2.売上実態の捉え方

〜商品サービス別・販売先お客様別・地区別等状況把握のコツ〜


 会社経営を維持するためには、業種・業態に係らず「取扱っている商品やサービスをお客様に利用してもらい対価を払ってもらうこと=売上を計上すること」が基本となります。

 経営者の中には「売上が○○億円を超えた」「売上が昨年の○○倍になった」等、会社の状態を「売上高」の数値によって表現する方々が多いようです。会社の状態に問題が無く、成長を続けている場合はあまり気にもならないのでしょうが、実際のところ、「この状態は何時まで続くのか」と心配している経営者も多いのではないでしょうか。

 会社の状態が良い悪いに関係なく「売上」の実態がどのような状態になっているのか、今後どのようになるのか、「過去・現在・将来」にわたって正しく理解できない経営者は成長しないとも言われます。

 会社の実態を正しく理解するための方法論が「管理会計」の考え方であることは前回のセッションで説明しましたが、今回のセッションでは「売上実態」という側面から、経営者として捉えるべき情報のポイントについて解説したいと思います。


「5W2H」から捉える

 ビジネスの世界では、常に「誰が(=Who)、何を(=What)、何時(=When)、何処で(=Where)、どのような目的で(=Why)、どのような方法で(=How)、幾らで(=How much」という「5W2H」の観点から物事を捉えることがポイントなります。

 売上実態を正しく把握する上でもこの考え方は重要となります。つまり、一つの商品やサービスがお客様に利用されたという事実を次のような観点から区分することが重要なのです。

・Who=どのようなお客様なのか? 上得意の既存のお客様なのか、新規のお客様なのか?
・What=商品やサービスの中身は? 取扱商品別・サービス別は? 既存品か新商品か?
・When=何時利用してくれたのか? 最近それとも過去? 頻繁にそれとも偶に?
・Where=何処の地域で? 何処の事業所、店舗で?
・Why=既存の商品の補充のため? 初めて使用するため?
・How=直接来店して? 代理店等を通して? 電話やFAXで? インターネットで?
・How much=正規の価格で? 割引価格で? 値引きで?


【お客様を分類する=Who】

 会社にとって最も重要なのは「取引してくれるお客様」をどれだけ確保できるかですが、そのお客様が自社にとってどのようなお客様なのか正しく理解しておく必要があります。

 自分の会社にとって無くてはならない重要なお客様なのか、何時も定期的に商品やサービスを利用してくれる上得意のお客様なのか、利用はしてくれるが何時も注文をつける厄介なお客様なのか、新しく取引を開始したばかりのお客様なのか等、色々な観点から見極める必要があります。

 売上げや利益に貢献できるお客さまなのか否か等、会社としてお客様を見極める一定の基準=「顧客セグメント基準」を定め、当該基準に基づき売上げの実態がどのようになっているか検証することができるように情報を体系化することがポイントです。

 既存のお客様の代表的なセグメント基準は「利用金額・利用回数・利用時期・継続利用」の4つの情報を活用することで9つの顧客グループに分類し、当該基準を前提に「売上」を年間合計額、月間合計額に集計し、前年同期と比較して変化があるのか否か、更には、今後どの位の計画を立てるか等に利用することです。



 「優良なお客様を如何にして増やしたらよいのか」というテーマは、会社経営者にとって永遠の課題でもありますが、「優良なお客様は誰なのか」を見える状態にすることが大切なのです。


【商品やサービス別に区分する=What】

 次に、取扱っている商品やサービスの内で、会社の経営に一番貢献している商品やサービスは何かを適切に把握しておくことが重要です。これは、単に売上高からだけで捉えるのではなく、利益が出ているのか否かという観点も加味して考えることがポイントになりますが、自社の売上の実態を捉える上では大変重要な見方です。(利益の捉え方は別セッションで解説します)

 商品サービスの実態を捉えることができる最もシンプルな見方を表すと次の通りとなります。



 この例から考えますと、全体の売上実績は前期と比べほぼ同じであったとしても、主力商品サービスである上位3銘柄の内2銘柄の売上減少が顕著になっており、仮に、前々期と比べても同じ傾向であったとすれば、今後、経営に大きな問題が生じる可能性がでてきます。主力商品サービスが何故売れなくなったのか早急に原因を究明し対策を打たなければなりません。

