コンサルティング情報 〜戦略コンサルティングレポート

第120回 懐かしの「キンケシ」「ビックリマン」が大人気に!
企業が続々発売する“復刻版”がいま熱いワケ

 先日、あるニュース番組の取材で「復刻版」について話をする機会がありました。

 最近、創業当時のラベルや形、味、内容を再現した「復刻版商品」をよく目にします。なぜこれほど復刻版が世の中にでてきたのか、その秘密を探りたいというものでした。

 あらためて私たちのまわりを見ていると、たくさんの復刻版商品が発売されていることに気づかされます。

 なぜ今、復刻ブームなのでしょうか。

 今回は、復刻版の人気の背景と現状、そしてこれからヒットを生み出すためのマーケティングのポイントについてお伝えします。


■情報・モノが溢れる時代に復刻版が人気を集める理由

 復刻版人気の背景を探るには、売り手側と買い手側の両面を見る必要があります。

 2011年に入り、景気が上向きかけているという話も聞きますが、まだまだ本格的な景気回復には至っておらず、売上を上げるのに苦戦している企業も多いのが現状です。ヒット商品をなかなか出せずにいる状況が続いている企業は、なんとかヒットにつなげようと、様々な商品を世の中に発信してきました。

 一方、買い手である消費者は、テレビや雑誌だけでなく、WEBやツイッター、フェイスブックなどを通じて、たくさんの情報に接するチャンスが増えました。しかし、情報過多の状態に陥り、その中から何が自分にとって必要なものなのかを判断することが非常に難しくなりました。

 つまり、売り手も買い手も、「拠りどころ」がなくなってしまってきているのです。(参照:「ブランディングナビ」)

 何を基準にして作ればいいのか。
 何を基準にして買えばいいのか。

 それが分からないのです。

 拠りどころがなければ、モノを作って売るのも、そのモノを見て購入するのも難しくなります。できれば何かモノサシが欲しい。そこで、そのモノサシの1つとして、過去にヒットした商品の実績を参考に、復刻版商品を販売。すると、それがあらためて人気になった、というのが復刻版商品の人気が生まれた大きな背景です。

 では、どのような商品が復刻版として売り出されているのでしょうか。


■お菓子からアイドルまで! 様々なジャンルで“復刻版”が登場

 最近の復刻版ブームの特徴は、ジャンルを超えて広がりを見せているということです。ざっと挙げただけでも次のような復刻版が発売(一部販売終了のものもあり)されています。

表1 復刻版商品の例

 あらゆるところで復刻版が生まれてきており、これらの商品が一定以上の売れ行きを保っていることを考えると、復刻版市場というのは企業にとって軽視できない市場であると言えます。

 では、ここまで復刻版が世の中で受け入れられているのはなぜなのでしょうか。


■復刻版人気の背景は、「不安の解消」と「バブルへの憧れ」にあり

 こうした復刻版の購入の中心となっている年代は30代〜40代の「おとな」の消費者です。昔の少年・少女達が中心になってこれらの商品を購入しています。

 ここには「消費者意識の変化」が見て取れます。

1.大人の子ども化

 かつては漫画やおもちゃ、お菓子などは大人になったら卒業するものであって、「大人になってまで漫画を読んでいたら恥ずかしい」という意識がありました。

 しかし最近では、電車に乗るとスーツを着た40代以上のサラリーマンが熱心に漫画を読んでいる姿、休み時間にジュースを美味しそうに飲む姿、食玩をいそいそと買い込む姿もめずらしくありません。

 そしてこの年代層に特徴的な買い方が「おとな買い」です。つまり、「ここからここまで全部ください」という、子ども時代はできなかった買い方が、大人にはできるのです。そうした背景からも、復刻版は大量にまとめて販売されたり、シリーズセットで販売されることも多く、結果として単価を高く設定できる商品になっています。

2.バブルへのノスタルジー

 最近発売されている商品は、日本が高度成長期、もしくはバブルに浮かれていた時代に発売されていたものが多いのも特徴です。

 「バブルの頃は良かった!」と昔を懐かしがっている40代男性が多いとも聞きます。しかしもうバブルの頃には戻れないし、そんな時代はもう来ないだろうということも彼らは分かっています。

 ですから気分だけでもその頃に戻りたいという心理状態が、復刻版商品の購入につながっているとも考えられます。その商品に触れている間だけは、良かった頃の昔にタイムスリップしているのかもしれません。

