金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」解説集

事例20「耐用年数以内の期限延長の評価ポイント」


 金融検査マニュアル別冊の「事例20」に関しては、債務者の業況は低迷を続け実質債務超過であり、業況改善は見込めないことから要注意先と判断していますが、貸出金の証書貸付に関しては条件変更は行ってはいるものの条件変更後の最終返済期限が法定耐用年数に収まっていることから「貸出条件緩和債権(=元本返済猶予債権)」には該当しなしと判断している事例です。

 銀行法施行規則第19条の2第1項第5号ロ(4)で「債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として、金利の減免、利息の支払猶予、元本の返済猶予、債権放棄その他の債務者に有利となる取り決めを行った貸出金」を貸出条件緩和債権と規定しています。本件事例では、アパート等の収益物件に対する貸出金について、家賃収入が大幅に減少し資金収支が厳しくなったことから返済期間を延長することで約定返済額を軽減して欲しいとの申し出に対して、収益物件である賃貸不動産の法定耐用年数以内での条件変更について応じることは債務者に対して有利な一定の譲歩を与えているとは言えないとして、貸出条件緩和債権に該当しないとの判断をしているものです。

 一方、監督指針では、貸出条件緩和債権に該当するものとして「当該債務者に関する他の貸出金利息、手数料、配当等の収益、担保・保証等による信用リスク等の増減、競争上の観点等の当該債務者に対する取引の総合的な採算を勘案して、当該貸出金に対して、基準金利(当該債務者と同等な信用リスクを有している債務者に対して通常適用される新規貸出実行金利をいう。)が適用される場合と実質的に同等の利回りが確保されていない債権」と定義されています。つまり、元本返済の猶予に関しては「期間」の長さによって判断するのではなく、信用リスクをカバーできるだけの金利を適用できているか否かも併せて検討する必要があるのです。

 本事例の場合、金融機関側のリスク管理体制が未整備のため、基準金利に基づく貸出条件緩和債権の判定を行っていないことから、約定条件変更時の金利水準が同等な信用リスクを有している債務者に対して通常適用される新規貸出実行金利水準を下回っているか否か判定することは難しく、以下の点について総合的に考えなければなりません。


 つまり、金融機関側としては、企業としての信用力担保物件により保全されている割合、更には借入期間を総合的に判断できる判定基準を確立するためにも、経営者と意思疎通を図り具体的な対策を考えることがポイントとなるのです。