目次 V-3


3 消費税率引上げに伴う転嫁対策関係

 平成26年度税制改正に先立ち、平成26年4月1日からの消費税及び地方消費税の引上げが定められていましたが、それに伴い「消費税の円滑かつ適正な転嫁のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」(以下「転嫁対策措置法」といいます。)が平成25年10月1日から施行されています(平成29年3月31日限りで効力が失われます。)。その概要は次のとおりです。


【1】消費税の転嫁拒否等の行為の是正

 特定事業者(注1)は、平成26年4月1日以後に特定供給事業者(注2)に対し、以下の行為を行ってはならないとされています。
(注1) 特定事業者…(1)大規模小売事業者、(2)特定供給事業者から継続して商品又は役務の供給を受ける法人事業者
(注2) 特定供給事業者…(1)大規模小売事業者に継続して商品又は役務を供給する事業者、(2)資本金等の額が3億円以下である事業者、(3)個人事業者

(1) 減額・買いたたき等 合理的な理由なく、商品若しくは役務の対価の額を減じ、又は商品若しくは役務の対価の額を当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと。(転嫁対策措置法3条1項)
(2) 商品購入・役務利用・利益提供の要請 特定供給事業者による消費税の転嫁に応じることと引換えに、自己の指定する商品を購入させ、若しくは自己の指定する役務を利用させ、又は自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。(同条2項)
(3) 本体価格での交渉の拒否 商品又は役務の供給の対価に係る交渉において消費税を含まない価格(本体価格)を用いる旨の特定供給事業者からの申出を拒むこと。(同条3項)
(4) 報復行為 上記(1)〜(3)に掲げる行為があるとして特定供給事業者が公正取引委員会等に対しその事実を知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすること。(同条4項)

 転嫁拒否等の行為に対して、公正取引委員会、主務大臣、中小企業庁長官から検査、指導等が行われます。


【2】消費税の転嫁を阻害する表示の是正

 事業者は、平成26年4月1日以後、消費税の円滑かつ適正な転嫁を阻害する次の表示を行ってはならないとされています。

(1) 取引の相手方に消費税を転嫁していない旨の表示
(例)「消費税は転嫁しません。」
   「消費税は一部の商品にしか転嫁していません。」
   「消費税を転嫁していないので、価格が安くなっています。」
   「消費税はいただきません。」
   「消費税は当店が負担しています。」
   「消費税還元」、「消費税還元セール」
   「当店は消費税増税分を据え置いています。」
(2) 取引の相手方が負担すべき消費税を対価の額から減ずる旨の表示であって消費税との関連を明示しているもの
(例)「消費税率上昇分値引きします。」
   「消費税8%分還元セール」
   「消費税率の引上げ分をレジにて値引きします。」
(3) 消費税に関連して取引の相手方に経済上の利益を提供する旨の表示であって(2)に掲げる表示に準ずるもの
(例)「消費税相当分、次回の購入に利用できるポイントを付与します。」
   「消費税相当分の商品券を提供します。」
   「消費税相当分のお好きな商品1つを提供します。」
   「消費税率の引上げ分を後でキャッシュバックします。」

【禁止されない表示】

 次の(1)〜(3)のような表示は、宣伝や広告の表示全体からみて消費税を意味することが客観的に明らかな場合でなければ、いずれも、消費税分を値引きする等の表示には該当しませんので、この法律で禁止されることにはなりません。

(1) 消費税との関連がはっきりしない
「春の生活応援セール」「新生活応援セール」
(2) たまたま消費税率の引上げ幅と一致するだけ
「3%値下げ」「3%還元」
(3) たまたま消費税率と一致するだけ
「10%値下げ」「8%還元セール」


【3】総額表示義務の特例

(1) 消費税率の引上げに際し、消費税の円滑かつ適正な転嫁のため必要があるときは、現に表示する価格が税込価格であると誤認されないための措置を講じているときに限り、平成29年3月31日までは、税込価格を表示することを要しないこととされています(総額表示義務の特例措置)。
(注) 税込価格を表示しない事業者は、できるだけ速やかに、税込価格を表示するよう努めなければなりません。

税抜価格のみを表示する場合
【個々の値札等において税抜価格であることを明示する例】

○○○円(税抜き) ○○○円(税抜価格) ○○○円(本体)
○○○円(本体価格) ○○○円+税 ○○○円+消費税
【店内における掲示等により一括して税抜価格であることを明示する例】
 個々の値札等においては、「○○○円」と税抜価格のみを表示し、別途、消費者が商品等を選択する際に目につきやすい場所に、明瞭に次のような表示を行うことが考えられます。
「当店の価格は全て税抜きとなっております」
旧税率に基づく税込価格等で価格表示されている場合
【新税率の適用後においても一時的に旧税率に基づく税込価格の表示が残る場合の表示例】

