コンサルティング情報 〜戦略コンサルティングレポート

第15回 「見える化」と「差別化」

 船井総合研究所の川原慎也です。

 先日タクシー料金の値上げが実施されたのは記憶に新しいところですが、今年はさまざまな業界で「原材料費の上昇」→「売価値上げ」といった現象が見られました。

 しかも、それを引き起こしている主な原因のひとつが原油価格の高騰(2007年初頭との比較で約2倍)であることは皆さんもご存知の通りであり、その原油価格高騰の要因がすぐには解決できないもの(“中国・インド等の新たな需要国の拡大”、“政治情勢等を背景とした供給不安”、“価格上昇を見越した投機”等々)であるとすると、このトレンドは来年も続くのではないかと予想されます。

 さて、今年のように経営を取り巻く環境が大きく変わるなかで思い知らされたことが2点あります。

 一つは、自分が所属する会社のビジネスモデル(どのような仕組みで売上を上げているのかという利益構造とどのような仕組みでコストがかかっているのかというコスト構造)を“見える化”する必然性が高まっているということです。なぜならば、M&A絡みのコンサルティング案件において特に顕著に見られることですが、買収される側の企業では、コスト構造を把握し切れていないことが結果として財務に悪いインパクトを及ぼしていることが殆どだからです。

 こういった問題を抱えながらも解決策を施していない企業は、仮に売上を上げることができたとしても最終利益の段階では殆どそのインパクトを出すことができないといった状況になりがちですし、またコスト削減策を講じるにもボトルネックを特定することができないため、当たらずも遠からず的な施策にならざるを得ないことになり、やはり最終利益にはインパクトを出せないということになってしまいます。

 長くビジネスを続けていればいるほど、取引先との商慣習が複雑化(個別に取引条件が異なったり、リベート目当ての無理な仕入れを断行したり)していくことになり、商品あるいはサービスごとの正しい粗利を把握することが困難になるといった状況を招き、その間違った粗利情報に基づいた経営判断を余儀なくされるために、かけるべきではないコストをかけてしまうといった悪循環に陥ってしまうというのが大まかな実態です。

 あらゆる業界がもはや成熟産業に差し掛かっている日本において、コストをコントロールする仕組みを導入“見える化”することは不可欠な要件となってきているように感じます。

 もうひとつは、コストの話と相反するところもありますが、特に小売業界においては効率の追求を超えた部分での差別化が勝敗の分かれ目になってきているということです。

 導入期はしっかりとした接客販売を行なっていた企業も、成長期を迎えると多店舗化を推進することで飛躍的に売上を伸ばしますが、競合が激化し安定期に入っていく段階でセルフ化を図り、コスト競争力をベースとした価格優位性による差別化を確立するといった方向へと変化していきます。

 これがゴールだとするならば、規模の経済性を最大限発揮できる企業が勝つという話なのですが、複数の業界動向より、成熟期に必要な差別化の視点を発見することができます。

 例えば、徹底的に価格競争に向かっていた家電販売業界では、デジタル家電の登場による販売単価の向上というプラス要因もありますが、原点回帰(接客強化)による収益性の追求を図っています。

 紳士服(スーツ)業界でも、一昔前は安定期の徹底的な価格訴求を実践することを重視しており、その流れでツープライス業態への転換などもありましたが、現在は、セレクトショップの台頭、量販チェーンにおいてもイージーオーダー強化の工夫など、こちらも原点回帰(接客強化)と考えて差し支えないでしょう。

 消費者はこれまでの購買経験をベースにいわゆるヘビーユーザー化が進んでいるため、単に低価格という視点ではなく、ショップの雰囲気、スタッフの対応といった部分まで見極めたうえで意思決定しているのだと考えられます。

 こういった現象は、米国で隆盛を誇っているディスカウントストア業態が、日本においては極めて厳しい状況にあるというようなことと合わせて考えていくと、さらに興味深い考察ができるのかも知れません。