事例17「貸出条件変更に至った要因」
金融検査マニュアル別冊の「事例17」に関しては、賃貸アパート経営を行っている個人事業主に対する不動産融資について、老朽化と不景気による賃料の引き下げ等環境悪化要因を加味し、現在の資金収支でも対応できる返済条件に変更しており回収に懸念が無いことから「正常先」と判断している事例です。 |
個人の方で遊休不動産の有効活用を考える場合や、土地持ち富裕層の相続対策として借入金による賃貸アパート事業を計画される方も多く、金融機関としても長期資金の需要発掘の意味から積極的に推進してきた経緯にあります。貸出から5年程度までは計画通りの資金収支で経営されるケースが多いのですが、年月が経つと同時に物件としての魅力も低下する一方で、近隣に新しい物件が建築されるなど競合も多くなることで、想定された資金収支を維持できなくなるケースも多くなります。
不動産賃貸物件に対する融資のみの取引先に関しては、以下の内容を適切に把握できるよう日々のモニタリングを徹底するとともに、返済が困難になった要因を明確に見極め、長期的に経営を維持できるか否か適切に判断しなければなりません。
- 賃貸物件の概要および近隣の同室物件の有無、賃貸料の相場
- 対象物件が100%稼働した場合の資金収支による返済可否の検証
- 現在の入居状況及び近隣相場も加味した現時点による資金収支による返済可否の検証
- 上記3を基準に借入金に対する返済可能額の算定と中長期的な改善パターンの検証
- 物件構造別(木造:20年、鉄筋結構:40年等)の最長借入期間による返済収支検証
つまり、
貸出の返済条件に関しては、金融機関内部における融資規程により定められている通常の借入期間の範囲内での返済条件・返済期間に収まっている場合は原則として貸出条件および履行条項について問題はないと考えることができます。
しかし、事例17の場合、
現在の家賃収入において返済できる範囲内に返済条件を緩和し、返済できない部分に関しては最終返済期限に一括返済する(総額の50%)という内容になっています。条件緩和後の返済状態は延滞もせず約定通り行われているため、正常債権として扱っていますが、留意すべきポイントがいくつかあります。
- 現在保有の賃貸ビルの価値はどれ位(=処分見込額)なのか評価してみる
- 物件処分による貸出金の回収はどの位になるのか今後数年の見込も含め試算してみる
- 物件価値を維持するための「修繕・改善」費用の負担はできるのか確認しておく
- 最終的には物件処分による借入金返済の意思があることを借主本人から確認しておく
- 物件を処分しても、借主が生計を維持できるだけの収入が在るのか否か確認しておく
以上を総合的に検証した上で
貸出債権全額の回収が見込まれる内容による条件変更であるのか、また、現在の条件よりも更に緩和支援しなければいけないのか、条件変更の内容が正しいのか否か判断する必要があるのです。