コンサルティング情報 〜戦略コンサルティングレポート

第105回 不況期は“下克上”の大チャンス!
低コストで顧客を引き込む営業戦略のコツ

■不景気には民族(=顧客)の大移動が起こる

 太古から天候不順などの不作が続くと民族の大移動が起こっています。そして、その度に国のあり方も大きく変わっています。

 現在でも状況は同じです。不景気になると民族(=顧客)の大移動が起こります。そして、盛衰する企業にも大きな変化が出ます。なぜ、このようなことが起こるのか、まずはシンプルに考えてみましょう。

 例えば、これまでお小遣いとして月5万円受け取っていたサラリーマンがいたとしましょう。それが不景気の影響を受けて、妻から「今月からお小遣い3万円ね」と言われたとします。すると、これまで常連だった店に通えなくなります。でも質は落としたくないので、同じお金でもよりよい質のところ、もしくは、同じ質でより安いところを探そうとします。つまり、それに従って一気に顧客の流動化が起こります。これは、好景気には起こりえないことです。

 BtoBでも全く同じです。売上がダウンすると、企業が真っ先に実施するのがコストダウンです。それはまず、今までの取引先の見直しにつながります。特に今回の不景気では、価格ダウンの要請を取引先にするのではなく、いきなり「あなたの会社とは、来月で契約を切らせてもらいます」と、バッサリ取引を打ち切る現象が起きています。つまり、顧客の流動化が一気に起こるということです。

 とはいえ、これは逆にいえば“大チャンス”です。なぜなら、2番手以下の企業でもシェアを大きく伸ばすことが可能であるからです。いい商品・サービスに対して適正価格を打ち出せる企業は、これを機会に思い切った営業戦略をとることをお勧めします。上手く新規顧客にアプローチできれば、自社の顧客層は一気に広がります。

 しかし、この決断は簡単でないことも事実です。過去に不況下でも売上を拡大した企業の事例を調べると、他社が営業コストや広告・宣伝コストを落とす中、反対にそこへコストをかけ続けて成功した企業がよくクローズアップされています。これは、ある意味正しく、ある部分では正しくないといえます。

 まず大前提として、これまで述べてきた競争力のある商品・サービスを適正価格で提供できる企業でなければなりません。その上で広告宣伝・販売促進コストをかけて、不況の中、思い切った営業戦略をとることは、いくら競争力を持つ製品を持っていたとしても、普通ならば二の足を踏むはずです。

 そこで私共としては、クライアント先には新しい営業戦略をご提案しています。

 それは、新しい顧客層をこれまで以上にローコストで取り込める新しい営業手法です。ここで重要なことは、「営業ターゲットの明確化」とそのターゲットに「ローコストで見込み客化できる仕組み」をつくことです。例えば、WEBの有効活用やカタログでの通販形式での販売などが挙げられるでしょう。営業コストを削減しながら新規顧客取り込み策を持てる企業が、一気にシェアを伸ばすことができるのです。


■売上も効率もアップ! 時流に即したローコスト顧客開拓

 それでは、卸やメーカーにおける新規顧客を取り込む営業展開施策の例を挙げてみましょう。

 現在、日本国内を対象としている多くの卸企業やメーカーは、国内市場縮小にともない、営業所の統廃合、もしくは営業人員の縮小を模索しています。また、取引先の売上縮小や信用不安から、取引先自体の選別に入っています。つまり、相手の企業規模が小さい先や信用不安先からは手を引く傾向も出ています。この小規模取引先をカットすると確実に企業の効率は上がりますが、売上ボリュームは下がります。どうやらそれをわかっていながらも、売上よりも効率を追う企業が確実に増え始めているようです。

 下の図を見ていただくと分かりやすいでしょう。取引先は、企業規模の大きいS及びAに集中特化し、規模の小さいBとCの取り引き先は取引を打ち切られていく方向です。自社のシェアが高いBの企業であっても、信用が低いことや営業効率が合わない場合もカットの対象となります。

【図1】企業規模×自社シェアにおける顧客分類と企業戦略について

 しかし我々は逆に、ここに眼をつけた新しい営業施策の提案を実施しています。

 企業規模の小さいところに営業社員を派遣すると、営業コストは見合いません。そのために、営業社員がいなくとも、顧客開拓、また、継続的取引ができる営業の仕組みを創り上げます。それが、WEB取引や営業コンタクトセンターの開設、顧客への本部集中情報提供、カタログなどを使った商品・サービス告知の仕組みなどです。小規模先の取引は極力人員をかけず、自動化し、そこにかかっていた人員は本当に営業コミュニケーションが必要な取引先に重点配置します。

 我々は、これを「BtoBダイレクト通販」と呼んでいます。不特定多数の規模の小さい顧客に、効率的にアプローチし、通販型で取引をしていく仕組みです。この不況下で、多くの企業が小規模取引を見直し、手を引いている中、この仕組みを取り入れていただいている我々のクライアント先は、この不況下でも売上を順調に伸ばしていただいています。


■実店舗とWEB店舗は重複しない? 小売・サービス業にもたらされた変化

 小売やサービス業に関しては、携帯を含むWEBの仕組みをいかに上手く取り入れるかがポイントとなっています。WEB導入が進んだ頃、よくいわれていた「クリック&モルタル」は、現在、死語のようになっていますが、実はいま、これが新しい形で急速にすすんでいます。

 実店舗で購買していただく顧客層とWEBで購買する顧客層は、似ているようで違います。ところが、多店舗を展開している企業ほど、WEB販売に力を入れることに二の足を踏みます。それは、自社店舗とWEB店舗がカニバリズムを起こし、売上が下がると考えてしまうからです。それを乗り越えて、WEBの仕組みを上手に会社に取り入れている企業は、消費不況の中でも好調を維持しています。

 また、WEB上で商品が話題を呼び、店舗に顧客を引き込むという逆現象も起こっています。WEBは、顧客と店舗の距離を縮め、さらにスピードをもたらすツールです。


■不況期に勝つためのキーワードは「顧客との距離を縮めること」

 対象顧客と自社の距離をいかに縮め、効率的にアプローチするか――。これが、今後の営業戦略における大きなキーワードです。そして、この不況期はありがたいことに、企業規模の大小やこれまでの信用はあまり関係ありません。

 不景気は非常にシンプルです。売れる企業・モノはより売れ、売れないものが本当に売れなくなるだけで、それが今回はいままでの不景気より強くなっているだけのことです。そのために、顧客は一番商品力を持っている企業により集中していく現象が起こります。

 乱世だからこそ、農民の出である豊臣秀吉が天下をとることができました。徳川の世では、農民の子はどんなに能力があっても農民です。同様にこの不況期を上手く捉えて、プラスに活かしてください。要は、これまでの発想・行動原理を一度捨て去り、新しい仕組みや発想を持つことです。アイデアと行動力次第で、コストを大きくかけなくとも売上を伸ばすことは可能です。