コンサルティング情報 〜戦略コンサルティングレポート

第49回 ITによる業務改革を成功に導く3STEP

 各社IT導入による業務の改善を進めていることと思います。今やビジネスではITは欠かすことのできないツールとなっていますが、今回は「ITによる業務改革」についてお話させていただきます。


■「IT導入による改革」の誤解

 よく「IT導入による業務改革」という言葉を耳にしますが、この表現には一つの誤解を含んでいることにお気づきでしょうか? IT導入によって自然に業務改革が可能になることはあり得ません。業務改革の一つの手段としてIT導入がある、という当たり前のことを認識することが大前提として重要になってきます。しかし、多くの企業においてこの当たり前のことがなかなか実践できていないのが現状です。


■なぜこのような誤解が生じるのか

 第一の理由は、ITに対する期待値が高すぎることが挙げられます。ムーアの法則というのをご存知でしょうか? インテルの創始者の一人であるゴードン・ムーアにより見出された法則で、『半導体の集積回路は18ヶ月で2倍になる』というものです。インテルは30年以上にわたってこの法則が正しいことを証明し続けています。つまり、技術革新のスピードの早さから、ITに対して過度の期待が生じ、何でも実現できてしまうような錯覚に陥っていると考えられます。

 第二の理由は、企業の意思決定者とベンダーとの知識ギャップが挙げられます。多くの場合、IT導入時に企業の意思決定者は専門家であるITベンダーの提案をそのまま受け入れる傾向にあります。ITに関する知識の格差があるのが主な理由ですが、自社への適用可能性を吟味することなく、ベンダーの提案をそのまま受け入れてしまうことでIT導入が目的化してしまう事例が多数見られます。

 例えば、ERPパッケージの導入をこれまで数多くの企業が実施してきましたが、実際に当初の想定どおりの効果、またはそれなりの効果があったと回答しているのは全体の6割程度と言われています。パッケージをそのまま導入しても期待通りの結果を出せない可能性が多分にあるといえます。

 主にこれらの二つの理由により、ITを導入しさえすれば結果として業務改革が実現できる、という意識を生じさせていると考えられます。


■では、どうすべきか

【STEP1:ITの位置づけを明確化せよ】

 まずは、売上を上げる、コストを下げるというビジネス上の達成すべき目標があり、それに向けた経営の仕組みづくりを行い、会議体・業務の設計へと落とし込みを順番に行っていく必要があります。その中においてITは、経営の仕組み、会議体・業務設計を実現するための一つの手段として存在するということを肝に銘じる必要があります。特に、企業のトップ自らがITはツールに過ぎないという認識をしっかりと持つことが重要となります。

【STEP2:レバー(梃子)を見つけよ】

 次に、自社の業績に最も影響を及ぼすレバーを見つけることが重要になってきます。レバーとはその名の通り、業績の変動に最も起因し影響を及ぼす因子を指します。

 例えば、ある電子機器の製造メーカーでは業績に最も影響を及ぼすのは需要の予測精度だと分析されました。当然、高い品質を維持することも業績に影響を及ぼしているのですが、品質を10から20にしたときの業績変化と、需要予測精度を10から20にしたときの業績向上の変化は、後者の方がより大きいという分析結果が得られました。自社の業績に対するレバーを常に分析し模索することが重要になってきます。

【STEP3:レバーの精度をITにより高めよ】

 最後に、発見したレバーに対していかに精度を向上させ得るかを考えます。これは多くの場合、ITによって実現されます。

 例えば、先の例で言えば、需要予測は人間の経験と勘によっても可能ですが、長期的な視点で見ると膨大なデータに基づいた統計処理による予測の方が正確だと言われています。多くの人的工数を割いて需要予測を行うよりも、ITによるデータの一括処理の方がコスト・精度の両面において勝っているといえます。

 ある企業では、人間の予測とシステムによる予測を競い、より精度の高い仕組みを作っているところもあります。発見したレバーの精度をITにより高める、ということが業務改革を最も推進する要因になってきます。


 以上の3つのSTEPを一つ一つ十分に検討し、自社に最も適した仕組みを構築することで、本当の意味での「IT導入による業務改革」を行うことができます。

 今回のテーマをきっかけとして、ITの位置づけを明確化し、自社のレバーを探ることでIT導入の可能性を追求してみてはいかがでしょうか。