金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」解説集

事例19「元本返済猶予債権の評価ポイント(2)」


 金融検査マニュアル別冊の「事例19」に関しては、3期連続赤字が続き債務超過に陥り、業績の回復も見込まれないことから債務者区分は要注意先と判断しているが、貸出金に関しては、短期運転資金として手形貸付を同条件にて書替継続するも、金融機関内部で定める基準金利=短期プライムレートを上回る金利を適用していることから「元本返済猶予債権」には該当しないと判断している事例です。

 事例18同様に「貸出条件緩和=元本返済猶予」に該当するか否かを判定する根拠として、基準金利を上回る金利を適用しており運用上問題ないというものですが、本件事例の場合は以下の2点について検討、考察する必要がりあります。

1. 資金使途および返済原資は確かなのか

 長期設備資金として利用すべき土地取得資金を短期貸出金で対応、物件完成後に本来の長期約定返済貸出に組み替える予定であったが、計画が頓挫したこと、併せて業績も悪化傾向であり大口の倒産により債務超過に陥ったことからキャッシュフローが不足しており当該資金の返済の見込みは立っていない。また、土地に関しては担保として徴求しているが土地価格の下落により処分価格は貸出金の40%相当にしかならない。以上の点を考えれば、実質的には長期資金化しているものを短期資金の「ころがし」で対応、返済を猶予しているものと同等の扱いと考えられます。

2. 基準金利が適用される場合と同等の利回りが確保されているか

 債務者の返済能力が極端に低下(〜信用リスクが増大)している状況において、本来ならば「当該債務者と同等の信用リスクを有している債務者に対して通常適用される新規貸出実行金利」を基準として、当該金利を上回る金利を適用していなければなりませんが、本事例の場合、金融機関側が一律短期プライムレートを基準金利として適用しており、当該基準金利+0.1%の金利を適用していることから基準は満たしていると判断しているものです。しかし、本来であれば債務者の業績悪化にともなう返済能力の低下=信用リスクの増大分を考慮すれば、本件適用金利は基準以下の金利と判断する必要があります。

 以上の2点を総合的に判断すると、本件事例の場合、事例18と比較すると「返済原資が無い」「基準金利を下回っている」という点から「元本返済猶予債権」ではないとする判断には無理があります。

 しかし、債務者との密なコミュニケーションにより経営状態を検証した結果、黒字体質に改善する可能性があり、且つ、活用が頓挫している土地の処分も含めた借入金の圧縮を実現し、収支計画による約定返済が可能となる再建計画を策定当該事業計画に基づく支援の一環として短期資金の書替を一時的に行っているという説明ができるのであれば「元本返済猶予債権」には該当しないとする判断は可能と思われます。つまり本件事例でポイントとなるのは実現可能性の高い再建計画を立案できるか否かという点なのです。