5.利益実態の捉え方

〜科目別、商品サービス・顧客・地位別、損益分岐点の見方〜


 会社経営における最終目的は「利益」をあげることですが、利益=儲けの源泉はどの様な過程で生まれているのか考えなければなりません。営業活動で必要となる資金は「稼いだお金」から支払われますが、会社としては「幾ら儲けている」のか最も気にすべきことです。

 経営活動の実績を表したものが「損益計算書(P/L)」ですが、損益計算の基本は「収益−費用=利益」です。売上げがなければ,もちろん利益は生じませんが,売上げがあっても,それ以上に費用がかかれば,利益はマイナスとなります。会社の損益計算書はこの関係式にもとづいて,一定期間の「収益」と「費用」を計上し,その差額である「利益」を表わしています。

 第1項「経営実態の捉え方」で説明した「総資本利益率」とは、会社が持っている総資本=全ての資産を利用して事業活動を行い最終的に利益獲得のためにどれだけ有効活用されているかを示す総合的な収益性の財務指標として「利益÷総資本」の算式で計算されます。投資家が上場会社等を評価する際に重要視していますが、会社の収益効率をチェックする指標として利用されるものです。

 分子である利益を高めるための対策としては「商品サービスの収益力を高め」「営業活動力を強化し」「財務面を改善する」方策を考えなければなりませんが、利益=会社の儲けはどのようになっているのか、経営者としては常に正しく把握しておく必要があります。

 会社の利益といっても、商品を仕入れてそれを販売した結果得られる純粋な「粗利益」、販売するためのスペースを借りればその費用、人を雇えば給料の支払いもありますが販売にかかる諸々の費用を支払った後に残る「営業利益」、更に、商品を仕入れるための費用を銀行から借りたとすればその利息等の支払もあり最終的に残る「経常利益」のように、色々な見方があります。

 また、会社の儲けの状態を把握する方法として、会社運営上で発生する費用を「材料費」のように,売上(あるいはつくった数量)に比例して変動する費用=「変動費」と、「家賃」「人件費」「保険料」のように,売上げの増減にかかわらず発生する費用=「固定費」に分解してどれだけ利益が出るのか検証する「損益分岐点分析」という方法もあります。

 以下、会社の儲けを正しく捉える方法と、会社経営の課題を見つけ出し改善策を策定するために必要となる検証手法について考えることとします。


損益計算書P/Lの計算過程から考える

 一般的に、会社の経営が悪化するプロセスを考えた場合、減収減益傾向になり「損益」が悪化し、次第に財務内容が悪化、最終的には資金繰りが逼迫して経営破綻に至ると言われますが、「損益」の悪化についてもプロセスがあります。

 まず、設備等を購入する際に銀行から借入を行った結果、支払利息等の負担が大きく「経常損益」がマイナスになる。次に、会社の規模(従業員数や設備等)に見合うだけの売上を確保することができず営業経費の負担を賄うことができなくなり「営業損益」がマイナスになる。最終的には売上確保を前提に値引き販売等を行うことで、仕入原価割れの状態となり「粗利益」がマイナスになる。最後の段階は末期的症状であり会社経営そのものを維持することは困難となりますので、最初の段階(=経常利益がマイナス)で早目早目の対策を考えなければなりません。

 つまり、損益計算書の計算過程である(1)〜(10)の過程で、(3)、(5)、(7)がどのような要因で計算されたのか正しく理解することが、経営者としての第一の判断ポイントです。

( 1 )売上高 …決算期間中に売上金と計上した合計額
( 2 )仕入原価 …決算期間中に仕入原価として計上した合計金額
( 3 )粗利益 …(1)−(2)により計算された損益
( 4 )一般販売管理費 …人件費や事務所経費等の管理費や販売に係る費用の合計額
( 5 )営業利益 …(3)−(4)により計算された損益
( 6 )営業外損益 …預金等の利息収入と借入金の支払利息等の収入と支出の差額
( 7 )経常利益 …(5)+(6)
( 8 )特別損益 …経営には直接関係しない不動産売却などに係る収入と支出の差額
( 9 )税引前当期利益 …(7)+(8) →1年間の営業活動で儲けた額
(10)当期純利益 …税金等を支払った後の最終的な利益

 つまり、利益が出る「儲かる」会社にするために検討すべき主要なテーマは次の3点になります。その為には、「販売実績の検証(=販売力の強化)」「仕入実績の検証(=商品調達力の見極め)」「営業経費の検証=(効率化の実現)」を実施するために必要な経営情報の体系化方法を考えなければなりません。

 営業活動を維持するための基本となる「粗利益」を確保できるのか否か、拡大することができるのか否かを見極めることが最優先課題となります。

1.販売力の強化 儲けるためには商品やサービスをお客様に利用してもらうことが最優先であって「どのような商品サービス」を「誰に対して」を提供しなければいけないのか取引先の管理状況も加味しながら、新たな顧客開拓の可能があるのか否か営業エリア内の状況等総合的に検証し考えることです。

