III-3 |
3 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の創設 |
【1】改正のねらい 租税条約では、一般的に、株式等のキャピタルゲインについては株式等を売却した者が居住している国に課税権があるとされています。これを利用し、巨額の含み益を有する株式を保有したまま、キャピタルゲイン非課税国(例:シンガポール、香港)に出国し、その後に売却すると日本において課税される機会が失われることになります。このようなことに対応するため、一定の高額資産家を対象に、出国時に未実現のキャピタルゲイン(含み益)に対して特例的に課税する制度が創設されます。 ■「居住地国移転」によるキャピタルゲイン課税の回避例 (出典:財務省「参考資料(法人税改革以外」)
【2】改正の概要 (1)特例の概要 国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなることをいいます。以下同じ。)をする居住者が、所得税法に規定する有価証券若しくは匿名組合契約の出資の持分(以下「有価証券等」といいます。)又は決済をしていないデリバティブ取引、信用取引若しくは発行日取引(以下「未決済デリバティブ取引等」といいます。)を有する場合には、その国外転出の時に、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額によりその有価証券等の譲渡又はその未決済デリバティブ取引等の決済をしたものとみなして、事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額を計算することとされます。
(2)特例の対象者 本特例は、次のイ及びロに掲げる要件を満たす居住者について、適用されます。
(3)国外転出後5年を経過する日までに帰国をした場合の取扱い 本特例の適用を受けた者が、その国外転出の日から5年を経過する日までに帰国をした場合において、その者がその国外転出の時において有していた有価証券等又は未決済デリバティブ取引等でその国外転出の時以後引き続き有していたものについては、本特例による課税を取り消すことができるとされます。 ただし、その帰国までの間に、その有価証券等又は未決済デリバティブ取引等に係る所得の計算につきその計算の基礎となるべき事実の全部又は一部の隠蔽又は仮装があった場合には、その隠蔽又は仮装があった事実に基づくその所得については、この限りではないとされます。 この課税の取消しを行う場合には、帰国の日から4か月を経過する日までに、更正の請求をしなければならないとされます。 (4)納税猶予 国外転出をする居住者でその国外転出の時において有する有価証券等又は未決済デリバティブ取引等につき本特例の適用を受けたものは、本特例に係る所得について、次のとおり納税が猶予されます。
(5)その他 制度創設に伴い、納税猶予の期限までに有価証券等の譲渡等があった場合の取扱い、二重課税の調整、更正の期間制限の取扱いなどが整備されます。
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