コンサルティング情報 〜戦略コンサルティングレポート

第110回 もはや女性だけの流行ではない!
経営者までも殺到するパワースポット大旋風の理由

 ここ数年、若い女性を中心に「パワースポット」が大変な人気です。そこに行くとパワーがもらえる場所。そんな場所に人が集う時代になっています。

 以前であれば、“なんだか怪しい場所”と捉えられていたパワースポットも今では、“最先端の流行発信基地”であり、一部の人にとっては、そこへ行くこと自体が“ファッション”にさえなり始めています。

 パワースポットが、なぜ今流行になっているのか。パワースポットに人が集まる背景には何があるのか。そして、パワースポットから見えてくるマーケティングのヒントとは何かについて、今回はお伝えしていきます。


■パワースポット人気の発端はある大物芸能人の海外旅行?

 パワースポット人気を決定づけ、しかも、大衆に広げた大きなきっかけは、2010年お正月明けてすぐに発覚したある大物芸能人カップルの海外旅行でした。

 それは、ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんと歌手・安室奈美恵さんの「セドナ旅行」です。2人の意外(?)な組み合わせと、日本ではまだあまり知られていなかったアメリカのアリゾナ州にある「セドナ」という場所が、非常に注目を集めました。

 2人の関係は別として、なぜ「セドナ」に注目が集まったのでしょうか。それは、セドナが世界的に有名な“パワースポット”であり、ここで日ごろの疲れを癒してパワーをもらいたい人達が世界中からたくさん集まっている場所だったからなのです。特に、セレブ層や有名人が多数訪れているらしいという話がさまざまなメディアにて紹介され、「パワースポット」が一躍脚光を浴びることとなりました。


■「パワースポット」とは何か

 もともと「パワースポット」という言葉を作ったのは、スプーン曲げで有名になった清田益章氏だと言われています。1990年代始めに、「大地のエネルギーを取り入れる場所」としてパワースポットという表現を使っていました。

 その後、1990年代後半にかけて、特別な「パワー」を得られる場所を「パワースポット」と一般的にも呼ばれるようになります。

 そして2000年代に入ると、スピリチュアルな世界が、ある意味“普通のこと”として扱われ始めました。それまでは“オカルト的な扱い”だったメディアも、「神秘的な現象は世の中にはたくさんありそうだし、若年層が興味を持っていることから新しい流行になるかもしれない」として取り上げ始めました。

 こうしたことからパワースポットが広く認知されるようになっていきました。

 最近では地方の景勝地や観光地までもパワースポットと呼ばれるようになり、そこに行くと元気がでる、癒される、ほっとする、安心できるところはすべてパワースポットと呼ばれるようになっています。

 また、「ユニクロやディズニーランドこそがパワースポットの代表的存在」と言う人さえも現れ始めています。

 シンプルに定義すれば、パワースポットとは、「そこに行くとエネルギーを感じられて元気がでる場所、パワーを注入される場所」と言うことができるでしょう。

 私はこれからの時代、このパワースポット的要素を企業が取り入れ、どのようにマーケティングに応用するかを真剣に考える必要性があると考えています。

 私自身も、パワースポットの代表的な存在の1つである分杭峠(長野)や榛名神社(群馬)に行く機会がありました。そこで以下では、訪れたパワースポットから感じ取った大きなトレンドについて整理してまいります。


■最強のパワースポット分杭峠(ぶんぐいとうげ)のチカラ

 先日、弊社の会員様向け視察ツアーを行いました。「スゴイ会社・人の創造力パワー」視察・体感ツアー(2010.5/20〜21)というものです。私共ではこうしたものを「クリニック」と呼びます。クリニックとは、時流やモデル企業事例を見て、経営者が直観力や時流適応力を高めるための勉強法です。私共ではこうしたクリニックを数多く実施してきています。

