ポスト金融円滑化法対策「銀行融資業務の実際」

2.担保・保証・実行後管理


(3)融資実行の管理1(モニタリング)

 E銀行とは長年取引をしているが、最近担当者が訪問してくれる頻度も少なくなっている。社長をしていた父が体調を崩し現場への復帰が難しくなったことから長男である専務が社長に就任することになり、先日変更登記が終わったばかりです。
 銀行とは、長期の借入金が少し残っている程度で半年後には完済になるので、何か手続きをする必要はあるんでしょうか。このまま何もしなくても良いのでしょうか。

 銀行における融資取引先の管理に関しては、取引先の変動により融資金の回収に支障が生じないように、常日頃から「権利や義務」の関係に変化がないのか注意し、且つ、変化があれば適切に対処しなければならない=融資実行後のモニタリングを徹底するよう指導されています。

 特に、以下の5項目に関しては重要なポイントとなりますが、代表者の変更となれば、保証や担保等の権利関係に重大な影響が起こる可能性がありますので、当然、手続きを行わなければなりません。

1)貸出債権の変動
2)債務者の変動
3)担保の変動
4)保証の変動
5)延滞債権の管理のポイント


【貸出債権の変動】

 貸出債権に関しては、契約通り返済されていれば問題ないのですが、契約期間前に一括して繰り上げ返済となる場合は、何故返済されるのか、その原資は何なのか確認します。特に優良な取引先の場合は、他の金融機関に肩代わりされることのないよう常日頃から管理を徹底しているため銀行内部でも問題となります。

 また、保証人や第三者からの返済や、相殺等のように銀行側の意思に反した返済の場合は、権利関係において問題も発生するために注意が必要となります。

 融資取引がある場合は、定期的に取引金融機関の融資残高の報告を求めることが一般的であって、自分の銀行の借入金残高の推移はもちろん、他の金融機関の残高についても変動があればその要因を確認することがよくあります。業況が悪化すれば、他の債権者から強制的に法的手続きにより返済を求められるケースもあるからです。


【債務者の変動】

 融資取引は長期継続されることから期間中に、債務者本人に変動が起こるケースがありますが、銀行としては、貸出金の回収に支障が生じないように契約内容についての変更等、適切な対応をとらなければなりません。

 債務者の変動といっても様々なケースが想定されますが、一般的に以下のようなケースを想定して日頃から管理するように指導されています。

●融資先の死亡

 融資先が死亡した時点の貸出金は相続人に相続される扱いが一般的ですが、当座貸越取引や根抵当権担保の取引の場合は注意が必要となります。また、相続の方法によっても対応は異なります。


●法人成り、組織変更、合併

 個人経営であったものが、法人組織に変更するケースです。個人の財産・債務が法人の財産・債務に変動するもので、法人成りの手法には「現物出資」「営業譲渡」「営業の賃貸」がありますが、個人から法人へ債務が変わるため、債務の引受けについての契約手続きが必要となります。

 また、これまで合名会社であった先が株式会社へ組織を変更するケースもありますが、相互間では会社の同一性は維持されますが、取引内容の変更契約が必要となります。

 合併の場合は、合併する会社を全て解散して新会社を設立する場合と、合併する会社を一つ残し他の会社は清算し存続会社が吸収する場合がありますが、解散会社の権利義務は清算手続きを経ないで新会社へ承継されるのが一般的です。

※債務引受
 ・ 免責的債務引受
 旧債務者は債務から免れ、新債務者が旧債務者の負担した債務一切を引き受けるもので、債権者、旧債務者、新債務者=引受人の3者間で契約する

 ・ 重畳的債務引受
 旧債務者は債務から免れることはなく、引受人である新債務者が旧債務者と一緒に同一内容で債務を負担する。

●営業譲渡

 企業が行っている事業(営業資産)そのものを、買い手に譲渡する行為であり、一部門だけの譲渡する一部譲渡と、すべての事業を譲渡する全部譲渡があります。土地・建物などの有形資産や、売掛金・在庫等の流動資産の他に、無形資産である営業権や人材、ノウハウ等も譲渡対象となります。ただし、営業譲渡では、企業債務などは自動的には継承されないため注意が必要とされています。

