コンサルティング情報 〜戦略コンサルティングレポート

第102回 「客単価ダウン」に負けない!
デフレでも確実に利益を出す商品戦略

■デフレ経済下での「客単価ダウン」の悩み

 以前の記事で、不景気においては、同じ商品でも好景気時の価格帯に対して60〜80%程度の値をつけると売れやすくなることを述べさせていただきました。

 特にこのデフレ経済下では、多くの企業が「客単価ダウン」に頭を抱えていることと思います。そこで、この「デフレ」及び「客単価ダウン」の時流に対して、自ら「客数アップ×客単価ダウン」を戦略の1つとして考える必要があります。

 この“自ら”というところが重要です。何も対策を立てずに客単価がダウンした結果、売上・利益をともに減少させてしまうのではなく、“自ら”「客単価ダウン」そして「客数アップ」という“攻めの戦略”を選択することが大切なのです。

 ただし、「客単価ダウン戦略」は、同じ商品・サービスをただ安くして提供するというものではありません。今までと同じ商品・サービス、同じような原価のものを、単純に値下げして提供すると、企業の収益構造は一気に悪化し、経営は立ち行かなくなります。単価を下げながらも収益がとれるようにするには、経営努力が必要です。これができないのであれば、客単価ダウン戦略の選択はお勧めできません。

 そこで今回は、客単価ダウン戦略を支える「商品戦略」の考え方について説明していきましょう。


■“引き算発想”で商品を根底から見直す

 デフレ環境下での客単価ダウン戦略を採択する際、重要になるのが商品戦略です。価格を単純に60〜80%ダウンすると、よほどのことがない限り、多くの企業は赤字に転落します。しかし、それを実現できる企業は、商品を根本的に見直している企業です。では、この商品見直しの方法をお伝えします。

 まず、商品の基本機能以外の部分を“引き算”していき、基本機能のみの商品を考えてみてください。(好景気は逆で、基本機能に付加価値機能を上乗せしていき、単価をアップしていきます)これにより商品・サービスの単価を下げます。

 さらに、この基本機能自体も根本的に再構築し、価格を落としても儲かるようにしなければなりません。不景気の商品づくりは、基本機能を中心とした“引き算発想”が根本的見直しのポイントです。逆に好景気は、基本機能に付加していく“足し算発想”での商品づくりとなります。

■商品作りのポイント


■旅行業界にみる「客単価ダウン×客数アップ」戦略

 それでは、この基本的な考え方に基づいた商品戦略構築事例として旅行業界を挙げてみましょう。

 旅行業界も例にもれず、激しい客単価ダウンに見舞われています。

 旅館やホテルにおける宿泊料金をこれまでどおり正規料金にて提供しているところの大半は、客数が激減しました。そこで、多くの企業は仕方なく、単価ダウン(平均20%以上のダウン)を実施しました。結果、顧客数は戻ったのですが、売上はダウンしています。つまり、単価をアップすると顧客数はとれず、単価ダウンをすると今度は売上がとれないというジレンマに陥ってしまったのです。

 また、この不景気で旅行者数自体も減少しています。今期の大手旅行業界決算を見てください。ほとんどのところが、昨対比で20%以上売上をダウンさせています。それほど厳しい業界といえます。

 それに対して、このような厳しい環境下でも時流に対応し、早くから「客単価ダウン×客数アップ」戦略を選択していただいた私共のご支援先であるA旅館様は、結果として「単価85%」×「客数120%」、売上昨対105%アップを実現させました。しかも、経常利益に関しては、昨対「120%アップ」を達成していただいております。

 このような結果が出た理由は、客単価をダウンさせながら利益を確実に確保できる戦略的商品づくりにあります。旅館の商品原価を考えると

●食事における食材原価
●オペレーションのための人件費

が大半を占めます。単価を下げた宿泊商品づくりはこの2点を大きく見直すことが重要です。

 例えば、

●食事を部屋出しや会席風ではなく「バイキング」スタイルにする
●お部屋までのご案内やお茶だし、布団引きや片付けなどのオペレーションを工夫する

などを実施すれば、低価格でも利益の出る商品をつくることができます。

 さらに、旅館には、「稼動していない部屋」があります。稼動していない部屋というのは、古かったり、宴会場の近くでうるさい、機械の音がうるさいなど、何らかの理由がある部屋です。しかし、これを逆手にとって、「訳あり商品」として部屋代を下げて提供することも1つの戦略です。始めから問題をお客様にお伝えし、そのかわりに単価を落せば、クレームは起こりません。

 また、極端に機能を絞った「素泊まり」を安く提供することも効果的です。このような場合は、お部屋までの案内もしないなどといったサービスの簡略化を行なうのも1つの方法です。

 このように、客単価をダウンさせた商品づくりは、企業努力で必ず実現できます。

 当然、素晴らしい食事と素晴らしいおもてなしの仲居さんをつけた高額商品もきっちり販売していきます。最後に選ぶのは顧客です。販売前に的確な商品内容説明がなされていれば、現状は、安い商品から面白いように売れていきます。


■低価格商品づくりで注意すべきこと

 ただし、この商品づくりでは、何点か気をつけていただきたいことがあります。

 まず、近年の消費者心理として、商品に対する信頼性が大きく揺らいでいるということです。食品偽装問題、中国野菜問題や偽装工事などによって、消費者は「この商品は本当に大丈夫?」と疑念を抱いています。

 そうした消費者から信頼を寄せてもらうためには、商品だけでなく、その企業の姿勢や考え方をも全面に出さなくてはなりません。商品やサービスの背景にある企業を信頼することで、消費者は安心して購入することができるのです。この努力は決して怠ってはならず、重要性は日々増しています。「安かろう、悪かろう」は通用しないと思ってください。

 そのため、商品づくりの段階で自社が絶対的にこだわっている部分、信念を持っている部分は、妥協してはいけません。これは、基本機能の根底に流れる部分です。安くするためにそれまでも削り取ってしまっては、一時的に顧客が集まったとしても、企業としての永続は望めません。

 さらに自社の“強み”を認識しておくことも重要です。例えば、前出の旅館様は、大型旅館でした。大型旅館の場合、改装を何期にも分けて実施していくため、部屋や館によって、古いものがどうしてもでてきます。

 実際、A旅館も全体の中で50室が古いもので、好景気にはその部屋稼動が30%程度しかなく、あまり使われていない状況でした。しかし、これを逆手にとって、この館を中核にした安い商品づくりを実施しました。すると現在では、その効果により稼動は60%を越える状況になっています。まさしく、小旅館ではできない強みを活かした事例です。


■ターゲット層に合わせた価値の提供ができる商品づくりを

 商品づくりをするにあたって、もう1つ注意しておく点があります。それは、自社のターゲット層の明確化です。自社の既存ターゲット層への価値の提供はもちろんのこと、不景気には客数アップのために新しい顧客層の取り込みが必要です。そのためには、ターゲットセグメントとその顧客層への価格と価値の提供が確実にできる商品へと見直さなければなりません。

 とにかく、これからは、思わぬ顧客が自社の重要顧客になる可能性が出てきます。そのため、ターゲット層は、自社の強みを加味しながら、広くとるようにすることをお勧めします。

 これまでと同じ商品や価格帯での勝負は、確実に顧客は減少していきます。そこで、重要なのが客数アップを実現させるのが営業戦略です。