コンサルティング情報

第17回 「士業」経営の新しいコンセプト

 今回は、「日本の中小企業を元気にするためには、会計事務所・税理士事務所が元気にならなければならない」という信念のもと、日々のコンサルティングを行なっている、竹内実門が担当させていただきます。

 現場に近いコンサルティング情報や、いくつかの業種に特化した情報をお届けするこの「現場コンサルタントの生の声」ですが、今回は、会計事務所をはじめとする「士業」経営の新しいコンセプトについてお話ししたいと思います。

 税理士・公認会計士をはじめとする会計事務所や、弁護士事務所、司法書士事務所などをまとめて「士業」と呼んでいます。船井総研でもこの「士業」を営んでいる経営者の方(所長先生)からのご相談が増えています。ご相談の多くは「お客さまを増やしたい」「売上を上げたい」という、いわゆる「増客」に関するものです。私がメインとなって担当している会計事務所においても、ご相談の8割はこの「増客」に関することです。

 「増客」を行なうために、最近提案しているのが、「スローマーケティング」というコンセプトです。ご存知のように、船井総研は「即時業績向上」をモットーとしております。しかし、士業のように今まであまり営業活動なるものを行なってこなかった業種においては、この「即時業績向上」というのは簡単なものではありません。

 「即時業績向上」=「ファーストマーケティング」は、どちらかというと狩猟民族的な概念です。つまり、徹底的に個別営業などの「外に打って出る活動」を行い、顧客の獲得を行なうやり方です。この方法は、すでにニーズが顕在化している顧客に対しては非常に有効であるといえます。会計事務所の例で言えば、現状の顧問税理士に不満があり、「会計顧問を替えたい」という顧客層に対しては最も有効かつ即効性の高い手法となります。

 しかし、現実にはこのように「ニーズが顕在化している顧客」に出会う確率は低いと言わざるを得ません。多くのお客さまは、現状の顧問税理士に対する不満は潜在的に持っていたとしても、それが顕在化していない場合が多いのです。なぜなら、企業は今までに顧問税理士を比較するという事をしてこなかったためです。顧問税理士を比較した経験が無いために、今の顧問税理士が提供するサービスが、「良いのか悪いのか」もしくは「適正な価格なのか」ということが分からないのです。

 そこで、このような顧客層に対する増客手法として、「情報発信型啓蒙」が必要となってきます。つまり、「本来の会計事務所はこういったサービスを行なうものです」ということを、顧客に対して「情報発信」を行い、「啓蒙」していくプロセスが必要になるのです。その上で「実は現状の顧問税理士は何もしてくれていなかった」という事実を知らしめ、その上でやっと比較検討の場に持ち込むのです。

 しかし、このまま簡単に顧客が獲得できるかと言うとそうでもありません。会計顧問は企業経営の根幹のところに入り込みますから、一見の相手に、「よろしくお願いします」と簡単には頼めません。相手の人となりが分からないから即決できないのです。今まで会計事務所の顧客増大が紹介メインであったことも、ここに理由があります。ですので、この次のステップとして、「お互いを知る」というステージが必要なのです。

 セカンドオピニオンや会員組織など、顧問にはならないまでも、定期的に顔を合わせコミュニケーションを深める。相手がどういう考え方の持ち主で、どのような会計哲学を持っているか・・・など、企業経営の根幹に踏み込んでもらうに相当の相手かどうかを見極める期間が必要となるのです。そこで、相性がOKだと判断できたならば、顧問税理士として契約を行なっていきます。

 このように見てくると、お客さまと出会ってから顧問税理士の契約を行なうまで、少なく見積もっても約半年はかかると言えるでしょう。これが「スローマーケティング」たる所以です。

 ただ、気をつけなくてはならないことは、仕掛けてから受注まで半年程度は時間がかかるということです。今仕掛けを始めても成果が出るのは来年の1月です。今仕掛けをスタートしなければ、会計事務所は冬になると繁忙期に入りますので、仕掛けを行なうタイミングを逸します。そうすると成果が出るのは早くて1年後ということも考えられます。