3.原価実態の捉え方

〜商品サービス別・仕入先お客様別・部門別等状況把握のコツ〜


 会社経営を維持するためには「売上」を計上することが前提となりますが、売上の源となる原材料や商品、サービスを如何にして「安く」「確実に」「効率的に」仕入れることができるか考える必要があります。特殊な技能やノウハウを提供するサービス業は別として、国内で多くを占める製造業、卸・小売業、建設業、不動産業等は利益の基となる「原価」の実態を「過去・現在・将来」にわたり正確に把握できるか否かが重要となります。

 つまり、単に「原材料」を仕入れるのではなく、3つのキーワード「安く」「確実に」「効率的に」を前提に、実態を「適宜・適切」に見極めることができるように情報を整備、分析できなければなりません。

 昔ながらの取引関係や、人的な繋がりなどを重要視することも大切ですが、経営者として会社の実態がどのようになっているのか客観的に評価できる体制をどのように確立したら良いのか、経営者目線で「原価事態」の捉え方について考えてみたいと思います。

 また、仕入に関しては売上の基となる「販売計画」があってこそ「仕入計画」ができあがるものですから、年間、月間、週間の綿密な販売計画と商品在庫の状態を総合的に捉えながら考えることは当然ですが、詳細の考え方については「6項.経営計画を考える際に必要な情報」においてご説明します。


「5W2H」から捉える

 売上実態の捉え方でも説明しましたが5W2Hの見方は仕入原価の実態を捉える上でも同じであって、「誰から(=Who)、何を(=What)、何時(=When)、何処で(=Where)、どのような目的で(=Why)、どのような方法で(=How)、幾らで(=How much」仕入れたのかという観点から物事を捉えることがポイントになります。

 つまり、売上のベースとなる販売計画に基づく「仕入」について一つ一つの商品やサービスがどのような取引先から仕入られたのかという事実を次のような観点から区分することが重要なのです。

・Who=どのような取引先なのか? 上得意の既存の取引先なのか、新規の取引先なのか?
・What=商品やサービスの中身は? 取扱商品別・サービス別は? 既存品か新商品か?
・When=何時取引したのか? 最近それとも過去? 頻繁にそれとも偶に?
・Where=何処の地域で? 何処の事業所、店舗で?
・Why=既存の商品サービスの販売のため? 新規商品サービス提供のため?
・How=直接取引で? 代理店等を通して? 電話やFAXで? インターネットで?
・How much=正規の価格で? 特別価格で? 割増しで?


【仕入先を分類する=Who】

 会社の利益を考えた場合、「粗利益」→「営業利益」→「経常利益」という段階を経て体系化されますが、そもそも事業を継続できるか否かの基となる「粗利益」とは「売上−原価=粗利益」の算式からも分かるとおり「商売の大元の利益」と言う意味であり、商品売買益、商品がもたらす利益とも言えます。

 本来、粗利が赤字になることは無く、どんなに販売不振で1個しか売れなくても、売上−原価=粗利益で必ず黒字としなければなりません。粗利が赤字になるのは原価割れで売るときしかあり得ないのです。仮に仕入れた商品が売れなかったとしても損益計算(P/L)から除外されて費用になることはなく、在庫、すなわち棚卸資産としてB/Sに計上されることになるからです。

 つまり、売れる商品やサービスを、「安く」「最適なタイミング」で「確実」に提供してくれる仕入先をどれだけ抱えているかにより会社経営は大きく変わるということです。

 自分の会社にとって無くてはならない重要な仕入先なのか、何時も定期的に商品やサービスを提供してくれる上得意の取引先なのか、必要がある時に時々仕入れる先なのか、新しく取引を開始したばかりの仕入先なのか等、色々な観点から見極める必要があります。

 売上げや利益に貢献できる取引先なのか否か等、会社として仕入先を見極める一定の基準=「顧客セグメント基準」を定め、当該基準に基づき仕入の実態がどのようになっているか検証することができるように情報を体系化することがポイントです。

 売上の際にも適用した代表的なセグメント基準を前提に「金額・頻度・経過日数・継続回収」の4つの情報を活用して9つの取引先グループに分類することも一つの管理手法です。




【商品やサービス別に区分する=What】

 次に、仕入れている商品やサービスの内で、会社の経営に一番貢献している商品やサービスは何かを適切に把握しておくことも重要です。単に売上高との関係から捉えるのではなく、「販売計画」に基づく「売れる商品は何か、利益が出ている商品は何か、在庫として売れ残ることはないか、更に、不良品や毀損等商品やサービス価値を劣化させる要因は無いか」という観点も加味して考えることがポイントになります。(利益の捉え方は別セッションで解説します)

 商品サービスの実態を捉えることができる最もシンプルな見方を表すと次の通りとなります。



 この例から考えますと、全体の仕入実績は前期と比べほぼ同じであったとしても、主力商品サービス「○○○○」については不良品発生率も低く、月に1回程度の割合で安定して仕入れることができており、且つ、在庫期間も短く回転率が良いと判断できます。一方で、頻繁に仕入れることが多い「××××」に関しては、前期と比べて仕入額は増加傾向ですが不良品発生率が高く経営上で問題になる可能性がでてきています。何故不良品発生率が高いのか、お客さまからクレーム等は発生していないのか早急に確認する必要があります。

 検証方法は売上実績を捉える場合と同様に単純ですが、実態を正しく捉えるためには有効な方法です。集計する基準を「仕入先企業別」「地域や営業所別」「チャネル別」に変更することで、仕入活動のパフォーマンスを捉える指標としても利用できます。


