コンサルティング情報 〜戦略コンサルティングレポート

第81回 ソリューション営業に求められる真の提案力とは?

 本コラムでは、営業の中で最も重要な要素である提案力にフォーカスし、受注するために必要な提案の要件を明らかにしていきたいと思います。


■ソリューションとは名ばかり…

 現在多くのBtoB業界・業種で「ソリューション営業」、「●●●コンサルタント」という肩書きをもつ営業の方の名刺をお見かけします。この「ソリューション営業」と従来の「営業」との本質的な違いは、自社製品を売るという発想から、顧客の課題を解決するという発想への転換を“本来”意味します。ただ、職業柄、様々なソリューション営業の方々とお会いすることがありますが、お会いしてから展開される営業の流れ、いただく資料などを見ても、従来のモノ売り的な発想から抜け切れていないのが実状と感じます。

 特にそれを感じるのは、こちらへのヒアリング時間が非常に少ないことです。私どもがソリューション営業の方と接点をもつのは、弊社のクライアントにある製品なり、サービスを導入する際に、クライアントに合ったものを選定する立場でお会いするが多くあるのですが、その際、クライアントの状況を注意深く聞いて、その実状に適したものを自信をもって提供いただく機会が非常に少ないといえます。

 営業の方が紹介する製品・サービスの特徴を聞いて、こちら側で何がベストかを解釈しなければいけないケースが多く、お会いしてから、いきなり会社案内、商品・サービスの説明をする、まさに、本来のソリューションとは名ばかりの状態と感じることが多いのです。


■今こそ真のソリューション力が求められるのではないか

 一つ「ソリューション」という言葉を多用するIT業界を例に見たいと思います。

 下の図は、IT業界の上場企業、非上場でも主力の企業の売上、利益率を1960年代からとったものを示しています(全282社)。左軸の売上は、各企業の売上の合算値(点線)、右軸は各企業の平均利益率(実線)を示しています。

IT主要企業の売上高、平均営業利益率の推移

 売上高は、IT市場の拡大を背景に右肩上がりで推移しています。一方、営業利益率は10%〜14%程度あったものが、2000年以降2%〜4%まで低下しています。企業によって、多少の違いはあるにせよ、“IT業界が儲からなくなっている”ことは間違いないでしょう。

 市場拡大・インターネットの普及を背景に参入企業が増加し、商品・サービス自体の差別化が困難になり、価格競争に陥っていることが背景にあります。さらに、海外の安いコストによりその影響はさらに拡大しているという状況になっています。

 ここでは、IT業界を例にあげましたが、画期的な技術、サービスが開発されない状況で価格勝負に陥って儲からなくなってしまうという傾向は、日本における多くの産業が同様と言えるでしょう。

 このような状況下で、今まさに求められるのが提案力になります。商品・サービス自体に大きな差別化要素がなくても、顧客の課題にフォーカスして、顧客の成長戦略、競合との優位性確保に向けた提案ができるかが何よりも求められてくるようになってきたかと思います。

 実際に先ほどのIT業界で言うと、体力のある企業は、経営コンサルティング会社を買収したり、専門のコンサルティング部署を設置したりするなどして、課題解決のプロ集団を保有する動きを積極化して、上記の流れに対応しようとしています。各業界でも、体力のあるリーディングカンパニーなど大手は、提案機能の強化に積極的に動き出しているのではないでしょうか。ただし、あくまで一部の企業であり、その取組みは道半ばだと感じています。


■提案力に問題のある営業組織の傾向

 ここで提案力に課題のある営業組織の典型を挙げてみたいと思います。

チェック 顧客から要件・仕様(IT業界で言えばRFP)が出てくるまで、こちらから提案することが殆どない
チェック 顧客の中期計画、今期の戦略を踏まえず提案することが多い
チェック 提案によるビジネスインパクトを明確に示すことができない
チェック 顧客の課題把握は、顧客の一担当者(IT業界ではシステム担当者)のヒアリングで得た情報のみ
チェック 顧客に「ウチに何故その提案がベストなのか?その提案しかないのか?」と聞かれると困惑する
チェック 「顧客の本質的なニーズを捉えろ!」と上からよく言われるが、どうやれば的確に捉えられるのかを現場へ誰も教えない
チェック 価格競争を脱するには、他社にはない画期的な商品の登場が必須だと思い込んでいる
チェック 受注できない案件や価格が安い案件が多くて、営業、現場ともに疲弊している
チェック 自社の営業組織の課題は沢山挙がるが、何が本質的な課題かが見えていない

 ここに挙げているのは、私がBtoB系営業を受けている中で、よく感じることを列挙したものです。上記に該当する組織では、間違いなく提案力の欠如により受注機会を逃してしまっていると思われます。逆に言えば、本コラムをもとに視点をかえて実行に移すことができれば十分にポテンシャルがある営業組織だと考えていただければと思います。


■“モノ売り”にならない提案のポイント

 モノ売り営業から、ソリューション営業に転換するためには、すべての入り口を顧客の課題発で捉えることから始まります。下図をご覧ください。


 多くの場合、図の左側で示すように、顧客の課題を捉えきれぬまま提案してしまう“とりあえず提案”のケースが多いのではないではないでしょうか。顧客へのヒアリングはさておき、汎用的な提案書を片手に、まずは自分たちができることすべてを惜しみなくアピールし、顧客にこのソリューションが自社の課題解決に有益かどうか判断してもらうパターンです。

 それでも商品なりサービスが差別的優位性をもつのであれば、それでも受注ができることがあろうかと思います。ただ他社も同じような提案ができる場合は、何の付加価値もなく、価格が一番安いところ、もしくは一番有名、実績があるところという話になります。

 何が提案の肝なのか、それを見極めることが重要です。大事なのは、事前準備やヒアリングを通して、顧客の本質的な課題像を掴んで、顧客の課題と自社が提案できる領域の接点を見極めること、そしてその領域をどこまで広げられるかを考えることです。

 すべては、顧客の課題発で提案を組み立てることです。そう考えると、“顧客の理解”が徹底的に足りないことが提案力欠如の真の原因だと捉えることができます。ここで言う“顧客の理解”とは知っていることとは話が違います。業績や組織の状況、各部門の課題状況などの知識的な話ではなく、その知識をもとに、課題が発生しているとしたら、どのような因果関係で問題おきているのか、課題の真因は何なのか、どのような背景で課題と感じているのか、そこまで捉えられてはじめて「理解」になるといえます。

 受注できないのは、商品力や戦略の問題でないことが殆どであり、上記に挙げるような深さが徹底的に足らないことが大きな課題であると考えています。


■真の提案力を実現する4つのステップ

 ここまでお伝えした内容を踏まえて考えると、真の提案力を実現するためのステップは4つになります。

 STEP1:顧客を知る
 STEP2:顧客が抱える課題の真因をとらえる
 STEP3:あるべき姿のストーリーをつくる
 STEP4:ストーリーに合わせてソリューションを組み立てる

 この一連の流れを確実に踏んでいく以外に、真の提案に向けた方法はないと考えます。ただし、この概念が腹落ちしても、なかなか行動に移せないのが実状かと思います。そこで、次回から一つの有効なツールを使って、上記ステップを踏むための体系的な方法論をご紹介したいと思います。

 本コラムを通じて、自社の営業組織を変革する視点を少しでも提供できればと思っております。