2.商品調達力の見極め 利用してもらえる商品やサービスを如何にして「安く」「確実に」調達できるかがポイントであり、マーケットニーズに合致した商品構成を維持するための仕入先や在庫保有の方法を考えることです。

3.効率化の実現 会社経営を考えた場合、事業そのものの規模に合致した営業体制となっているのか否か「売上」「粗利益」の規模も加味しながら必要とされる経費の実情と採算性を考えることです。(経費の見方に関しては、「第4項経費事態の捉え方」を参照


商品サービス・お客様実態から考えるポイント

 売上と仕入に関する情報の活用方法としては、「どのような商品サービス」を「誰に」売ったのか、「誰から」仕入れたのかを適切に見極めることが必要となります。

 売上であれば、商品やサービスを売った結果の利益が「商品サービス別・顧客別」に把握できるようにしなければなりません。また、仕入であれば、どれ位の利益を見込んで販売活動を行なっているのか「商品サービス別・顧客別」に把握できるように工夫する必要もあります。

 例えば、売上金額と利益率について全ての取引実績情報からランキングし、グループ別に集計=「ポートフォリオ集計」し、どのような分布になっているのか確認することです。「規模と収益」の観点からどのような状態になっているのか実情を確認することで「儲かる商品サービス」の品揃えを充実させる、「儲かる顧客」を囲い込む等、具体的な営業戦略策定の基礎情報として活用することです。



 また、販売した結果どれだけの利益が生まれているのか詳細を把握する方法として、商品サービス別、顧客やグループ別の売上高と利益の構成比と利益率から、会社への利益貢献度が一番高い商品サービス、顧客やグループを捉える見方もあります。



 更に、仕入れた原材料やサービスも同じ方法で捉えることができます。仕入額と売価額の構成比および原価率から費用負担度、影響度の高い商品サービス、仕入先やグループの実態を捉えることができます。



 以上のように、商品やサービス、顧客を主体とした情報を活用することで現状の実態を見極めることが可能となりますが、更に、支店や事業所別、地域別に同様の方法で詳細を把握できるようにすれば、より、精緻な計画を考えることも可能となります。
(経営計画の考え方、情報活用の方法論については次回のセッションで詳しく説明します。)


損益分岐点分析から考えるポイント

 会社を経営する上では、一定の利益=儲けを確保できる販売価格を維持できるか、採算がとれる価格で人気商品を仕入れることができるか、確保できた利益=儲けの範囲内で営業活動できる会社の体質なのか否かを見極めなければなりません。そのためには損益分岐点分析に基づき「黒字化」を実現できる会社の体質なのか否か、問題があればどのような点を改善しなければいけないのか考える必要もあります。

 損益分岐点分析で使用される言葉を纏めると以下の通りですが、損益分岐点とは「利益も損失も発生しない、利益と損失の均衡した売上高の金額をいいます。

  • 変動費率=売上高に対する変動費の割合
  • 限界利益=売上高から変動費を控除した後の利益
  • 限界利益率=1−変動比率
  • 損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率
  • 損益分岐点比率=損益分岐点売上高÷売上高
  • 損益安全率=1−損益分岐点比率

 損益分岐点分析は以下の3通りの考え方が基本となりますが、損益安全率(=1−損益分岐点比率)が10〜20%の範囲に収まる(=黒字体質である優良企業)ようにするための方法論を常に考えておくことが重要です。

ケース1: 現状の経営実態(粗利益率、経費率)で黒字体質となるのに必要な売上高を見極める
  現在の利益率と経費比率を維持できたと仮定した場合、どれだけの売上高が必要かを見極めるための考え方です。昨今の経済環境を勘案すれば売上高を増加させる事は事実上困難であり、様々な経営努力を行った上で総合的な経費率を維持できるだけに必要な売上高を見極める場合に活用します。

ケース2: 現状売上を維持できた場合に黒字体質となるために必要な仕入高=変動費を見極める
  変動費の大半を占める仕入原価をどれだけ軽減するかを検証する方法であり、粗利益率改善の可能性を検証するものです。価格面や支払い条件を総合的に見直すことでどの程度改善する事が可能か判断するための基礎として活用します。

ケース3: 現状の利益率で黒字体質化するために必要な経費=固定費を見極める
  経営の基本となる固定費をどれだけ削減する必要があるか、効率化するために必要な対策を検証するものです。おもに人件費や事務所経費等営業活動を維持するうえで必要となる定期的費用をどの程度改善できるか判断する際に活用します。

 黒字体質の優良な会社経営を目指す最終的な目標としては、現状の売上を維持しつつ、ケース2による変動費改革とケース3による固定費改革を組み合わせることで、黒字体質の会社=損益安全率を20%まで改善することが可能か見極めることが重要となるのです。


【損益分岐点分析による経営改革の捉え方】