コンサルティング情報 〜戦略コンサルティングレポート

第13回 ビジネスに必要なロジカルシンキング

 こんにちは、船井総合研究所の菊地広記です。

 今回は、ビジネスに必要なロジカルシンキングについて考えてみます。このキーワードは今更ながら流行なのか、巷の書籍も数多く出回っていますが、ロジカルシンキングというと、帰納法、演繹法、ロジックツリーなど、方法論についていろいろと考える方が多いでしょう。

 しかし、何事も方法論というのは然程重要な要素ではありません。特に書籍で見かけるほど一般化した方法論はあくまで物事を理解するための掴みのリファレンスであって、それが本質ではないと思います。

 では、何がビジネスパーソンに求められるロジカルシンキングの本質なのでしょうか。最近では、内容豊富な書籍等から知識だけを大量獲得することによってなのか、ロジカルシンキングを誤用している方もいるように感じています。

 ではまず、ロジカルシンキングに最低限必要な要件について考えてみましょう。


■連続性

 ロジックの各要素が論理的な連続性を担保していること。そもそも内包する要素の連続性がなければ、それはロジックとはいえません。つまり、AだからB、BだからCといった一連の論理展開が連続性を担保して初めてロジックといえます。

■網羅性

 ロジックが抜け漏れなく展開されていること。これはロジックの妥当性に影響します。A+BだからCというロジックにおいて、AだからCと短絡化してしまうことは、論点が欠落し、ロジックの妥当性が担保されていないということになります。


 さて、ここまでは何を今更、と思う読者の方も多いと思います。そうです、ここまではロジカルシンキングの基本中の基本であって、ビジネスパーソンに求められる本質ではありません。

 しかし、ここが本質ではないという理解がビジネスの現実現場では不足していることがままあるように感じます。

 つまりそれは、ロジックの連続性・網羅性の担保ばかりに目が行って、瑣末なところに意識が集中し、本論を見失ってしまうということです。

 例えば平坦に何十ものエンティティ(要素)が並んだロジックツリーを見かけることがありますが、それが典型です。確かに連続性と網羅性は精密に担保しているかもしれませんが、そのようなものは、情報量の多さの割にどこに論点があるのかは容易に把握できず、見る者を混沌の世界に導きます。

 マジカルナンバー7という言葉をご存じでしょうか。通常人間はせいぜい一度に7つくらいしか話を記憶できないそうです。ですから、無味平坦に何十の要素を並べられても、所詮人間は見る傍から忘れてしまい、まともに判断できないのです。

 ビジネスマンは学者ではありません。ロジカルシンキングそのものも所詮手段論であって、ビジネスパーソンの本質はビジネスの実効性にあるのですから、学者然と緻密に人の記憶力に挑戦するようなロジカルシンキング論を追い求めても仕方がありません。

 では、ビジネスパーソンに必要なロジカルシンキングの本質とはいったい何でしょうか。もうお分かりかと思いますが、当方はシンプルさだと考えています。(無論、妥当な連続性・網羅性というロジックの基本は押えた上で)

 ビジネスパーソンがロジカルシンキングという手法を使うケースは色々と想定できますが、最も重要なシーンは他者とのネゴシエーションだと思います。部下が上司に成果を伝える(理解させる)、トップが社員に方針を理解させる、自社が顧客に何かを要求する等々、ビジネスの現場は交渉事に満ちていて、その交渉事を有利に進めるための有効な手段の一つとしてロジカルシンキングがあるということです。

 つまり、ロジカルシンキングの目的はこちら側の意図を先方にきちんと理解させ、妥当な判断を与えることであって、瑣末さを含んだ精密性によって相手を混沌の世界にいざなうことではないのです。

 そこで重要なのは何より、シンプルさです。どうせ最大でも7つ程度しか相手には論点を記憶してもらえないのですから。

 いかがでしょうか。結局最後まで、至極当たり前のことでした。しかし実は、この至極当然の本質がロジカルシンキングという方法論の名の元に脇に追いやられていないでしょうか。

 思い当たることがあるかもう一度、思い直してみていただければ幸いです。