金については、一時差異と同様に取り扱われる。

(3)  将来減算一時差異に法定実効税率を乗じた金額が繰延税金資産となり、将来加算一時差異に法定実効税率を乗じた金額が繰延税金負債となる。

(4)  一時差異が生じた際に、将来その一時差異が解消されるときに課税所得が減少し、それに伴い税金費用が減少することにより純利益が増加する場合には繰延税金資産を計上する。また、一時差異が解消するときに課税所得が増加し、それに伴い税金費用が増加することにより純利益が減少する場合には繰延税金負債を計上する。

(5)  なお、一時差異に重要性がない場合には繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しないことができる。


62.繰延税金資産の回収可能性

(1)  税効果会計の適用により繰延税金資産が計上されると利益剰余金が増加する。また、繰延税金資産の計上には、収益力に基づく課税所得が十分見込めること及びタックス・プランニングを行うことが前提となる。会社法上、税効果会計の適用による利益剰余金の増加に配当制限の定めがないこと等もあり、その回収可能性を厳格かつ慎重に検討することが必要である。

(2)  繰延税金資産の回収可能性がある場合とは、将来減算一時差異又は税務上の繰越欠損金等が、将来の税金負担額を軽減する効果を有していると見込まれる場合をいい、これ以外の場合には、回収可能性はないものと判断され、繰延税金資産は計上できない。

(3)  過年度に計上した繰延税金資産についても、その回収可能性を毎期見直し、将来の税金負担額を軽減する効果を有していると見込まれなくなった場合には、過大となった金額を取り崩す必要がある。

(4)  将来の解消見込年度に相殺しきれなかった将来加算一時差異については、繰延税金資産の回収可能性の判断に当たり、将来減算一時差異と相殺できない。


63.回収可能性についての判断基準

 繰延税金資産の回収可能性については、会社の過去の業績等を主たる判断基準として、将来の収益力を見積り、将来減算一時差異等がどの程度回収されるのかを、以下のそれぞれの例示区分に応じて判定することになる。

(1)  期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を当期及び過去3年以上計上している場合は、回収可能性があると判断する。

(2)  過去の業績が安定(当期及び過去3年経常的な利益を計上)していることから、将来も安定的な経常利益の計上が見込まれるが、期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない場合には、将来減算一時差異の合計額が過去3年間の課税所得の合計額の範囲内であれば、回収可能性があると判断する。

(3)  業績が不安定であり、期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない場合又は税務上の繰越欠損金が存在する場合であっても将来の合理的な見積可能期間(最長5年)内の課税所得の見積額を限度として、一時差異等の将来解消の見込みについて取締役会等による合理的な計画(スケジューリング)に基づくものであれば、回収可能性があるものと判断する。スケジューリングを行うことができない場合又は行っていない場合には、回収可能性はないものと判断する。

(4)  過去3年以上連続して重要な税務上の欠損金を計上し、当期も欠損金の計上が見込まれる会社及び債務超過又は資本の欠損の状況が長期にわたっており、短期間に当該状況の解消が見込まれない場合には回収可能性はないと判断する。

期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を当期及び過去3年以上計上しているか Yes







No          
業績は安定しており、将来も安定が見込まれるか Yes
将来減算一時差異の合計額が過去3年間の課税所得の合計額の範囲内か Yes
No   No      
過去連続して重要な税務上の欠損金を計上しているか No
スケジューリングは行っているか Yes
合理的なスケジューリングによる課税所得の範囲内か Yes
Yes   No   No    
回収可能性はない    


64.貸借対照表上の表示

 繰延税金資産及び繰延税金負債は、これらに関連した貸借対照表上の資産・負債の分類に基づいて流動区分と固定区分とに分けて表示する。また、繰越欠損金等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債で、事業年度の末日後1年以内に解消される見込みの一時差異等に係るものを流動区分に、それ以外の一時差異等に係るものは投資その他の資産として表示する。なお、同じ区分に属する繰延税金資産と繰延税金負債がある場合には、それぞれ相殺して表示する。


65.損益計算書上の表示

 繰延税金資産と繰延税金負債との差額の増減額は、法人税等調整額として、法人税、住民税及び事業税の次に表示する。


66.税効果会計適用における注記事項

 税効果会計を適用し、一時差異の金額が重要な場合、又は税引前当期純利益に対する法人税等(法人税等調整額を含む。)の比率と法定実効税率との間に重要な差異がある場合には、会社の財産及び損益の状態を正確に判断するため、以下の注記を行うことが望ましい。

(1)  繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳

(2)  税引前当期純利益に対する法人税等(法人税等調整額を含む。)の比率と法定実効税率との間に重要な差異があるときは、当該差異の原因となった主要な項目別の内訳

(3)  回収可能性がなく、繰延税金資産から控除された額


【関連項目】
会社計算規則第74条第3項第1号タ、第4号ホ、第75条第2項第1号チ、第2号ホ、第83条、第93条第1項第2号、第107条
税効果会計に係る会計基準(企業会計審議会)
個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針(会計制度委員会報告第10号)
繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い(監査委員会報告第66号)


 税効果会計(61−66) [メニューへ] [前 へ] [次 へ]