コンサルティング情報 〜戦略コンサルティングレポート

第100回 「安くて質が良い」が当たり前!
不景気でも爆発的に売れる価格とは

 大きな流れでいうと、日本の景気動向は2012年前後まで不景気の循環に入っていることを、第98回の私の記事でお伝えいたしました。

 今回は、その2012年前後の経営におけるポイントを再度ふりかえっておきましょう。

図1:景気対応経営基本原則
  好景気時対応 不景気時対応
価格戦略 客単価アップを目指す。
高額商品帯の販売も強化。
客数アップ・客単価ダウンをめざす。そのため質を落とさず好景気時の60〜80%の価格設定が必要。
商品戦略 商品・サービスの付加価値アップを実施する。既存商品の高機能化にチャレンジ。 上記価格戦略を実施するためには、既存商品(サービス)の基本機能を再構築すること。また、その場合、企業理念(姿勢)、自社の強みを核とすること。
営業戦略 既存顧客のインシェアアップを中心にしながら、新規顧客を開拓することにチャレンジする。 上記の商品力を持てれば、一気に新規開拓、シェアアップすることも可能。既存戦力(もしくはそれ以下)で、より効率的効果的に新規顧客を開拓する仕組みづくり。
販促戦略 固定客化を徹底。販促の早期的しかけの検討。 固定客化の強化。顧客セグメントによるピンポイントの販促戦略。
事業戦略 既存事業の拡大。
次の新規事業の種を構築。
新規事業への取り組み。
財務戦略 好景気こそローコスト運営の徹底。
状況を見ながらの確実な拡大戦略のための資金確保。
徹底したキャッシュフロー重視、負債は短期借入金から長期安定資金化の努力。
人材戦略 理念の定着と人材教育の徹底。 一体化の重要性と有能人材の確保。
その他
トップの心構え
時流の見極めを徹底すること。好景気が続くことはなく、必ず好・不景気が繰り返される。 トップは、プラス発想、ポジティブ発想で事に望む。そのためには納得できるまで勉強すること。

 今後、この図に対応しながら、1つ1つの戦略に関して、具体的事例を踏まえてご説明していきたいと思います。


■【価格戦略のポイント】好景気の60〜80%の価格帯が売れる

 過去の不景気の分析を通して、法則化されていることがあります。その大きな1つの項目が「売れ筋価格」についての考え方です。

 価格戦略を考えていく上で重要な観点は、買う側となるお客様の「心理状態」と「フトコロ具合」です。まず、不景気の状況では、残業が少なくなり、賞与も少ないため、世帯の年収が確実に下がります。当然、失業率も上昇傾向にあります。このため、実質的に消費にまわるお金が減るという現象が当然起こります。不景気ですから当たり前ですね。

 しかし、ここでポイントとなるのが、人間の心理です。人間は、一度経験した生活のレベルを落とすということがなかなかできないものです。景気は循環していますので、その前の景気が良い時には、色々な面で消費にお金がまわり、生活レベルも向上します。これが不景気になったとしても、過去、経験したレベルの生活は、極力落としたくないという心理が働くことは、納得いただけるのではないでしょうか。

 しかし、実際に使えるお金は確実に減ります。皆様の中でも、今回の不景気で奥様との話し合いにより、小遣いを減額された方も多いのではないでしょうか?

 そのために不景気に爆発的に売れる価格帯があります。それが、品質は下げずに価格を好景気時の60〜80%に落としたものです。

 1991年のバブル崩壊以前には、ビールは350ml缶1ケース(24本入り)の店頭価格は4580円位でした。しかし、バブル崩壊後、ビールの代わりに爆発的に売れたものがあります。それが発泡酒です。発泡酒は、同じく1ケースの店頭価格は3180円(ビール比69%)位です。

 さらに、この価格は下がり、現在のスタンダードになっているのが、第三のビールです。これは、1ケースの店頭価格が2780円(同61%)。これらのビールは、本来のビールと品質・味ともに非常に近いものとしながら、酒税の差を利用し、安く提供したものです。まさしく、ビール各社の商品開発努力の結晶ですね。今では、皆様の家庭でも“ビール”といえば第三のビールが当たり前のように主流となっているのではないでしょうか。

 好景気の時には、これに対して「プレミアビール」という名前で本来のビールなどの高価格帯が復権しましたが、現在は、また、鳴りを潜めています。


■「質は落とさず」「価格を落とす」弁当、居酒屋で幅を効かす“300円”

 また、居酒屋を例にとってみよう。居酒屋の好景気時における平均的な客単価は、3000円程度です。これは、簡単に計算できます。まず、居酒屋で1人が注文する品数は、ドリンクが2〜3杯程度、食事が3〜4品程度で、平均6品です。そのため、

1品単価500円×6品=3000円

が客単価となります。

 しかし、不景気になって伸びる居酒屋があります。お父さんのお小遣いが減ると、選択枝は3つになります。

(1)飲みにいく回数を減らす
(2)回数は変えず、今まで通っていた店より、安い店に替える
(3)これまでと同じ店で1回当り飲み食いする量を減らす

 ここでも、先に述べたように人間の心理を思い出してください。人間は、できるだけ生活レベルやスタイルを替えたくないというものです。そこからいうと、実は、選択肢は(2)に落ち着きます。(1)の回数を減らすということも、実際には起こっていますが、やはり、仲間が集まって、上司の悪口や日頃のうっ憤を魚に飲みたいものです。そのため、回数は減らしたくありません。さらに(3)の選択肢は、もっと少なくなります。やはり1度いくと、お酒1杯と1皿だけでは盛り上がりません。そのため、多くの人はこれを選びません。

 そこで、不景気に売れる客単価の店は、不景気価格原則から1品単価500円×60%=300円で、

1品単価300円×6品=1800円

となります。

 現在の居酒屋を見てください。多くの店が@300均一(実際は270円や280円)に様変わりしています。また、低価格業態の定番である立ち飲みが復権しているのも、当然の現象でしょう。

 サラリーマンの昼食も同じです。この不景気では、昼の定食であれば300円が爆発的に売れるようになります。牛丼やファストフードも2008年までの好景気で、少し値上げしていましたが、また、低価格帯商品を出さなくてはならなくなってきている事実はここにあります。コンビニや量販店における300円弁当が売れていることもうなずけます。

 このように、不景気下では、“質は落とさず”“価格を落とす”ことができなければ、生き残りが難しくなる傾向がどうしてもでてきます。特に、今回の不景気は、過去のものよりも大きいため、この傾向がより強く現れます。


■不景気期のカギは「客数アップ」。“安かろう、悪かろう”は意味がない

 1つは、何度も述べていますが、単価はダウンさせても、できるだけ「品質は落としてはならない」ということです。これを無視して、「安かろう、悪かろう」では、単価を落としたとしても、目の肥えた日本人には通用しないため、客数アップとはなりません。

 もう1点は、経営上の問題です。ただ安くして提供しろというものでもありません。今までと同じ商品、同じような原価のものを、単純に値下げして提供すると、企業の収益構造は一気に悪化し、経営は立ち行かなくなります。単価を下げながらも収益がとれるようにするには、経営努力が必要です。これができないのであれば、値下げは自殺行為に等しくなります。この詳細は、次回の商品戦略で詳しく述べることとします。

 事例では、一般消費財の話をメインとしましたが、対企業向けビジネスでも全く同じ現象がおこっています。

これまでの売れ筋価格×60〜80%

を頭に入れて、対策をねってください。そして、この不景気を乗り切ってください。