コンサルティング情報 〜戦略コンサルティングレポート

第19回 ITサービス事業における業者と顧客の関係

 こんにちは、船井総合研究所の菊地広記です。

 今回は、ITサービス事業における業者と顧客の関係について考えてみます。日本においては長らく、”業者は下僕”といった流れがありました。そして、相対的には新興業界であるIT業界においても、その流れは脈々と踏襲されてしまっているように見受けられます。

 今回はこれに関する問題提起をさせていただきたいと思います。その解決策については次回、考えてみます。

 業務上、IT関連のサービス提供事業者とお付合いさせていただくことが多くあります。その中で、サービス提供事業者における規模の大小、保持能力の広狭などといったスペックに関わらず、ほぼ共通で出てくる課題があります。

 それは、サービス提供者の意図とは異なる形で顧客から難題を押し付けられ、顧客と業者という単純なパワーバランスから顧客要求を呑まざるをえず、結果的にコスト等の面から苦境に追い込まれることになるというものです。

 確かに、サービス提供者を標榜しながら、当該顧客のニーズを充足しうる能力をそもそも担保していないにも関わらず、営業的に背伸びをして案件受注し、結果的に当然といえるクレームを受けるも能力の絶対的不足で改善対応することもできない、などといった話にならないケースも多々あります。

 このようなケースは、サービス提供者自身が分相応の事業活動を適正に認識し、その上で適正な事業成長、適正な能力向上を目指さなければならないという至極当たり前の話なので、ここでお話する論点ではありません。

 この場で論点にしたいのは、必要十分な能力、適正なモラルを保持したサービス提供者と、その顧客の関係です。

 例えばある大手ITサービス提供者のケースです。その業者では、ある特定顧客向けに専用でサービス体制を構築し、IT運用サービスを提供しています。

 マネージャー、メンバーとも適切なスキルとモラルを保持しており、障害もほとんどなく、私はこの業界をいろいろ見てきましたが、ここはかなり優秀な実績を出していると思います。にもかかわらず、この業者もやはり上記同様の課題を抱えているのです。

 つまり、このサービス提供者の高いスキルとモラルをいいことに、顧客側が、顧客と業者というパワーバランスを利用して、一方的にサービス委託内容を増幅させてしまうというものです。

 顧客側で想定外の事態が発生すると、自分達の体制の脆弱性は前提条件として固持し、全面委託しているのだからとサービス提供者側に受託範囲の拡充を求め、現状稼動しているサービスの派生形態として追加料金なしで呑ませるのです。

 IT運用サービスの提供は、結局人的リソースに依存する部分が大きく、受託範囲の拡大はそのまま陣容拡大につながり、結果的にサービス提供者においてコスト増となるので、追加徴収なしでの受託範囲拡大は相応の利益圧縮インパクトとなります。

 確かに、顧客要求を基点とした業者と顧客のせめぎ合いが両社間、ひいては業界全体の品質や効率性などの向上につながることもあります。

 しかし、今回のケースのように、ただ顧客と業者という契約関係のみを基点としたパワーバランスによって業者への圧制を続ければ、結局いつか、いかに優秀な業者といえどキャパシティを超え、サービスレベルを担保できなくところまで追い込んでしまいます。

 今回のケースの顧客は非常に脆弱な体制であり、この業者が立ち行かなくなれば、顧客側も確実に共倒れになります。

 不適切なサービス提供業者はもちろん淘汰されるべきですが、絶対的な顧客至上主義に則って、優秀なサービス事業者にまで不当な圧力がかかるようなパワーバランスの構造は不健全であり、是正されるべきではないでしょうか。

 そのためには、顧客側と業者側の是正に向けた認識共有が不可欠です。次回、認識共有の考え方について論じます。