1.経営実態の捉え方

〜決算数値からとらえる「効率性・安全性・成長性」指標〜


 会社を成長、発展させようという強い意志をもった中小企業経営者にっと重要な関心事としては、本来、「今の経営方法でよいのか…?」「今後の経営環境はどうなるのか…?」そして「会社の将来はどうなるのか…?」という今後の見通しを見極めることが主体となるはずですが、ややもすると「今後の売上はどれくらいになるのか」「利益はでているのか=儲かっているのか」「毎月の資金繰りは大丈夫なのか」という近視眼的なテーマを重視する傾向が強いのではないでしょうか。

 会社経営を考えた場合、専門書などでは、まず、第一に「経営理念」と「経営ビジョン」を明確にし、実現するための方法論である「経営戦略と戦術」を体系化しなければならないと説かれていますが難しく考えることはないのです。事業規模の大小にかかわらず、会社を経営する経営者であれば「将来における自社のあるべき姿」を明確にし、それを実現するために「何をしなければいけないのか具体的な方法」を時々の情勢を見ながら常に考えていれば良いのです。

 「あるべき姿」と「行動すべき方法」を明らかにするためには、現在の会社の実態がどのようになっているのか、正しく理解することがポイントとなります。この、会社の実態を正しく理解するための方法論が「管理会計」の考え方に他ならないのです。

 管理会計は財務会計と引き合いにされますが、会社の実態を対外的に公表するために作成する決算書等の財務諸表を作成する仕組みが財務会計とすれば、会社の真の収益性や採算性を明らかにし、会社のあるべき方向性を導き出すための経営実態の捉え方を管理会計と表現することができます。

 ただ、銀行等と取引をする場合、必ず提出を求められる資料が「決算書=貸借対照表と損益計算書」です。銀行では、提出された決算書等の数値から「財務分析」を行い、取引できる会社なのか、それとも取引できない会社なのかを判断することが多いことから、今回のセッションでは「財務会計において会社実態を評価する重要ポイント」をまとめることとします。

 会計学のように難しい財務理論を考える必要はありませんが、以下で説明する指標を改善するために、どのような方策を考えなければならなか、そのヒントとなるのが「管理会計」的側面による情報活用なのです。

財務会計的側面から企業を評価するポイント

 会社を評価する場合にポイントとなるキーワードは「効率性・安全性・成長性」です。

 3つの要素を見極める際、銀行では色々な指標を利用して分析しますが、中小企業経営者として押さえておくべき指標は「総資本(経常)利益率」「自己資本比率」「資産・売上・利益伸び率」の3項目でしょう。

図表1−【会社の体力を評価する3要素】
図表1−【会社の体力を評価する3要素】

【総資本(経常)利益率】

 会社がもっている経営資源(財務数値に現れない技術力等は加味されないが)を如何に効率よく活用して利益を出しているのかを評価する指標です。

 「総資本利益率」または「ROA」とも呼ばれ、会社が全ての資本を利用して、どれだけの利益を上げているのかを示す総合的な収益性の財務指標として、投資家が上場会社を評価する際の指標としても重要視されますが、分母の総資本は企業規模を表し、分子の利益は会社の一定期間の最終成果を現しています。経常利益の他に営業利益当期税引き前利益等を使うことで事業活動の実態を様々な角度から捉えることもできます。

 この指標は、会社が持っている総資本=全ての資産を利用して事業活動を行い最終的に利益獲得のためにどれだけ有効活用されているかを表しており、会社の収益効率をチェックする指標として利用されるのですが、「利益/総資本=(利益/売上高)×(売上高/総資本)」と分解され、「総資本利益率=売上高利益率×総資本回転率」となることから、収益性と効率性を同時に示す指標でもあり、この数値を向上(改善)させるためには、このどちらかあるいは両方を高めるための対策を考えることがポイントとなるのです。

 利益率を高めるための対策としては「商品サービスの収益力面を高め」「営業活動力を強化し」「財務面を改善する」方策を考えなければなりません。一方、総資本の回転率を高める為には「売上高を伸ばす」「総資本のボリュームを減らす」ための対策を考えることとなり。つまり、数値を改善するために何をすべきか考えるための基本となる数値(=総資本利益率)を正確に把握しておくことが重要なのです。

