税務調査の法的知識
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第52回 意見聴取は形式か?
(16/01/19)

 「書面添付制度とは何か?」に加えて、税理士・会計事務所が書面添付に積極的でない大きな理由として、「意見聴取は形式的なものであって、どうせ税務調査に移行するなら面倒なだけ」という考えがあります。

 あまり知られていないことですが、書面添付制度を規定した事務運営指針が平成21年に改正されています。改正の趣旨はこう書かれています(一部抜粋)。

法人課税部門における書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方及び事務手続等について(事務運営指針)

個人課税部門における書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方及び事務手続等について(事務運営指針)

資産税事務における書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方及び事務手続等について(事務運営指針)

(趣旨)
国税庁においては、法第35条第1項に規定する意見聴取(以下「意見聴取」という。)を行った結果、調査の必要性がないと認められた場合に、税理士等に対し「現時点では調査に移行しない」旨を原則として書面により通知することとしたことから、所要の整備を図るものである。

 改正(挿入)された具体的な文言としては、

「制度の趣旨・目的を踏まえつつ、例えば顕著な増減事項・増減理由や会計処理方法に変更があった事項・変更の理由などについて個別・具体的に質疑を行うなど、意見聴取の機会の積極的な活用に努める」

となっています。つまり、要約すると「以前は意見聴取をないがしろにしていたものを、以後はきちんとやる」という改正なのです。

 上記改正後の事務運営指針を根拠に、(調査に移行することを前提とした)形式的な意見聴取は当然に認められなくなりました。また、意見聴取において担当統括官・調査官が、税理士がきちんと回答しているにも関わらず、実地調査に移行するような発言をした場合は、上記の「趣旨」を主張することで、安易に税務調査に移行することができなくなったのです。

 この点を踏まえれば、さらに書面添付制度にはメリットがあることがおわかりいただけるかと思います。