金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」解説集

事例21「保証協会融資の元本返済猶予債権の評価ポイント」


 金融検査マニュアル別冊の「事例21」に関しては、債務者の業況は厳しく返済能力の低下は明らかで、短期間で回復基調になることは難しいことから債務者区分は要注意先として判断するも、貸出金は全て信用保証会の保証付き貸出であり回収には懸念ないことから「貸出条件緩和債権(=元本返済猶予債権)」には該当しないと判断している事例です。

 金融機関に示されている監督指針では、元本の回収に懸念がない場合でも、返済期限の延長が行われた場合、条件変更時の金利が、債務者と同等の信用リスク(=貸出したお金が返済されない危険性)がある債務者に通常適用される新規貸出金利を下回っている場合は貸出条件緩和債権に該当するとされていますが、本件事例の場合、信用格付(=信用リスクの度合いに応じた基準)に基づく信用リスク管理が未整備のため、基準金利に基づく判定を行っていないことから、信用リスク相当の判断基準をどのように考えるかがポイントとなります。

 信用保証協会のような公的信用保証機関の保証、金融機関の保証、複数の金融機関が共同して設立した保証機関の保証、地方公共団体と金融機関が共同して設立した保証機関の保証に関しては「優良保証」という位置付けから、通常、貸出金の回収には懸念なく信用リスクは極めて低く、信用コスト(=回収できなくなった場合の費用負担)を加味する必要性も低いものと考えられます。

 本件事例のように、金融機関において信用リスク管理が未整備の状態であっても、条件変更時の貸出金利の水準が金融機関の調達コスト(=資金を調達するコスト+経費コスト)を下回るような場合を除いて、当該貸出金については貸出条件緩和債権に該当しないものと考えることができます。

 ただし、これらの保証付貸出であっても、保証機関等の状況、手続不備等の事情から代位弁済(=保証機関が債務者の代わりに返済すること)が疑問視されるような場合や金融機関が履行請求(=保証会社に代位弁済を請求する)の意思がない場合には、優良保証とはみなされないこともありますので、このような場合は「貸出条件緩和債権」と判断されます。

 また、この考え方は貸出金が保証や担保によって全額保全されている場合も同様の扱いとなりますが、担保・保証の考え方について理解しておくことが重要です。


参考:貸出条件緩和債権とは…
 借主の経営再建または支援を行うことを目的として、金利の減免、利息の支払猶予、元本の返済猶予、債権放棄その他の借主に有利となる取決めを行った貸出金をいいます。返済が長期間滞っている延滞債権とは異なりますが、貸出条件緩和債権と判定されると、金融機関は当該会社を「要管理先以下」と判定することになりますので、新たな融資を受けることが難しくなることがあります。


参考:優良保証と考えられる保証の内容とは…
A. 前述の保証機関の保証
B. 一般事業会社の保証
原則として証券取引所に上場している配当を行っている会社の保証で、保証者が十分な保証能力を有し、保証契約に瑕疵がなく、正式な保証書により「被保証者が約定通り返済しないときは遅延なく保証を履行する」意思を保証者が明確にしている(取締役会での承認を得ている等)場合。
C. 保険等
住宅債権支援機構の「住宅融資保険」、貿易保険制度による「輸出手形保険」及び「海外投資保険」の公的保険のほか、民間保険会社の「住宅ローン保証保険」などの保険等。