金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」解説集

事例26「資本的劣後ローンへの取扱ポイント」


 金融検査マニュアル別冊の「事例26」は業績悪化に陥った企業に対し、合理的かつ実現可能な経営改善計画の策定が可能であると判断し、金融支援の一環として財務リストラにより発生した債務超過部分を「資本的劣後ローン」に転換しているが、基本的な要件を全て満たしていることから債務者区分については要注意先と判断し、且つ条件変更した貸出金についても貸出条件緩和債権に該当しないものとしている事例です。

 企業の再生計画を策定する際の支援手法には、(1)借入金の返済条件を見直すリスケジュール、(2)債務を株式に交換するデット・エクイティ・スワップ(DES)、(3)従来ローンを劣後ローンに変換するデット・デット・スワップ(DDS)、(4)債権者が債務者に対して有する債権の一部を放棄する債権放棄、(5)地域再生ファンドの活用等様々なものがあります。

 基本的には事業継続を前提とした経営改善の可能性を見極めた上で過剰債務を解消する再生手法として活用されるものの一つが「資本的劣後ローン」です。

 監督官庁の見解では、資本的劣後ローンによるデット・デット・スワップ(DDS)を、「資本調達手段が限られている中小・零細企業においては、事業の基盤となっている資本的性格の資金が債務の形で調達されていることが多い(擬似エクイティ的融資)。このような状況を踏まえて、金融機関が、中小・零細企業向けの要注意先債権(要管理先への債権を含む)を、債務者の経営改善計画の一環として資本的劣後ローンに転換している場合には、債務者区分等の判断において、当該資本的劣後ローンを資本とみなすことができることとする」としています。

 「債務の株式化=DES」は債務を株式に交換することで、企業にとっては債務を圧縮し資本を増大することにより資本構成を強化でき、債権者である銀行にとっては債務者の株式を保有することで単なる債務免除にならず企業の再建から生じるメリットを享受することが期待できます。具体的なスキームとしては、株式発行による払込金を負債返済に充当する「現金振替型」と債権者が貸付金を現物出資することで株式に変換する「現物出資型」に分類されますが、資産の時価評価を厳格に行う必要がある点がポイントとなります。

 一方「資本的劣後ローン=DDS」は、借入債務の一部を返済順序の低い債務に交換することによって、当該劣後部分を資本と同等と見なすことで負債を圧縮し資本構成を強化する効果があります。ただし、資本的劣後ローンに関しては以下の条件を満たす必要があります。


1. 合理的且つ実現性が高い経営再建計画と一体として適用される。
2. 金融機関は市場ルールに基づき当該ローンについて適切な引き当てを行う。
3. 資本的劣後ローンに関する契約に関しては下記条件につて、金融機関・債務者双方の合意の上で締結される。
  • 返済は、転換時に存在し予定される全ての債権が完済された後に償還が始まる
  • デフォルトが生じた場合、金融機関の請求権の効力は他の全ての債権が弁済された後生ずる
  • 財務状況の開示を約し、債務者のキャッシュフローに一定の関与ができる
  • 期限の利益を喪失した場合、債務者は当該金融機関に有する全ての債務について期限の利益を失う

 事例の場合、資本的劣後ローンの上記要件を満たしていることから財務内容については問題が解消されているものの、業況に関しては、経営改善計画の進捗状況が今後不透明な点もあることから要注意先として判断していますが、実現可能性の高い、抜本的な経営再建計画に沿った金融支援による貸出金の条件変更であり、貸出条件緩和債権には該当しないとされています。

 しかし、経営を維持、改善する事が出来るのか否か改善計画の進捗状況をモニタリングし適切に評価することが重要なポイントとなります。

資本的劣後ローンの具体的取扱い事例参照