目次 V-1


V.法人税制はこう変わる


1 企業組織再編税制の整備等

―平成13年4月1日以降に行われる組織再編成について適用―

(1) 企業組織再編成による移転資産の譲渡損益の取扱い

 法人が組織再編成によりその有する資産を他に移転した場合には、その移転資産の譲渡損益の計上を行うのが原則ですが、組織再編成の実態や移転資産に対する支配の継続という点から、企業グループ内の組織再編成により資産を企業グループ内で移転した場合には、一定の要件の下、移転資産をその帳簿価額のまま引き継ぎ、譲渡損益の計上が繰り延べられます。

 また、共同で事業を行うために組織再編成により資産を移転した場合にも、移転の対価として取得した株式の継続保有等の要件を満たす限り、移転資産に対する支配が継続していると考え、譲渡損益の計上が繰り延べられます。

 このように改正案では、法人が、分割、合併、現物出資又は事後設立(以下「組織再編成」といいます。)によりその有する資産等を他に移転した場合において、その組織再編成が「適格組織再編成」(適格分割、適格合併、適格現物出資又は適格事後設立)に該当する場合には課税の繰延べが可能になります。


(1) 適格組織再編成

 適格組織再編成には、(1)企業グループ内の組織再編成と(2)共同事業を行うための組織再編成の2通りがあります。

課税の繰延べ 適格組織再編成 (1)企業グループ内組織再編成
(2)共同事業を行うための組織再編成

 イ 適格分割

 適格分割に該当するには、後掲の(イ)又は(ロ)とも、分割に伴って分割承継法人の株式のみが交付され、かつ、分割型分割にあっては、分割法人の株主の持株数に応じて分割承継法人の株式が交付されたものに限ります。

 商法における会社分割の形態の概要
平成11年商法改正により株式交換・株式移転制度が創設され、翌年、引き続き行われた商法改正により会社分割制度が創設され、持株会社への移行に備えた企業再編法制の整備が行われました。なかでも会社分割法制はその要(かなめ)となるものです。
会社分割制度は分割の対価である株式を株主に交付するのか、会社自身に交付するのかによってタイプが分れます。株主に交付するのは「分割型の会社分割」、会社自身に交付するのは「分社型の会社分割」と呼ばれます。また、分割された営業を新設された会社が承継する「新設分割」と、既存会社が承継する「吸収分割」に区別されます。

(1) 分割型・新設分割
会社がその営業の一部を分離して、新設会社に承継させ、承継する新設会社の株式を会社の株主が取得します。株式交付の原則は、按分型となります。



(2) 分割型・吸収分割
(1)と異なり、承継する会社が新設会社ではなく既存会社である場合、合併に類似しています。



(3) 分社型・新設分割
会社がその営業の一部を分離して新設会社に承継させ、営業を承継する新設会社の株式を分割する会社自身が取得します。従来の特定現物出資と類似しています。



(4) 分社型・吸収分割
 (3)のタイプで、承継する会社が新設会社ではなく、既存会社である場合。現物出資による増資と類似しています。



 新設会社又は吸収会社が、株式を分割会社とその株主の双方に割り当てる一部分割(分割型と分社型の中間型)も認められます。また、新設分割の場合には、複数の会社が共同で分割を行うことも認められます。


<企業組織再編税制のしくみ>


 (イ) 企業グループ内組織再編成

 組織再編成により移転した資産の譲渡損益の計上が繰り延べられる企業グループ内の組織再編成は、基本的には、完全に一体と考えられる持分割合の極めて高い法人間で行う組織再編成であるべきことから、「持分割合は50%超」であることが要件となります。さらに組織再編成による資産の移転を個別の資産の売買取引と区別する観点から資産の移転を「独立した事業単位の移転」とし、主要な資産・負債と80%以上の従業員が引き継がれていなければなりません。当然、組織再編成後も移転した事業が継続することも重要な条件となっています。

 ただし、これらの要件は、持分割合が100%の関係にある法人間で行う組織再編成については問われません。

 以上をまとめると、適格分割に該当するには次の(1)又は(2)に該当しなければなりません。

(1) 分割法人と分割承継法人とが100%の持分関係である場合の分割
(2) 分割法人と分割承継法人とが50%超100%未満の持分関係である場合の分割で、次の要件に該当するもの
(i)  分割法人の分割事業の主要な資産及び負債が分割承継法人に引き継がれていること。
(ii)  分割法人の分割事業の従業員の概ね80%以上が分割承継法人において引き続き業務に従事することが見込まれていること。
(iii)  分割法人の分割事業が分割承継法人において引き続き営まれることが見込まれていること。

 (ロ) 共同事業を行うための組織再編成

 移転資産の譲渡損益の計上が繰り延べられる共同事業を行うための組織再編成に当たるかどうかは、組織再編成により一つの法人組織で行うこととした事業が相互に関連性を有するものであること、それぞれの事業の規模が著しく異ならないこと、それぞれの事業に従事していた従業員の相当数が引き継がれることなどが条件となります。

 したがって、適格分割に該当する共同事業を行うための分割とは次の要件に該当しなければなりません。

(1) 分割により交付された分割承継法人の株式を継続して保有することが見込まれていること
(2) (イ)の(2)(i)から(iii)までの要件を具備すること
(3) 分割法人の分割事業と分割承継法人のいずれかの事業とが相互に関連性を有するものであること
(4) それぞれの事業の売上金額、従業者若しくはこれらに準ずるものの比率が概ね5倍を超えないこと又は分割法人と分割承継法人の双方の役員が分割後に分割承継法人の経営に従事する常務クラス以上の役員となること


 ロ 適格合併及び適格現物出資
   要件 に掲げる適格分割の要件に準ずる要件に該当する合併及び現物出資とされます。

 ハ 適格事後設立
 いわゆる変態現物出資のことで「適格事後設立」に該当するには、次の要件が必要です。

(1) 資産等の譲渡が、子会社設立時に予定されており、子会社設立後6月以内に行われたこと
(2) 資産等の譲渡の対価が子会社設立時の払込金銭の額と概ね同額であったこと
(3) 持分割合が100%の子会社株式を資産等の譲渡時まで引き続き保有していたこと
(4) 持分割合が100%未満となることが見込まれていないこと

注意点  変態現物出資に伴う資産の引継ぎは従来、帳簿価額以下で行うこととされていますが、企業再編税制の創設で、これまで変態現物出資で経理処理されてきた圧縮記帳は廃止され、適格事後設立による資産等の移転は、時価による資産等の譲渡とし、譲渡益又は譲渡損相当額の子会社株式の帳簿価額の修正損又は修正益が計上されます。この場合、子会社は、購入した資産等の帳簿価額を親会社の帳簿価額と同額に修正します。


(2) 資本の部の金額の取扱い

 また、いわゆる別表(七)の繰越青色欠損金の引継ぎは、適格分割型分割(事業の全部が移転し、分割後解散するもの)や適格合併においては原則認められます。

 適格分割型分割及び適格合併においては、利益積立金額の引継ぎが認められます。また、分割型分割及び合併の場合には、いわゆるみなし事業年度を設けることとされます。

 なお、分社型分割、現物出資及び事後設立においては、利益積立金額は引き継がれません。

 

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