会社を良くする「経営の教科書」
一覧はこちら
経営の教科書
(2017.1.24)

第73回 企業の出口戦略について(5)

 前回に引き続き、以下の表から事業承継とM&Aの対比を見ていきます。

事業承継M&A
(1)印象が良い(日本の伝統)印象が悪い(誤解による)
(2)比較的早期に継承者が決まる後継社が見つかるか不確定
(3)企業価値を引き下げるプランが必要企業価値を高めるプランが必要
(4)承継後も責任が残る承継後は責任から開放される
(5)相続と合わせたプランニングが必要M&Aのみでプランニング可能
(5)後継者の資金調達支援が必要後継社の資金調達支援は不要
(6)創業者利益は退職金創業者利益は株式譲渡の対価
(7)主な外部相談相手は税理士や銀行主な外部相談相手は銀行かコンサル

 今回は(3)についてです。事業承継では一般的に自社の株価をできるだけ引き下げて後継者に渡しますが、M&Aでは逆に企業価値を高めていくという、双方180度異なる施策が必要になります。

 自社株を後継者に移転する場合、後継者には税負担や資金調達の必要性が生じます。株価は「財産評価基本通達」に則って評価することになり、単純にオーナーの退職金等で欠損が出れば大きく評価額を下げられますし、その他にも株価引き下げ策には様々な合法的手段があります。また、持ち株会社を設立方法、相続時精算課税や事業承継税制の活用、社員持株会の設立や種類株式の活用等も効果的です。一つ一つについて詳述することはできませんが、必ず顧問税理士に相談して自社に最適の方法を検討していく必要があります。

 また、M&Aの場合は、債権等にまつわる不良資産の整理や生命保険等の簿外資産の洗い出し、退職債務等の負債の洗い出しはもちろん、譲渡する場合に懸案事項となる可能性のある契約書の見直しや、諸規定の整備等、第三者が決算書等を閲覧した場合の印象を良くする取り組みが必要です。こちらも顧問税理士や弁護士、社労士等に相談していかなければいけません。

 何れにしても、以前からお伝えしているように貸借対照表を整理し企業価値を一時的に低くしたり、逆に高めたりすることは一朝一夕にはできません。最低でも5年程度の時間をかけて取り組むといろいろ選択の幅が広がってきます。そういった財務的視点からも、できるだけ早い時期から自社の出口を検討することは重要なのです。是非顧問税理士に相談してみて下さい!