 つまり、譲渡人と譲受人が契約により営業を譲渡するものであって、個々の権利義務に関しては、銀行側に個別に譲渡や対抗要件を備える手続きが必要となるからです。また、過剰な債務を逃れるために第二会社を設立して、営業財産や技術力などの価値のある無形資産を譲渡し、債務は引き継がないことに利用されるケースがあるからです。近年では、事業再生を目的として、事業の良い部分と悪い部分を分離する際に活用されるケースもあります。


【担保の変動】

 担保物件に関しても、融資取引の期間中に様々な変動が起こる可能性があります。担保物件としての評価そのものが、時間とともに劣化することにより減価することがあります。

 また、担保提供者が他の借入の担保として新たな債権者に差し入れることにより、担保を換価する際に手間がかかることもありますし、税金等の滞納により差押えなどの法的処分を受けるケースもあります。

 担保は「融資先の信用状態の悪化によるリスクを回避し融資金の回収に支障が生じないように」するために物件を差し入れてもらっている訳であり、回収可能性が悪化する要因が発生していないか常に状態の変動には注意を払っています

 そのため、銀行内部では、定期的に担保物件の状態を実査したり評価を見直する作業を行うこととなっています。


【保証の変動】

 保証を申受けるのは、融資先(=借主)以外の人(=社長)の一般財産を融資金の回収の保全として捉える(=人的担保)ことが目的であるため、融資金を回収できるだけの資力や能力があるのか常に確認する必要があります

 経営者が病弱で現役を引退し、後継者として子息が経営者になったっ場合、一般的には新しい社長が保証人となりますが、引退後も会社の実態を掌握していたり、大株主のままであったりと会社経営に影響があるようであれば、保証継続を要請する等の対応も必要となります。

 法人保証に関しても、取締役会において保証の要件を満たさなくなることで保証そのものが無効になることもありますので、銀行内部では、定期的に保証人の実態=行為能力と負担能力の確認を行うこととしています。


【延滞債権の管理ポイント】

 融資取引先の場合、融資契約上の約定の履行状態の変化から経営状態の悪化をチェックしています。約定返済日に返済が行われなくても、月内に約定を履行すれば実質的な延滞とはならず延滞扱いにならないケースがあります。月を超えて延滞している場合は、融資管理上「延滞先」として管理し約定どおり返済が行われるか否か徹底した確認を行わなければなりませんが、一時的な延滞の場合は管理しないことが多くなります。

 しかし、企業の取引振りという観点から考えますと、約定日に契約通り返済が行われないということは取引姿勢として問題があり、「約定日の引落不履行」が毎月継続的に起こる場合は、取引先の業況が悪化傾向にあるアラーム情報として捉え、業況についてモニタリングを強化しますので、以下のような状況にならないよう日頃から注意する必要があります。

長期借入金の約定日不履行(当日中の解消も含む)が6ヶ月間の間に3回以上発生する
短期借入金の約定日不履行が6ヶ月間の間に3回以上発生する
商業手形の割引先銘柄の不渡り・組戻しが6ヶ月間の間に3回以上発生する
口座振替契約の引落不能が6ヶ月間の間に3回以上発生する

 また、月を超えて延滞状態が長期化した場合、銀行としては「時効」の管理を徹底します。

※時効制度

 一定の事実の状態が長期間継続することで、その事実に関する権利関係が合致していなくても、それを事実の権利関係と認める制度です。時効には「取得時効(=権利を得る)」と「消滅時効(=権利が無くなる)」がありますが、銀行では債権の消滅時効の管理を徹底しています

 ・ 手形貸付債権
 返済期日の翌日または期限の利益を喪失した日から進行が始まります。
 手形上の債権に関しては3年、銀行の融資債権の期間は5年になります。

 ・ 証書貸付債権
 金銭消費貸借債権であり期間は5年になりますが、契約上分割返済となっているため、それぞれの割賦金については、返済期日の翌日から時効が進行します。

 銀行では、時効が完成すると、銀行の債権は消滅するために時効を中断する措置をとるのが一般的です。時効の完成を防ぐ措置としては以下の方法を採用しています。

債務承認…銀行に対して債務があることを書面をもって認めてもらう。

催告 書面等により返済を督促する方法をとります。ただし、催告した日から6ヶ月以内に裁判上の手続きをとる必要があります。

裁判上の請求 裁判所へ支払命令や破産の申立てを行ったり、破産や会社更生法の手続きに参加することです。

差押・仮差押・仮処分 担保不動産に対する抵当権の実行による競売の申し立てによる強制執行の差押えや仮差押えの場合認められています。