【自己資本比率】

 会社は事業を行う際に色々な資金が必要となります。商品を仕入れたり、商品を加工する機械設備を購入したりしますが、事業活動を行う上で必要となる様々な資産を調達する際に必要となる資金は、自己資金で賄うのかそれとも他人から融通を受けて賄うかに分かれます。

 自己資本比率とは、自己資金で賄う割合、つまり、返済不要の自己資本が全体の資本を調達する際に何%を占めているかを示す数値であり、会社の安全性を見る上では大変重要な指標として考えられています。

 「自己資本比率=自己資本÷総資産×100」の計算式で算出されますが、自己資本比率が小さいほど、他人資本の影響を受けやすい不安定な会社経営を行っていることになります。逆に、自己資本比率が高ければ高いほど経営は安定し倒産しにくい会社と評価されるのです。

 中小企業の場合、一般的に自己資本比率が50%以上なら理想企業、30%以上なら倒産しにくい企業ともいわれますが、自己資本比率を高めるためには、他人資本(借入金等)を減らし、同時に利益を積立て自己資本の割合を増やすことが第一です。また、固定資産や売上債権、在庫の状態等を上手にコントロールして資産の残高を減らし、分母である総資本を減少させる方法を考えることも重要となります。

 つまり、利益のでる事業活動を行うには何をすべきなのか、総資産を効果的に活用するためには何をすべきなのか考えることで「自己資本比率」を引上げることができるのです。

【資産・売上・利益伸び率】

 会社を成長、発展させるには事業規模を拡大する必要があります。しかし、むやみに体だけを大きくしても体を支える筋肉を強化しなければ大きくなった体を効果的に動かすことはできません。事業規模を拡大するには、前述した効率性を示す「総資本(経常)利益率」と安全性を示す「自己資本比率」の要素も考慮しながら、身の丈に合った成長ができているのか否かを見極めることも重要となります。

 事業を拡大すべく新たな設備投資を行い、売上高を倍増させたとしても結果として利益が上がらなければ全ての要因が悪化することになります。つまり、事業を拡大するとしても利益がでるための方策を色々な面から考えなければならないのです。

 「今年は前年比○○%の売上増加を目標とするので頑張ろう」と経営者が社員にハッパをかけるケースを見かけますが、単に売上至上主義だけでは会社は良くなりません。「売上を伸ばす」という目的=目標を実現するためには、もっている経営資源を如何にして効率的、効果的に活用するのか、利益を得る為には何をしなければいけないのか総合的に考えた方策を示すこと、これこそが社長が考えるべきテーマなのです。

 つまり、事業規模、売上、利益の3つの要素を正しく理解してバランスのとれた内容で成長する方策を考えることが重要なのです。

財務会計的指標の捉え方

 以上のとおり、中小企業の経営者としては、会社の状況がどのようになっているのか、決算書の数値が出てきた段階で、まずは、実情を捉えることが重要なのですが、「効率性」「安全性」「成長性」の各指標がどのようになっているのか、特定の指標と比較しながら見極める仕組みを体系化しておくことがポイントとなります。

 今期の数字がどうなっているのか検証するための考え方としては、自分の会社の状態から判定する方法と外部の情報を活用しながら判定する方法が考えられます。

 自分の会社の状態から判定する方法は、これまで説明した各種財務数値の過去5年間の平均を算出しておき、平均の値と比べ良くなっているのか悪くなっているのかを検証するものです。

 一方、外部の情報を活用する方法は、自分の会社と同じ業種で事業規模(売上高や総資産額)が同じ位の会社の数値と比較して優劣を検証するものです。業界数値については各種統計情報として公表されているので、その数を活用することで比較は可能です。

 つまり、自社の数値と比較対象とする数値の状態がどのようになっているのか、図表−2のように見えるように工夫することです。青い線を自社の今期の数値とし、赤い線を比較数値(過去の平均値または外部統計情報)として、要因別に何が良いのか悪いのかを直感的に検証し、改善方法を考える情報として活用することがポイントとなるのです。

図表2−【経営者としての確認の仕方】
図表2−【経営者としての確認の仕方】