コンサルティング情報 〜戦略コンサルティングレポート

第37回 我国の住宅市場の今を考える

 船井総研の久木田です。前回このレポートでは「企業にとっての不動産保有と経営戦略」というテーマで、変貌しつつある「我国における不動産を持つ意味」を少し掘り下げて、お話させて頂きました。

 さて今回は、昨年から低迷が続いている住宅市場の現状についてその要因を探ると共に今後の動向を予測してみたいと思います。


【マンションデベロッパー発 破綻の連鎖が始まった】

 昨年6月の改正建築基準法の施行後、住宅着工数は前年実績割れが続いています。住宅の値上がりを嫌気して需要が冷え込んだところに、鋼材など資材高がマンション開発会社や関連する総合建設会社(ゼネコン)などの体力を奪っています。帝国データバンクによると不動産業の倒産件数(負債総額1千万以上)は1月の30件から6には1.5倍の46件まで増加しました。負債総額50億以上の大型倒産も増えました。その中にはここ数年、飛ぶ鳥を落とす勢いで調子の良かったマンションデベロッパー、上場会社なども含まれています。更にマンション開発会社の相次ぐ経営破綻がゼネコンなど取引先企業の経営を直撃し始めています。


【人口・世帯減少が直撃する住宅市場】

 上記のような現状をもう少しマクロ的な観点からその要因を探ってみると今の日本の住宅マーケットにおける構造的な問題が見えてきます。我国では少子高齢化が進行し2004年から日本国内の総人口が減少し始めています。総世帯数については若年層、高齢者の単身世帯が牽引する形で2015年までは増加する見通しでありますが、核家族世帯については2010年頃をピークに減少に転じるという予測が出ています。住宅は人が生活する場である事から当然、人口・総世帯数の減少が住宅市場に与える影響は大きいと言えます。また2006年には住生活基本法が施行され、いよいよ本格的に住宅ストックを活用していく動きが出始めています。住宅ストック数の活用は、中古住宅市場の拡大につながり、新規住宅着工にも影響を及ぼす可能性があります。「新築・持家」志向の強い日本人ではあるものの、より低価格の「中古」、利便性・柔軟性の高い「賃貸」を志向する消費者も出はじめるなど、人々の「住まい方」に対する考え方も多様化しはじめています。このように総世帯数減少の影響が直撃するうえ、リフォーム市場や中古住宅市場が徐々にではあるものの形成されていくことにより、新設住宅着戸数はますます減少していく可能性が高いといえるでしょう。


【住宅業界のボーダレス化が進む】

 こうした市場縮小に対応する為には関連するプレーヤーのビジネスモデルの変革が迫られる事になります。つまり、新設住宅市場の縮小を受け、これまで棲み分けられてきた事業領域(戸建住宅事業、マンション分譲事業など)や、バリューチェーン(営業、商品企画・開発、設計、部材調達、建設、販売、維持管理など)を超えた「ボーダレスな再編」が進むのではないかということです。実際プレハブ住宅メーカーのいくつかはすでに、戸建住宅だけでなくマンション分譲事業や不動産開発事業への展開を進めています。また住宅設備メーカーが、戸建住宅建設そのものに乗り出す動きも見られています。このように少ないマーケットを多数のプレーヤーが奪いあう「成熟期のマーケット」においては、各社ともこれまでのビジネスモデルからの転換が求められているといえるでしょう。


【存在意義が問われるマンション業界】

 改正建築基準法、サブプライム問題の影響による金融機関の融資引き締め、資材・建築価格の高騰、需要の低迷など、ここ1年、最も不動産マーケットの負の影響を受けているのがマンション業界ではないでしょうか。マンション分譲事業は2007年で約5.1兆円といわれており、首都圏で3兆円前後で全体の市場規模の約6割を占めるという点が、戸建てと比較した場合のマンションの特徴という事ができます。そもそも我国のマンション分譲業界は、事業モデルの大部分を外注する事が可能であり、宅地建物取引業免許と用地情報、資金調達手段を確保できれば誰でも手がけられるため、極めて参入障壁が低い業界といえます。事実、供給戸数トップの事業者の販売戸数シェアは約3%程度あり、裾野が広く寡占化されていない乱戦状態の業界です。バブル崩壊以降1997年頃まで、市場は減少傾向にありましたが、1998年から2000年にかけて、販売戸数は大きく増加しました。この背景には、バブル時に高騰した地価が下落してきたこと、金融機関の不良債権処理にともなう法人所有地の売却(工場等)によって、利便性が高く安価なマンション用地が市場に流通したこと、都心回帰やマンション居住に対する日本人の意識が変化したことなどが挙げられます。その後2001年から2004年まで高水準で安定していたものの、2006年から、都心部を中心とした地価の高騰、優良マンション用地の枯渇、マンション分譲会社間の競争激化によって土地取得費が上昇したこと、職人不足や建築資材の高騰によって建築費が上昇したことなどによって、市場が縮小に転じました。2007年度は、6月に施行された改正建築基準法による確認申請手続きの厳格化、長期化の影響を受けて、市場がさらに大きく縮小しました。2008年に入り、改正建築基準法の影響は徐々に緩和されつつありますが、販売価格の上昇による需給ギャップが続いており、販売しても売れない状況が引き続き続くものと思われます。この傾向は、今後数年間はまだ続くものと予測され、生き残りをかけた厳しい戦いが始まったといえるでしょう。


【これからのマンション分譲会社はブランド力と複合施設開発力】

 これまでマンション分譲業界のKFS(成功要因)は土地の情報力、物件企画力、販売力であったいえます。これからは、お客様に「高くても買う」と言わしめるブランド力と、オフィスや商業施設、戸建て等との複合案件開発力がキーワードになってきつつあります。つまり顧客満足を追求したブランド力の向上と、事業ドメインをマンション分譲事業以外に広げる総合力で勝負をする時代がすでに来ているという事です。そういった意味では新興のマンションデベロッパーは、今後益々苦戦を強いられる事が予想されます。

 国内総生産の約2割を占める建設・不動産業。(2006年名目GDP換算。建設業6.8%、不動産業11.9%相当)両業界の日本経済に及ぼす影響は非常に大きいものといえるでしょう。建設・不動産業界の活性化が我国の経済的躍進にまだまだ必要不可欠であるということを、肝に銘じながら、私も日々のコンサルティング業務に携っていきたいと思います。