 冒頭で述べたように、今の消費者は不安を抱えています。生活不安、心理不安、人間関係不安、家庭不安、仕事不安など不安の種類はさまざまです。

 2010年9月に日銀が実施した『生活意識に関するアンケート調査」でも、「1年後を見た勤め先での雇用、処遇」に関して「不安を感じる」と答えた人は約87%という結果がでています。

 昔はこれほどの不安を感じる人は日本には少なかったように思いますが、この結果のように不安意識が高まっているというのが現状なのです。

 このようなこともあり、良かった時代、楽しかった時へのノスタルジックな思いが復刻版人気を支えているのかもしれません。

3.ヒットしたという実績が商品開発の裏づけとなる

 今の日本では書籍、音楽、食品、ドリンク、外食、ファッション、車、旅行、小売市場含めて、さまざまな市場が縮小傾向にあります。同時に爆発的ヒット商品が生まれにくくなりました。もちろんヒット商品がないわけではないのですが、昔の音楽市場で見られた、「ミリオンヒット」CDのような大ヒット商品を見かけなくなりました。

 このような状況ですから売り手側も、まったく新しい商品を世の中に産み落としたいと思っているはずです。しかし、失敗したらどうしようと恐れたり、売上シミュレーションを出しなさいと上司に言われても明確なデータを提出できないためになかなか新しい商品企画に踏み切れないというのが本音でしょう。

 このような時にも、「この商品はご存知のように弊社の一大ヒット商品であり…」という一言だけで、みんなの理解や共感を得られるのが復刻版商品が成功する非常に大きなポイントです。当然、そのままでは発売できませんから、「そのヒットしたものを今風にアレンジ」した結果、復刻版商品の人気がさらに拡大しているのです。

 商品を企画開発していく段階では市場調査、市場把握、ターゲット動向の把握などさまざまなマーケティング調査が必要になります。

 また、商品には必ず試作品が必要で、そのための金型の製作などに何千万、何億もかかる場合があります。そうして出来上がった商品が売れるかどうかは市場に出してみないと分かりません。

 しかし復刻版であれば、ある程度の予測が立ちます。昔購入した方が再び反応してくれる確率、新たな購買層が興味を示してくれるかもしれない確率、またそれを陳列する小売店側のバイヤーが興味を持つ確率が高くなるからです。

 つまり、復刻版とは社内会議に通りやすく、商談も進めやすい。その結果、売り場で購入してもらえる確率を高められる商品であると言う事ができます。そのような背景もあり、たくさんの商品が生まれてきているのです。


■「分かりやすいこと」が大切な開発の視点

 しかし復刻版だからと言って、そのすべてが消費者に受け入れられているわけではありません。また、復刻版は「昔作った商品だからコストも安く抑えられる」わけでもありません。

 復刻版表の中で紹介した「キンケシ」は色も形も顔もできるだけ発売当時に近い形で再現されています。しかし、当時の金型はそのまま使えず、再度、金型をおこして作っているという点ではコストがかかっています。

 復刻版だから安く作れて利益がとれると考えて開発していくようなマーケティング力では、おそらく商品の売れ行きは芳しくないでしょう。復刻版もゼロベースで考えるくらいの企画開発プロセスが必要だと私は思います。だから復刻版も人気を集めることができたと言えるのです。

 こうしている間にも世の中にはたくさんの商品やサービスが生まれています。しかし、あまりにもたくさんの情報やたくさんの商品があるばかりに、何が良くて何が悪いのか判断できないというのが消費者の本音なのではないでしょうか。

 いろいろあっていいけれど、いろいろありすぎて分からない。だからこそ、ぱっと見て、その商品やサービスの独自性やアピールポイントが分かりやすいものが受ける時代なのです。

 復刻版ではありませんが、最近のヒット商品であるスマートフォンも、画面が大きくて見やすく、指で画面をタッチするという分かりやすさがあります。最近日本でも注目を集めているフェイスブックも、実名で知り合いとリアルに近い感覚で交流できるというのが売りで、画面も分かりやすいつくりになっています。だから世界中で支持されているのでしょう。

 復刻版も同様に、非常に分かりやすい商品といえます。その商品名やロゴ、デザイン、カラーを見た時に、それを使ったり飲んだり食べたりした時の記憶が目に浮かびます。大人たちにとって、非常に分かりやすい商品なのです。

 情報収集の手段や媒体が複雑になり、メディアがどんどん小さくなり身近になればなるほど、売り手側は買い手側にとっての分かりやすさを意識しなければなりません。分かりやすさを上手に表現できた企業のマーケティングが、これからの消費者のこころを掴むことにつながります。それが企業に大きなヒット商品となってかえってくることでしょう。