中小企業の会計に関する指針
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 貸倒損失・貸倒引当金


 要 点
受取手形や売掛金等の債権が法的に債権が消滅した場合のほか、回収不能な債権がある場合は、その金額を貸倒損失として計上し、債権金額から控除しなければならない。
貸倒引当金は、以下のように扱う。
  (1) 金銭債権について、取立不能のおそれがある場合には、取立不能見込額を貸倒引当金として計上しなければならない。
  (2) 取立不能見込額については、債権の区分に応じて算定する。財政状態に重大な問題が生じている債務者に対する金銭債権については、個別の債権ごとに評価する。
  (3) 財政状態に重大な問題が生じていない債務者に対する金銭債権に対する取立不能見込額は、それらの債権を一括して又は債権の種類ごとに、過去の貸倒実績率等合理的な基準により算定する。
  (4) 法人税法における貸倒引当金の繰入限度額相当額が取立不能見込額を明らかに下回っている場合を除き、その繰入限度額相当額を貸倒引当金に計上することができる。
貸倒引当金の計上は、差額補充法によることを原則とし、法人税法上の洗替法による繰入額を明らかにした場合には、法人税法に規定する洗替法による処理として取り扱うことができる。


17.貸倒損失

(1)  債権が「法的に消滅した場合」とは、会社更生法による更生計画又は民事再生法による再生計画の認可が決定されたことにより債権の一部が切り捨てられることとなった場合等が該当する。

(2)  「回収不能な債権がある場合」とは、債務者の財政状態及び支払能力から見て債権の全額が回収できないことが明らかである場合をいう。

(3)  損益計算書上は、債権の区分に応じて次のとおり表示する。
(a) 営業上の取引に基づいて発生した債権に対するもの ・・・販売費
(b) (a)、(c)以外のもの ・・・営業外費用
(c) 臨時かつ巨額のもの ・・・特別損失


18.貸倒引当金

(1)  金銭債権について取立不能のおそれがある場合には、その取立不能見込額を貸倒引当金として計上しなければならない。

(2)  「取立不能のおそれがある場合」とは、債務者の財政状態、取立のための費用及び手続の困難さ等の要素を総合的に判断したときに回収不能のおそれがある場合をいう。

(3)  取立不能見込額は、債務者の財政状態及び経営成績に応じて次のように区分し、算定する。

(a)原則的な算定方法
区  分 定  義 算 定 方 法
一般債権 経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権 債権全体又は同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等の合理的な基準により算定する(貸倒実績率法)。
貸倒懸念債権 経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権 原則として、債権金額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して算定する。
破産更生債権等 経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権 債権金額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額を取立不能額とする。

(b)法人税法上の基準による算定方法
 本指針においては、次に掲げる平成23年度税制改正(平成23年12月改正)前の法人税法の区分に基づいて算定される貸倒引当金繰入限度額が明らかに取立不能見込額に満たない場合を除き、当該繰入限度額をもって、当期の貸倒引当金繰入金額とすることができる4

区  分 定  義 繰入限度額
一括評価
金銭債権
個別評価金銭債権以外の金銭債権 債権金額に過去3年間の貸倒実績率又は法人税法に規定する法定繰入率を乗じた金額
個別評価
金銭債権
更生計画の認可決定により5年を超えて賦払いにより弁済される等の法律による長期棚上げ債権 債権金額のうち5年を超えて弁済される部分の金額(担保権の実行その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額を除く。)
債務超過が1年以上継続し事業好転の見通しのない場合等の回収不能債権 債権金額(担保権の実行その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額を除く。)
破産手続、更生手続等の開始申立てや手形取引停止処分があった場合等における金銭債権 債権金額(実質的に債権と見られない部分の金額及び担保権の実行、金融機関等による保証債務の履行その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額を除く。)の50%相当額

   4  本指針の適用対象となる株式会社の中にも資本金の額が1億円超である株式会社がある。その場合、会計上は、平成23年度税制改正(平成23年12月改正)前の法人税法に規定する繰入限度額をもって、当期の貸倒引当金繰入金額とすることができるが、法人税法上は、申告調整をすることになる。

(4)  貸借対照表上の表示
 貸倒引当金は、原則として対象となった各項目ごとに控除形式で表示する。
 ただし、流動資産又は投資その他の資産から一括して控除形式で表示する方法、又は対象となった項目から直接控除して注記する方法によることもできる。

(5)  原則的な処理
 貸倒引当金の繰入、戻入(取崩し)は債権の区分ごとに行う。
 当期に対象となった債権を直接償却により債権額と相殺した後、貸倒引当金に期末残高があるときは、これを当期繰入額と相殺する。その際、繰入額の方が多い場合は、その差額を貸倒引当金繰入額として、次のとおり表示する。
(a) 営業上の取引に基づいて発生した債権に対するもの ・・・販売費
(b) (a)、(c)以外のもの ・・・営業外費用
(c) 臨時かつ巨額のもの ・・・特別損失
 また、取崩額の方が多い場合は、その取崩差額を特別利益に計上する。

(6)  法人税法上の処理
 貸倒引当金の繰入及び戻入については、法人税法上の規定を適用し、洗替法による処理がされる場合が多くある。これは、法人税法が洗替法による処理を原則としていることによるものである。
 ただし、差額補充法により貸倒引当金を計上している場合においても、法人税基本通達により添付する明細書に洗替法による場合の金額に基づく繰入等であることを明らかにしているときは、洗替法により処理されたものとして取り扱われる。


【関連項目】
会社計算規則第5条第4項、第78条、第103条
企業会計原則 第三・四、注解17
金融商品に関する会計基準(企業会計基準第10号) 第27項、第28項
金融商品会計に関する実務指針(会計制度委員会報告第14号) 第122項〜第125項
法人税法第52条
法人税法施行令第96条
法人税基本通達11−1−1


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