 個々の値札等においては、「○○○円」と旧税率に基づく税込価格を表示し、別途、消費者が商品等を選択する際に目に付き易い場所に、明瞭に次のような表示を行うことが考えられます。
「旧税率(5%)に基づく税込価格を表示している商品については、レジにてあらためて新税率(8%)に基づき精算させていただきます。」
【新税率の適用前から新税率に基づく税込価格の表示を行う場合の表示例】
 個々の値札等においては、「○○○円」と新税率に基づく税込価格を表示し、別途、消費者が商品等を選択する際に目に付き易い場所に、明瞭に次のような表示を行うことが考えられます。
「既に新税率(8%)に基づく税込価格を表示している商品については、3月31日まではレジにて5%の税率により精算させていただきます。」

(2) 事業者が、税込価格に併せて、税抜価格を表示する場合において、税込価格が明瞭に表示されているときは、景品表示法第4条第1項(不当表示)の規定は適用しないこととされています。


【4】転嫁カルテル・表示カルテルの独占禁止法適用除外

 転嫁及び表示カルテルについて、独占禁止法の適用除外とされています(公正取引委員会への届出制)。

(1) 転嫁カルテルとは、「消費税の転嫁の方法の決定」についての共同行為です。転嫁カルテルを行うことができるのは、主に中小事業者やその団体です。
(2) 表示カルテルとは、「消費税についての表示の方法の決定」についての共同行為です。表示カルテルは、全ての事業者又は事業者団体が行うことができます。


参考 8%への税率引上げに伴う経過措置(5%の税率が適用される場合)

経過措置の内容
(1)旅客運賃等
 平成26年4月1日以後に行う旅客運送の対価や映画・演劇を催す場所、競馬場、競輪場、美術館、遊園地等への入場料金等のうち、平成26年4月1日前に領収しているもの
旅客運賃等
(2)電気料金等
 継続供給契約に基づき、平成26年4月1日前から継続して供給している電気、ガス、水道、電話に係る料金等で、平成26年4月1日から平成26年4月30日までの間に料金の支払いを受ける権利が確定するもの
電気料金等
(3)請負工事等
 平成8年10月1日から指定日の前日(平成25年9月30日)までの間に締結した工事(製造を含みます。)に係る請負契約(一定の要件に該当する測量、設計及びソフトウエアの開発等に係る請負契約を含みます。)に基づき、平成26年4月1日以後に課税資産の譲渡等を行う場合における、当該課税資産の譲渡等
請負工事等
(4)資産の貸付け
 平成8年10月1日から指定日の前日(平成25年9月30日)までの間に締結した資産の貸付けに係る契約に基づき、平成26年4月1日前から同日以後引き続き貸付けを行っている場合(一定の要件に該当するものに限ります。)における、平成26年4月1日以後行う当該資産の貸付け
資産の貸付け
(5)指定役務の提供
 平成8年10月1日から指定日の前日(平成25年9月30日)までの間に締結した役務の提供に係る契約で当該契約の性質上役務の提供の時期をあらかじめ定めることができないもので、当該役務の提供に先立って対価の全部又は一部が分割で支払われる契約(割賦販売法に規定する前払式特定取引に係る契約のうち、指定役務の提供(※)に係るものをいいます。)に基づき、平成26年4月1日以後に当該役務の提供を行う場合において、当該契約の内容が一定の要件に該当する役務の提供
 ※  「指定役務の提供」とは、冠婚葬祭のための施設の提供その他の便宜の提供に係る役務の提供をいいます。
指定役務の提供
(6)予約販売に係る書籍等
 指定日の前日(平成25年9月30日)までに締結した不特定多数の者に対する定期継続供給契約に基づき譲渡される書籍その他の物品に係る対価を平成26年4月1日前に領収している場合で、その譲渡が平成26年4月1日以後に行われるもの
予約販売に係る書籍等
(7)特定新聞等
 不特定多数の者に週、月その他の一定の期間を周期として定期的に発行される新聞又は雑誌で、発行者が指定する発売日が平成26年4月1日前であるもののうち、その譲渡が平成26年4月1日以後に行われるもの
特定新聞等
(8)通信販売
 通信販売の方法により商品を販売する事業者が、指定日の前日(平成25年9月30日)までにその販売価格等の条件を提示し、又は提示する準備を完了した場合において、平成26年4月1日前に申込みを受け、提示した条件に従って平成26年4月1日以後に行われる商品の販売
通信販売
(9)有料老人ホーム
 平成8年10月1日から指定日の前日(平成25年9月30日)までの間 に締結した有料老人ホームに係る終身入居契約(入居期間中の介護料金が入居一時金として支払われるなど一定の要件を満たすものに限ります。)に基づき、平成26年4月1日前から同日以後引き続き介護に係る役務の提供を行っている場合における、平成26年4月1日以後に行われる当該入居一時金に対応する役務の提供
有料老人ホーム
(国税庁資料を一部変更)

 

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