【仕入時期と頻度別に区分する=When】

 仕入計画は支払いや月末の棚卸の条件を加味して考える必要がありますから、月単位で作るのが一般的であり、販売計画にあわせた仕入が基本となります。仕入計画で最も問題になるのは、定番、季節性、ニッチマーケット向けの商品、固定客向けの商品・・・等商品ごとに性格があり、いつ仕入れるべきなのか、いつまでフォローし確保すべきなのかルールを作っておく必要がある点です。単品ごとの分析や管理を行なっていないケースの場合、いつも在庫が豊富になってしまうケースが多いものです。特に、在庫は売れるのであれば資産ですが、売れないものはロスです。そのロスを少しずつ見逃していくと、いつの間にか死に筋商品になってしまいますから、一定の在庫金額や在庫量を超えるようであれば、絶対に仕入れないというルール決めが必要となります。



 つまり、商品在庫の状態や棚卸方法を考慮しながら、商品や仕入れ先別に「どの位の頻度」で「何時」仕入れているのか適切に把握できる情報として体系化することがポイントとなります。(在庫残高に関しては期末時点だけではなく、毎月末時点の残高を把握できることが重要です)

 更に、集計する基準を「仕入先別」「地域や営業所別」「チャネル別」に変更することで、仕入活動のパフォーマンスをより正確に捉えることも可能になります。

 また、在庫を管理するという観点からすると「棚卸方法」についての特徴を理解したうで計画を立案するように努めることも大切です。




【地域や事業所別に区分する=Where】

 仕入についても営業活動地域をどのように考えるか重要な検討テーマとなります。仕入担当者が営業活動する際に効率的に行うためには、地域別の実態を把握する必要があります。また、事業所や店舗、支店等がある場合も同様に、営業拠点における実績を正確に把握しなければなりません。

 売上の実態把握同様に、活動エリアという観点から情報を体系化するには、取引先のお客様の住所を何等かの方法でコード化して管理する必要があります。(売上情報と同様に、国土地理院等が定める11桁のコード「都道府県+市町村+町丁+番地」を使用し営業エリアの情報を集約することがポイントです。)


【仕入目的別に区分する=Why】

 商品サービスの仕入目的に関しては、販売計画や在庫管理に基づき、従来の取扱商品やサービスを補完する意味合いから仕入れるケースと新たなお客様を獲得すべく新たな商品やサービスを仕入れるケースに大別することができます。年度毎に計画される「販売計画」を前提に目的別の仕入状態を「販売計画」「売上実績と在庫残高」との関係から把握できるように工夫することが重要となります。お客様別売上実績と在庫残高と関係から「新規に扱う商品やサービス」が予想通り実績をあげているのか否か「既存商品やサービス」の実績はどうなのか、更には、在庫不足となり「販売機会」を逸しているケースは無いのかを仕入目的別に検証することも重要です。


【利用チャネル別に区分する=How】

 また、商品やサービスを様々なルートで仕入れるケースも想定されます。商品やサービスをどのルートで仕入れることができるのか、より綿密な販売計画を立案する上では重要な検証テーマです。

 仕入担当者が取引先を直接訪問して仕入れるケースが多いものと思われますが、仕入効率を高めるために代理店等提携先を経由して仕入れるケース、電話やFAX、インターネット等の通信媒体を経由して仕入れるケース等、商品サービスの仕入窓口=チャネル別に実績を管理することも重要なポイントです。近年では、効率化を実現するために、通信媒体を利用した仕入注文を多用するケースも多くなっていますので、仕入の取引先別に「担当者営業」なのか「通信媒体利用」なのか、個々の仕入案件毎の条件を区別して管理することも必要となります。


【利用価格別に区分する=How much】

 また、仕入原価を計上する際に注意すべき点は、販売計画に基づく仕入価格が「(1)正規価格」によるものなのか、新規仕入先開拓のための「(2)特別価格(割増を事前に決定しておく)」による仕入なのか、取引継続のためや政策的な仕入先支援等を目的とした「(3)割増」による仕入なのか、商品サービス別の仕入原価の価格についても、情報を整備することが必要です。

 (1)、(2)に関しては仕入計画に基づくものと判断することができますが、(3)のように緊急的な対応によるものの場合は、仕入れコストアップの要因にもなりますので、経営者等の最終決裁による対応なのか否か常に確認できる体制を整備しなければなりません。


経営者としての情報活用のコツ

 以上、中小企業の経営者としては、主要な商品やサービスの仕入状況がどのようになっているのか、決算書の売上原価の数字だけではなく、詳細な実情を捉えることについて説明しました。

 売上情報と同様に、決算書を作成するための仕分伝票や総勘定元帳、補助簿等経理で保管している会計上の情報を基に、「社長として捉えておきたい情報」を見える化する工夫をする必要があるのです。仕入れに関しては、単に実績を把握するだけではなく、販売計画に基づく仕入計画との比較・検証という点も考慮して「情報」を活用しなければなりません。

 基本となるのは「仕入先企業」と「商品サービス」に関する情報です。管理する目的として仕入先を「取引先管理コード」として捉えると同時に、商品サービスに関しては売上情報との連携も加味して「商品コード」として基本属性情報の一つとして体系化しておき、当該情報を基に様々な角度から収集、加工、編集して「見たい情報」=経営者情報として活用することが重要です。

 売上情報同様、仕入れに関する情報に関しても「5W2H」の区分で情報を体系化し活用することが重要であり、単一の要素のみで情報を捉えると傾向を誤る可能性もあります。複数の要素を組み合わせながら検討する工夫と習慣を如何にして確立することができるかが経営者としての「資質」ではないでしょうか。