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“鉄板屋の直感”が摩擦力でいいことづくめの加工を実現

(16/11/04)

 トライボロジー(摩擦学)という言葉がある。1966年、摩擦や摩耗に伴う経済損失は莫大な金額に達すると記した英国の報告書に初めて登場したとされる。このトライボロジーの研究開発で注目されるのがフレキシースクラム(名古屋市、太田国明社長)だ。開発したのは、金属表面に任意の模様の凹凸を施す加工技術。「もともとは自動車用鋼材などを扱う鉄板屋」という太田社長が「たまたま知人から、凹凸技術の話を聞き直感的に材料の歩留りに効くと思った」のが始まりで、3年間の開発・検証期間を経て、今、エンジン全開の時を迎えた。

 同社は平成24年(2012年)に太田社長が「歩留まりに効く」と直感した凹凸技術の実用化を目指して設立した。自動車向け鋼材の取引先となる大手自動車メーカーも設立当初から同技術に強い関心を示し、共同で研究開発を推進した。同技術はドット、くの字、ウエーブ、ダイヤモンドカット、正方形など任意の模様の凹凸をミクロン単位で金属表面に付け、表面をざらざらにする。それにより、金属加工時の摩擦係数を高め、摩擦・磨耗に関するふるまいを制御できるようにするもの。

 模様付けは、特許取得済みの「電解液ジェット加工法」により行う。電解液を用いて電極で倣い加工する手法で、技術開発のリーダー役を務める董媛取締役は「導電性があればどんな材質でも、どんな形状にも対応し、バリ取りなどは不要」とその特徴を説明する。自動車メーカーと共同で取り組んだプレス金型に凹凸パターンを施す事例では、面歪みを抑制でき品質が向上する、つかみしろを減らせて材料費削減(歩留まり向上)が図れる、金型の寿命が伸びるなど、いくつもの優れた成果を得られることが分かった。

 こうした実績を踏まえて、自動車メーカーは、ボディ用の金型で凹凸パターンを全面的に導入する運びにあるという。フレキシースクラムでは、今後、自動車関連の需要をさらに掘り起こす一方で、自動車以外の業界に対しても、高品質、低コスト、長寿命、省エネと“いいことづくめ”をアピールし、凹凸パターンを産業界各方面に普及浸透させていく。併せて、意匠、装飾といった面での商用化も進めていく考えだ。

 「設立から4年経ったが、開発に没頭してきて、営業活動は始まったばかり。認知度はまだまだ低い」(太田社長)という同社では、現在、販売提携、海外進出支援、産学連携などの各相手先を広く求めている。エンジンを全開させ、一挙に市場を開拓しようとの作戦だ。トライボロジー誕生から半世紀の節目に、”鉄板屋の直感”がトライボロジー史に残るような成果を上げるかもしれない。

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