 今回のツアーでは長野に行ってきました。小布施の町並みやさまざまなモデル企業を視察してきたのですが、その中で私が楽しみにしていた場所が「分杭峠」でした。

 パワースポットとは、その名の通り、そこに行くと、なぜかチカラやエネルギーが湧き出てくる場所です。大げさに言えば、“奇跡が起こる場所”でしょうか。

 その代表的なスポットとして、いま一番注目されている場所が今回訪れた分杭峠なのです。

 このツアーには、約30名の経営者の方々が参加され、バスに乗って視察をしてきました。では、経営者をも引き付けるそのパワーとは、一体何なのでしょうか。

■分杭峠とは

 分杭峠は、一部の人々から、「健康に良い『気』を発生させるゼロ磁場地域である」と称されている場所です。中国の気功師・張志祥が来日した際に分杭峠に「気場」を発見したとされています。

 日本最大、最長の巨大断層地帯である中央構造線の真上にあり、2つの地層がぶつかり合っている、という理由から「エネルギーが凝縮しているゼロ磁場であり、世界でも有数のパワースポットである」と称されており、マスコミでも多数取り上げられています。

 分杭峠は、長野県伊那市と下伊那郡大鹿村の境界付近にあります。

 長野県伊那市の南アルプスの西側を走る伊那山脈の峠の1つで、標高1424メートルの地点にある山の中です。

 「元極学」という中国政府が公認する気の研究団体の創始者で、世界的にも著名な張志祥氏が1995年に分杭峠を発見したと言われています。中国で奇跡を起こす場所として有名な「蓮花山」を発見している張氏が、蓮花山に勝るとも劣らない良好な“気”がでている場所と明言したことから分杭峠は有名になりました。

 今、この分杭峠にものすごい数の人が集まり始めています。


■分杭峠パワーの源と言われている「中央構造線」

 この峠の下には、「中央構造線」が走っています。中央構造線とは、九州から東海地方、関東地方へと延びる1000キロに及ぶ大断層のことです。両側の地質の異なるN極とS極の地層がぶつかり合って、そこがゼロ地場(磁力の高低の変動が大きく、全体的にゼロに近い磁気の低い状態を保持している場所)と呼ばれています。

 中央構造線は断層なので、地中で断層の重なり合っている部分から、地磁気などが地表に不定期に上がってきていると言われています。この地磁気が身体の水分子に作用して、身体を活性化させているのではないか、というのが、この分杭峠の奇跡の説明です。

 地元の伊那市役所のIさんにご案内していただいたのですが、最近はテレビの取材も非常に多いことなどが影響してか、週末には車がすれ違えないほど人が押し寄せているとのことでした。

 平日で300〜500人。休日で1000人近い人が分杭峠を訪れています。

 数としてはたいしたことはないと思われるでしょうが、ほんとうに山の中の、ちょっとしたスペースに数百人が訪れているというのは想像を絶する光景です。

 私も経営者のみなさまと一緒にここを訪れたのですが、訪れた日が平日であったにもかかわらず、その日も300人以上の人が訪れていました。

 分杭峠にはたくさんの奇跡があるようで、私が聞いた話では、「杖をつかないと歩けなかった人が、分杭峠に通って今では杖を使わずに歩けるようになった」「肩凝りがとれた」「腹痛がなくなった」「やけどのあとが消えた」などなど、枚挙に暇がないほどの分杭峠効果が続出しているようです。

 もちろんこのような場所は、人によって「合う、合わない」があります。「効く人、効かない人」はいるものです。すべての人にとって最高の場所とは言いませんが、この分杭峠の持つパワーに魅せられた人が毎日ここを訪れているということは事実です。

 私は分杭峠を訪れて、パワースポットが人を引き付ける理由がなんとなく分かった気がしました。


■日本の代表的な「観光地」が「パワースポット」へ

 現在、マスコミなどで取り上げられたり、パワースポットマニアの間で注目が集まっている代表的なスポットとして、以下の8つが挙げられます。

【表1】日本の代表的パワースポット8選

 今は単なる観光として訪れるのではなく、こうしたパワースポットを巡り、エネルギーを蓄えたり、そこに行くこと自体を楽しむという流れがあるようです。つまり、パワースポットが、なんだかマニアックな暗い世界、ちょっと怪しいオカルトチックな世界から、時流に適応したファッション感覚のあるおしゃれな世界へとシフトしているといえるでしょう。これはとても大きな変化です。