 この検証方法は単純ですが、実態を正しく捉えるためには有効な方法です。集計する基準を「お客様別」「地域や営業所別」「チャネル別」に変更することで、営業活動のパフォーマンスを捉える指標としても利用できるものです。


【利用時期と頻度別に区分する=When】

 年間を通してどのように売上が計上されたのかを把握することで、販売戦略等を策定する際にも参考になります。個々の商品サービスが毎月どのように売れているのか確認することです。品目によっては毎月一定の金額が売れるケースもありますし、月によって大きく変化するケースもあります。1年間の結果だけを見るのではなく、3〜5年間の月々の売れ行きの変化を捉えることで傾向値として経営状態の変化を把握する際の重要な「要素」にもなります。更に、集計する基準を「お客様別」「地域や営業所別」「チャネル別」に変更することで、営業活動のパフォーマンスをより正確に捉えることも可能になります。




【地域や事業所別に区分する=Where】

 会社経営者としては、営業活動地域をどのように考えるかも重要な検討テーマとなります。営業担当者が営業活動する際に効率的に行うためには、地域別の営業実態を把握する必要があります。また、事業所や店舗、支店等がある場合も同様に、営業拠点における実績を正確に把握しなければなりません。

 但し、営業エリアという観点から情報を体系化するには、取引先のお客様の住所を何等かの方法でコード化して管理する必要があります。現在では、国土地理院等が「都道府県+市町村+町丁+番地」までを11ケタのコードで体系化していますので当該情報を利用して、営業エリアの情報を集約することは可能となっています。


【利用目的別に区分する=Why】

 商品サービスの利用目的に関しては、お客様と接した情報を収集して集約する必要があり手間とコストが掛かりますが、既存の売上情報を基に工夫することで代用することも可能です。お客様情報と商品サービス情報を組みわせることで「新規に利用されるケース」なのか「リピートして使用するケース」なのか把握することができるでしょう。


【利用チャネル別に区分する=How】

 また、商品サービスを様々なルートで販売するケースの場合は、当該商品やサービスがどのルートで利用されているか確認することで、より綿密な販売計画を立案することも可能となります。

 店舗や窓口に来客された方に販売するケース、直接営業担当者が営業して販売するケース、代理店等提携先を経由して販売するケース、電話やFAX、インターネット等の通信媒体を経由して販売するケース等、購入される窓口=チャネル別に実績を管理することも重要なポイントです。但し、この場合も、何処で利用されたのか識別できるように売上情報を計上する際には「チャネル別コード」等の特定の情報を定義して利用する工夫が必要となります。


【利用価格別に区分する=How much】

 また、売上を計上する際に注意すべき点は、販売計画に基づく「(1)正規価格」による売上なのか、上得意のお客様向けの「(2)割引価格(割引率を事前に決定しておく)」による売上なのか、販売すること=売上計上を達成することを目的とした「(3)値引き」による売上なのか、商品サービス別の売上計上価格についても、情報を整備することです。

 (1)、(2)に関しては販売計画に基づくものと判断することができますが、ノルマ達成のため等、本来実施してはいけない営業活動による売上計上は結果として会社にとってマイナス要因となるため、洗い出せるように工夫することも必要になります。


経営者としての情報活用のコツ

 以上のとおり、中小企業の経営者としては、会社の状況がどのようになっているのか、決算書の売上高の数字だけではなく、詳細な実情を捉えることが重要なのです。

 つまり、決算書を作成するための仕分伝票や総勘定元帳、補助簿等経理で保管している会計上の情報を基に、「社長として捉えておきたい情報」を見える化する工夫をする必要があります。

 基本となるのは「お客様」と「商品サービス」に関する情報です。管理する目的として、お客様には=「顧客コード」、商品サービスには「商品コード」を基本属性情報の一つとして体系化しておき、当該情報を基に様々な角度から情報を収集、加工、編集して「見たい情報」=経営者情報として保存することが第一ステップとなるのです。

 「5W2H」の区分で情報を見る見方を説明しましたが、単一の要素のみで情報を見ると傾向を誤る可能性もありますので、複数の要素を組み合わせながら検討する習慣をつけることも経営者資質を高めるためのキーファクターとなるのではないでしょうか。