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クラウドファンディング解禁等に向け報告書が正式公表
(14/01/06)

 金融庁の金融審議会「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」は12月25日に報告書を公表した。これは、平成25年6月より半年間にわたり、アーリーステージの企業から上場を目前に控えた企業、更には上場後の企業まで、幅広いフェーズの企業における資金調達を巡る問題等について検討及び審議を行ってきた結果をとりまとめたもの。

 施策は数多く提案されているが、大きくわけると、

(1)新規・成長企業に対するリスクマネーの供給促進策
(2)事務負担の軽減など新規上場の推進策
(3)上場企業等の機動的な資金調達を可能にするための開示制度の見直し策

の3点に集約可能だ。

 このうち、上場準備企業に係る施策案としては、(1)について、

・株式形態のクラウドファンディングを解禁
・非上場株式の取引・換金のための枠組みを構築
・保険子会社ベンチャーキャピタルによるベンチャー企業への投資促進

が、また、(2)について、

新規上場時の有価証券届出書に記載する過去の財務諸表を5事業年度分から2事業年度分に短縮
・新規上場後3年間について、内部統制報告書に係る監査義務を免除
・新興市場における最低株主数基準の引き下げの要請

が提案されている。今後、関連する法令の改正等が行われることが見込まれる。以下、一つ一つ見ていくことにする。

<株式形態のクラウドファンディングを解禁>

 クラウドファンディングとは、「インターネットを通じて行う資金調達」のこと。「ファンド形態」の投資型クラウドファンディングは、現行の金商法においても、第二種金融商品取引業者による募集又は私募の取扱いが認められており、実際にもこの形態でのビジネスを担う業者が既に存在する。一方、「株式形態」の投資型クラウドファンディングとなると、基本的に取り扱われていないのが現状だ。なぜなら、株式の募集又は私募の取扱いを行うことができるのは第一種金融商品取引業者だけであり、第一種金融商品取引業者の参入要件は第二種金融商品取引業者のそれに比してより厳格であることに加えて、非上場株式の募集又は私募の取扱いが、第一種金融商品取引業者の自主規制機関である日本証券業協会の自主規制規則により、原則として禁止されているからだ。

 本報告では、クラウドファンディングの仲介者の参入要件を緩和することを通じて、クラウドファインディングを解禁することが提案されている。具体的には、現行の第一種金融商品取引業者と第二種金融商品取引業者について特例を設けることになる。すなわち、募集又は私募の取扱いであって、「インターネットを通じて行われる少額」(本報告では「発行総額1億円未満かつ一人当たり投資額50万円以下」が提案されている)のもののみを行う者を「特例第一種金融商品取引業者」と、また、第二種金融商品取引業者のうち、ファンド持分の募集又は私募の取扱いであってインターネットを通じて行われる少額のもののみを行う者を「特例第二種金融商品取引業者」とそれぞれ位置付け、財産規制等を緩和することで、クラウドファンディングの仲介者の参入を容易にする案となっている。

 ただ、クラウドファンディングの仲介者(特例第一種金融商品取引業者や特例第二種金融商品取引業者)に多数の業者が参入すると、活況となる反面、中には詐欺的な業者が紛れ込んでしまうリスクもある。そこで、クラウドファンディングの仲介者に対して、

発行者に対するデューデリジェンス及びインターネットを通じた適切な情報提供等のための体制整備
・インターネットを通じた発行者や仲介者自身に関する情報の提供の義務付け

を求めるとともに、

・当該情報の提供を怠った場合等における罰則

を整備することになる。

<非上場株式の取引・換金のための枠組みを構築>

 現在、非上場株式の取引・換金のための枠組みとしては、グリーンシート銘柄制度があるが、取引高が極端に少なく、市場としての存在感はないに等しい。もっとも、地域に根差した企業などの非上場株式については、一定の取引ニーズ・換金ニーズが存在しているのも事実。そこで、本報告ではグリーンシートを活性化させるのではなく、グリーンシート銘柄制度とは別に、自主規制機関である日本証券業協会の自主規制規則に基づく制度として新制度を創設する案を提案している。なお、投資勧誘を行えるのは第一種金融商品取引業者に限られることになる。さらに、インサイダー取引規制の適用対象外とする案となっている。

 ポイントは、第一種金融商品取引業者が投資勧誘を行える範囲を、第一種金融商品取引業者が銘柄毎に組成・管理する「投資グループ」のメンバーに限定する、ということ。これは、一定の取引ニーズ・換金ニーズに応えられる程度の流通性に留めることで、開示義務を緩くすることが可能になり、発行者の負担を軽減することが可能になるというのが狙いだ。報告書では、「「投資グループ」のメンバーとして想定される投資者層としては、当該非上場企業の役員・従業員若しくはその親族、株主又は継続的な取引先のほか、当該非上場企業から財・サービスの提供を受けている(又は受けようとする)者などが考えられる」としている。

 気になる開示義務の緩和の程度だが、最終的には日本証券業協会の自主規制マターとなる。報告書では、「グリーンシート銘柄制度におけるほどの開示義務を課す必要はない」としている。

<保険子会社ベンチャーキャピタルによるベンチャー企業への投資促進>

 保険会社には議決権保有制限(いわゆる10%ルール)があるが、保険会社がベンチャーキャピタル子会社を通じて行うベンチャー企業への出資に関しては、出資した企業が中小企業の基準を満たす限り10%ルールが適用されないという特例が設けられている。もっとも、出資した会社が中小企業の基準を超えると保有規制(10%)がかかることになる。そのため、当該保険子会社ベンチャーキャピタルがリードベンチャーキャピタルである場合、保有規制が障害となり追加出資に応じることができず、リードベンチャーキャピタルの責務を果たせないことになってしまう。そこで、リードベンチャーキャピタルとして出資を行っている場合には、出資先が中小企業であるか否かにかかわらず、上場までの間に限り、追加出資に応じることができるよう、特例の要件を緩和することが適当としている。

 非常にピンポイントな規制緩和だが、対象企業にとっては朗報といえよう。

<事務負担の軽減など新規上場の推進策>

 報告書では、新規上場の推進策も提案されている。まず、新規上場に伴う負担の軽減策として、新規上場時の有価証券届出書において必要となる過去5事業年度分の財務諸表の記載を過去2事業年度分の財務諸表のみの記載とするよう見直すことが適当としている。

 また、新規上場後3年間について、内部統制報告書に係る監査義務を免除するといった上場後の負担軽減策も盛り込まれている。なお、「市場への影響や社会・経済的影響が大きいと考えられる企業については、内部統制が適切に機能していることを特に厳格にチェックする必要性が高いと考えられることから、こうした企業については、新規上場企業であっても、内部統制報告書に係る監査義務を免除することは適当ではない」としている。具体的な判断基準は示されておらず、気になるところだ。また、内部統制報告書の提出義務自体は残されているので、誤解しないようにしたい。

 その他、取引所マターとはいえ、新興市場における最低株主数基準の引き下げも要請しており、こちらも動向が気になるところだ。

(情報提供:日本IPO実務検定協会


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