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経営の教科書
(2017.2.9)

第74回 企業の出口戦略について(6)

 前回までに以下の表の(3)まで確認してきましたが、今回は(4)(5)(6)まで進めます。

事業承継M&A
(1)印象が良い(日本の伝統)印象が悪い(誤解による)
(2)比較的早期に継承者が決まる後継社が見つかるか不確定
(3)企業価値を引き下げるプランが必要企業価値を高めるプランが必要
(4)承継後も責任が残る承継後は責任から開放される
(5)相続と合わせたプランニングが必要M&Aのみでプランニング可能
(6)後継者の資金調達支援が必要後継社の資金調達支援は不要
(7)創業者利益は退職金創業者利益は株式譲渡の対価
(8)主な外部相談相手は税理士や銀行主な外部相談相手は銀行かコンサル

 (4)について、事業承継の場合は承継後もずっと承継を終えた社長も事業の先行きが気になるし、心配は続くものです。M&Aでもこの点は大差ない方もいるでしょうが、むしろ引継ぎ企業の立場で考えれば、余り積極的に関わることができなくなります。そういう意味では、責任からの開放に強制力が働くのがM&Aであるとも言えます。

 (5)について、事業承継であろうがM&Aであろうが後継者(社)に引継ぐものは「有形資産」と「無形資産」に整理できます。ここでは理念や人脈といった「無形資産」については触れずに、「有形資産」についてのみ言及することにします。

 事業を引継ぐ際の「有形資産」は一般的には「株式」に集約されます(スキームによっては株式以外になることもあります)。M&Aでは株式は「譲渡契約」で移転しますが、事業承継(親族内承継)は「譲渡」以外にも「相続」「贈与」という移転手段もあり、「相続時精算課税制度」や「事業承継税制」等、引継ぐ社長の状況によって様々なシミュレーションが必要になります。

 (6)についてですが、親族内承継であれば譲渡資金や納税資金が同族関係者に必要です。単純に言えば「事業承継」=「株式の移転」=「キャッシュアウトの発生」となります。一方、M&Aは親族外の第三者に対して株式や事業用資産を譲渡するケースがほとんどですから、課税が発生しても譲渡金額の範囲内ですから手元資金は減少しません。ここでも、事業承継と株式移転という手法では結果が180度異なることになります。

 以前もお伝えしましたが、すべての企業に共通するテーマが「ゴーイング・コンサーン(永続的発展)」だとすれば、企業の出口の選択は「事業承継」か「M&A」しかありません。是非、今一度今回ご紹介した切り口も含め、自社の出口を見つめ直してみて下さい!