 そして、単なるブームではなく、人々のパワースポットへの関心はますます高まっていくように私は感じています。

 では、これらが多くの人々に注目される背景には一体何があるのでしょうか。


■「憧れの自分を手に入れたい欲求」の台頭〜消費者の欲求変化に対応せよ〜

 私はパワースポットブームに、消費者の欲求変化のトレンドを感じています。この欲求変化こそ、私達が見ておかなければならない大きなトレンドなのです。

 では、そのトレンドとは何か。それは、「憧れの自分を手に入れたい」、「なりたい自分になりたい」という欲求です。これからのマーケティングは、この消費者欲求の変化をきちんと取り入れなければ成功しないと私は考えています。

働き方で未来が変わる!! 社員が誇れる会社をつくる  拙著の『働き方で未来が変わる!! 社員が誇れる会社をつくる』(秀和システム)でも述べていますが、世の中の時流は「モノからコトへ」と大きく動いています。その流れがここにきてさらに進化しているのです。

 私たちはモノがまだ少ない時代には「物欲」で消費をしてきました。洗濯機、車、テレビ、ステレオなど、「モノそのものを欲しい」というものです。

 そして次第に、「自分だけの○○が欲しい」という欲求に変化していきます。「自分だけのステレオが欲しい」、「自分だけのレコードが欲しい」、「自分だけのストーブが欲しい」など、まさに“モノ”が欲しかったわけです。

 1990年ごろまで、その代表格だったのがクルマです。クルマは1985〜90年ごろの若者にとっては、なくてはならない必須アイテムでした。私も苦労して中古の車を手に入れて乗っていました。当時の私たちにとってクルマとは、「自由に移動できる自分だけの部屋」で、とにかく“最高のモノ”でした。最近の若者にとってクルマが興味の対象外になっていることが信じられないくらいです。

 こうしたモノを手に入れると次に欲しくなるのが、出かける「場所」です。このあたりから「モノからコトへ」と欲求が移っていきます。

 「温泉に行きたい」「ディズニーランドに行きたい」「スキーに行きたい」など、モノではなく、「○○に行って、そこで何かを体験したい、経験したい」という欲求が強くなります。

 こうしたことを一通り経験すると次に何を求めるか。それが「知的欲求」、そして「憧れの自分を手に入れたい欲求」です。これは自己実現欲求と言ってもいいかもしれませんが、それよりも少し軽い感覚です。

 人はモノをすべて手に入れて、ある程度のことを体験するようになると、次には自分自身を磨く、自分の知性を磨くことにお金と時間を使うようになります。これが知的欲求です。だからこそエステや英会話、ジム、料理教室などが流行しているわけで、こうした欲求は決してなくならないものなのです。

 そして外面を磨き、見た目を綺麗にすると、次にでてくるのは内面を磨くという欲求です。パワースポットでツキやエネルギー、チカラを吸収したいという欲求は、目に見えない何か、よく分からないものを身体の内面から感じたいというニーズに他なりません。

 これは年代・性別に関係なくでてきている傾向ですが、特に女性や若年層、そして一流経営者の間で、目に見えないものを大切にする欲求がではじめています。

 ある程度のモノとコトに満たされた私たちが欲しいのは、「磨かれた自分・ステップアップした自分」です。同時に、「これまで体験したことがないドキドキ・ワクワク」や「達成感・充実感」などを求める欲求もかなり強く求められています。

 「技術を高めたい」、例えば「料理の腕前をあげたい」とか、「もっと美しくなりたい」という欲求は確かにあるでしょう。しかし、多くの人は決して「技術」を身につけたいのではないと私は思っています。

 それ以上に、「内面磨きを頑張って素敵な自分、憧れの自分を手に入れたい」と思っている人が多いのです。「なんだか私って素敵かも」「なんか俺って頑張ってる」。そんな自分になるための経験や体験に時間とお金を使いたいのです。特に最近、こんな気持ちを持ち始めた人がますます増えているように私は感じています。

 物質的な欲求、利便性など、単なるモノやサービスを求める時代から、素敵な自分を求める時代に世の中は明らかに変化しました。これこそがこれからの時代に欠かせないマーケティング、「なりたい自分を求める欲求に対応するマーケティング」だと私は思います。素敵な自分づくりをサポートする商品やサービスこそが、お客様の求めるものなのです。

