コンサルティング情報 〜戦略コンサルティングレポート

第14回 グローバル戦略展開の落とし穴【1】

 今回はグローバル戦略の中野 好純が担当させていただきます。

 前回まではグローバル戦略を策定するプロジェクトの進め方などについて記載しました。今回はもっと実践的なことをお話しましょう。

 今、2件ほど日本の製造業でグローバル戦略をお手伝いしているプロジェクトがありまして、そのひとつのプロジェクトの一貫で、11月はビジネスプランを固めに米国に出張していました。

 実際にグローバル戦略を展開するには、市場進出するエリアに拠点を構えて、現地で人を採用し、営業活動をスタートすることになります。日本のデスクでグローバル戦略を考えているうちは、想定もしない落とし穴が、戦略を展開するフェーズでは生じてきます。

 今回はその落とし穴についてコメントしていきたいと思います。


(1)性善説と性悪説の見極め

 日本のビジネスは典型的な性善説のビジネス文化で成り立っているのではないでしょうか。社員は誰も会社を裏切らない、会社のために尽くすのが当たり前という考えが根底にあっては人の採用も、人の管理も諸問題が発生します。

 グローバル拠点で現地スタッフを採用し、管理するためには日本以上にチェック機能が必要になるのです。チェックするポイントは、まず一番大切なのがお金の流れです。不透明なお金の入りと出が発生していないかは、できれば日本側から細かくチェックする仕組みが必要です。

 このファイナンス管理を現地に任せてしまうと、現地としてはノーチェックの状態で、現地スタッフが不正を働いても、発覚するのが難しくなったり、簡単にごまかせたりしてしまいます。現地でチェック機能を強化するのであれば、日本から駐在派遣する日本人に現地法人のCFO機能を任せることは必要不可欠だと思います。


(2)現地採用スタッフの流出予防策

 日本では義理を大切にする文化がまだ、残っているかもしれません。また会社を辞めて競合に転職することに抵抗を感じる人も多いでしょう。グローバルなビジネス視点ではこの考えは、極めて特異なものです。我々日本人からは理解しにくいことが頻繁に起こります。

 例えば、年収が5%高いだけですぐに競合に転職してしまうなど日常茶飯事です。またそういった人材流出を阻止するために、年収面でインセンティブを付けたとしても、優秀なスタッフはそれを上回るサラリーで引き抜きに合います。

 日本企業がグローバル拠点で現地の優秀なスタッフを囲い込む時には、サラリーでの競争力+αが求められることを理解してください。比較的、人材定着がうまくいっている企業の例を取ると、現地採用したスタッフに多くの権限と責任を委譲しております。(前述の通り、お金の流れは当然、日本側でチェックして、グローバル型性悪説管理は前提の上で)この責任、権限の委譲度合いが現地スタッフのモチベーションコントロールに繋がっているのです。

 私が抱えるプロジェクトでも現地のセールスマネージャーを至急採用しなければならないフェーズに来ておりますが、このセールスマネージャーは、数年後には米国法人の代表までやってもらうことを提案しています。

 特に米国流のビジネス文化で育ってきた人は、自己成長意欲が日本人と比較にならないくらい強いことを押えておいてください。またその自己成長のベクトルは、今自分が所属する組織で上のポジションを狙う以外のオプションを数多くもっていると言うことです。優秀な人が流出しやすい背景を理解できれば、どのように彼らのロイヤリティを維持するかの対策も自ずと見えて来ますよね。


(3)現地化の必要性

 日本企業は、「郷に入れば、郷に従え」の考え方を理解しているものの、実際のビジネスの基準では忘れがちになってしまうケースが多いと思います。日本のモノサシで市場を見てはいけない、日本のモノサシで人を管理してはいけない、日本のモノサシで顧客と接点を持ってはいけないということを、まずは腹落ちさせることがグローバルで成功する肝ではないかと思います。

 現地法人や現地スタッフにはできるだけ権限と責任を委譲すべきだと前に書きましたが、法人自体が現地化してしまわなければ、そのエリアでのビジネスの発展は難しいのではないでしょうか。グローバル企業が現地に法人を出す場合、見極め期間は3年が限度ではないでしょうか。

 この3年は本社から人を送り、本社からの指導の元で、日本人スタッフと現地採用スタッフが協力してビジネスを作り出していきます。でも大切なのはこの3年の間に、本社サイドで現地化の準備をどれだけしているかということです。

 現地で得た利益を日本側の収支に組み込むだけでは不十分なのです。現地で戦える組織体として法人を育成し、連結でもってグループ利益をあげる戦略が求められるのです。

 最近成功している企業は、最初から現地化シナリオを描いていることです。グローバル拠点で最初に採用する現地スタッフに、現地化のシナリオ策定に関与させるのも手ではないかと思います。

 「日本の常識は世界では非常識」であることを本社の役員、幹部がしっかり理解していることが肝要です。

 グローバルに成功している米国系の大手企業でもIBM、コカコーラ、P&Gなどは現地化を意識した戦略が成功要因であると言われております。