【図1】欲求進化のタイムライン


■「目に見えるもの」から「見えないもの」、「効率」から「非効率」の時代へ

 これまではどちらかと言うと、モノやサービスでも「目に見えるもの」ばかりに注目が集まり、私達はそれらにお金と時間を使ってきたように思います。

 しかし、これからの世の中では、「目に見えないもの」「形に表しにくいもの」「手がかかるもの」「効率的とは言いにくいもの」が大事な世の中になっていくように私は考えています。

 これは言葉を換えると、効率から非効率の時代へと変化していくということです。単に効率だけを求めて、利便性だけを追求していく時代から、もっと大切なことが世の中にあることに人々が気づき始めたのです。

 それは、気やエネルギーであったり、パワーであったり、情熱や感謝、心遣い、気遣い、優しさなどです。いずれも手間がかかりムダが多いようにも思われます。同時に大量消費社会ではあまり大事にされてこなかったものかもしれません。

 しかし、これからの人口減少・高齢化社会の日本。成熟した社会においては、こうした「目に見えない、非効率なもの」を求めるように変化せざるを得ないのです。

 私共では2005年から「情熱経営フェスタ」というイベントを開催しています。これまでのご参加者数は8000名を超え、2010年の今年も11月2日(火)に開催(東京・九段会館)いたします。

 情熱がなければ、どんなに素晴らしい戦略も何の意味も価値もない。すべての仕事にやりがいを感じ、すべての方に情熱を持つことの意味を知っていただきたい。それが仕事を成功に導き、人生を豊かにさせるのだという趣旨で開催しています。このイベントを通しても、経営の中で”情熱”という目には見えにくいものに人々の価値が向けられ始めていることを年々実感しています。

 非効率なことを大切にする経営。手間のかかることをよしとするマーケティング。これがパワースポットブームの背景にある“商売のヒント”です。


■これからの時代に求められる「パワースポット型経営」とは

 以上のように、「目に見えにくいもの」へと人々の欲求が移っているとするならば、パワースポットが持つ要素を企業のマーケティングの中に取り入れることが、今後の経営における1つの方向性であると私は考えています。

 ではどのような要素がこれからの経営には必要なのでしょうか。

【パワースポット型経営のヒント】

 1.自然体である
 2.おもしろそうなイメージ、可能性を感じさせるイメージをもっている
 3.女性をひきつける要素を持つ
 4.共有、クチコミで広げたくなる
 5.わざわざ感がある

 これをマーケティングに落とし込むと次のようになります。

【パワースポット型マーケティングのポイント】

 1.夢の提供(いつかは願望の実現サポート)
 2.ドキドキ体験(はじめて、知らない世界を見る)
 3.女性脳的訴求(目先、目の前、ビジュアル重視)
 4.開運・招福・ツキ・パワー・エネルギー(開運アクセサリーなど)
 5. 誰かに伝えたくなるもの(分杭峠の水、新しい出会いのチャンスをもらえるなど)
 6. 憧れの提供(憧れ消費、皇室、有名人、タレント、女優に近づきたい)
 7. 自分だけをくすぐる提案(私しか知らないことという特別感)
 8. ファッション・トレンド的に見て恥ずかしくないもの(人から見て恥ずかしくない)
 9. 半歩先をいっていると感じさせるフレーズ(ハッピージュエリー)
10. そこ以外では持ち得ない独自性(企業や商品の独自固有の長所)

 いずれにしても人を引き付ける強烈な要素を持つことが必要なのですが、特に、「10.そこ以外では持ち得ない独自性」を持つことが、パワースポット型マーケティング実践の上では大切だと思うのです。

 いま私のお客様のところでは、このようなパワースポット型経営を実践していただいています。人を引き付ける魅力をどのように作り上げるかを、企業のブランドづくりのKFS(目標達成のために注力すべきポイント)として設定し、それを現場に落とし込んでいるのです。こうした取り組みこそがこれからのマーケティングキーワードになるように思います。

 パワースポット型経営、パワースポット型マーケティングで、新しい時代に取り組んでいくことが、これから商売をしていくうえでの1つのヒントになるはずです。