目次 I-1


II.金融証券税制はここが変わる!


1 金融所得課税の一体化への措置(平成21年から)

―株式譲渡損失と配当所得との損益通算可能
・株式譲渡益の10%軽減税率は500万円以下に限り2年延長
・配当所得の10%軽減税率は100万円に限り2年延長―

 上場株式等の譲渡所得等及び配当所得に係る税率については、金融所得課税の一体化に向け、平成20年末をもって軽減税率10%が廃止され、平成21年から20%とされます。その際、円滑に新制度へ移行するための特例措置として、平成21及び22年の2年間は、譲渡所得等の金額のうち500万円以下の部分及び配当所得の金額のうち100万円以下の部分については引続き10%の軽減税率が適用されます。

 金融所得課税の一体化に向けた最初の措置として、平成21年より、上場株式等の譲渡損失と配当所得との間の損益通算の仕組みが導入されます。また、投資家の利便性に配慮する観点から、源泉徴収口座内において損益通算を行う方法が創設され、証券会社における特定口座システム開発等の準備が整った段階から適用可能とされます。


[1]損益通算の特例の創設

(1)  上場株式等の譲渡損失と上場株式等の配当所得との間の損益通算の特例の創設

 その年分の上場株式等の譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の金額があるとき又はその年の前年以前3年内の各年に生じた上場株式等の譲渡損失の金額(前年以前に既に控除したものを除きます。)があるときは、これらの損失の金額を上場株式等の配当所得の金額(申告分離課税を選択したものに限ります。)から控除されます。これにより、個人投資家の投資選択が中立化され、株式投資のリスクが軽減されます。なお、損益通算限度額は、設けられていません。

適用期日 この改正は、平成21年分以後の所得税及び平成22年度分以後の住民税について適用されます。


(2)  源泉徴収口座内の上場株式等の配当等に対する源泉徴収税額の計算の特例の創設(源泉徴収口座内における損益通算)

 源泉徴収口座に受け入れた上場株式等の配当等に対する源泉徴収税額を計算する場合において、当該源泉徴収口座内における上場株式等の譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、当該配当等の額から当該譲渡損失の金額を控除した金額に対して源泉徴収税率(特別徴収税率)を乗じて徴収すべき所得税(住民税)の額を計算することとされます。

 この場合において、当該上場株式等の譲渡損失の金額につき、申告により、他の株式等に係る譲渡所得等の金額又は上場株式等に係る配当所得の金額から控除するときは、本特例の適用を受けた上場株式等の配当等については、申告不要の特例は適用されません。

(注)  特定口座のうち、「源泉徴収あり」を選択した口座のことを源泉徴収口座といいます。

適用期日 この改正は、平成22年1月1日以後に金融商品取引業者等から交付を受けるべき源泉徴収口座内配当等について適用されます。


◆損益通算◆



◆金融商品間の損益通算の範囲拡大◆

【現行制度の問題点】
 金融商品間の損益通算においては、株式譲渡所得と配当所得は同じ株式投資から生じる所得である にもかかわらず、損益通算に制限(譲渡損と配当所得の通算不可)があるなど、リスク資産の損失が十分 な配慮を受けていない。
【要望事項】
上場株式・公募株式投資信託等の譲渡所得及び配当所得との間の損益通算を認めること
損益通算に当たっては、特定口座を最大限活用すること
預金・債券等の利子所得及び先物取引に係る雑所得についても、損益通算の範囲を拡大する

(金融庁「平成20年度税制改正要望項目」より)


[2]上場株式等の譲渡所得等に対する課税

(1) 上場株式等に係る譲渡所得等の10%軽減税率の廃止

 上場株式等の譲渡所得等に係る税率については、平成20年12月31日をもって10%軽減税率(所得税7%、住民税3%)が廃止され、平成21年1月1日以後は20%(所得税15%、住民税5%)とされます。


(2) 特例措置

 平成21年1月1日から平成22年12月31日までの間(2年間)、その年分の上場株式等に係る譲渡所得等の金額のうち500万円以下の部分については、10%(所得税7%、住民税3%)の軽減税率とされます。


◆上場株式等の譲渡所得の税率◆



(3) 源泉徴収口座における源泉徴収税率の特例

 平成21年1月1日から平成22年12月31日までの間(2年間)の源泉徴収口座における源泉徴収税率(特別徴収税率)は10%(所得税7%、住民税3%)の軽減税率とされます。

 この場合において、源泉徴収口座の上場株式等に係る譲渡所得等の金額と源泉徴収口座以外の上場株式等に係る譲渡所得等の金額の合計額が500万円を超える者については、その超える年分について、源泉徴収口座の譲渡所得等に係る申告不要の特例は適用されません。


[3]上場株式等の配当所得に対する課税の廃止等

(1) 上場株式等に係る配当等の10%軽減税率の廃止

 居住者等が支払を受けるべき上場株式等の配当等に係る源泉徴収税率(特別徴収税率)については、平成20年12月31日をもって10%軽減税率(所得税7%、住民税3%)が廃止され、平成21年1月1日以後は20%(所得税15%、住民税5%)とされます。


(2) 源泉徴収税率の特例措置

 平成21年1月1日から平成22年12月31日までの間(2年間)に居住者等が支払を受けるべき上場株式等の配当等(大口株主が支払を受けるものを除きます。以下同じ。)に対する源泉徴収税率(特別徴収税率)は10%(所得税7%、住民税3%)の軽減税率とされます。

 この場合において、その年中の7%源泉徴収(3%特別徴収)の対象となった上場株式等の配当等(同一支払者から年間の支払金額が1万円以下の銘柄に係るものを除く。)の金額の合計額が100万円を超える者については、その超える年分について、その者がその年中に受け取った7%源泉徴収(3%特別徴収)された当該上場株式等の配当等に係る申告不要の特例は適用されません。


(3) 上場株式等の配当所得の申告分離選択課税の創設

 平成21年1月1日以後に居住者等が支払を受けるべき上場株式等の配当所得については、当該居住者等は20%(所得税15%、住民税5%)の税率による申告分離課税を選択できることとされます。

 この場合において、申告する上場株式等の配当所得の金額の合計額について、総合課税と申告分離課税のいずれかの選択適用とされます。


(4) 申告分離選択課税の税率の特例措置

 平成21年1月1日から平成22年12月31日までの間(2年間)に上場株式等の配当等の支払を受ける場合に、その年分において申告分離課税(上記(3))を選択した上場株式等の配当所得の金額のうち100万円以下の部分については、10%(所得税7%、住民税3%)の軽減税率が適用されます。


◆上場株式等の配当所得の税率◆


(注)  申告分離課税を選択した場合は、上記の税率の適用で課税関係が終了します。総合課税を選択した場合は、上記の税率により源泉徴収された後に、他の所得と合算して申告することになります。


(5) 源泉徴収口座への上場株式等の配当等の受入れ

 居住者等が金融商品取引業者等の営業所を通じて上場株式等の配当等の支払を受ける場合において、当該居住者等が当該金融商品取引業者等の営業所に源泉徴収口座を開設しているときは、当該配当等を当該源泉徴収口座に受け入れることができることとされます。

適用期日 この改正は、平成22年1月1日以後に金融商品取引業者等から交付を受けるべき源泉徴収口座内配当等について適用されます。


[4]資料情報制度等の整備

(1)  源泉徴収口座に係る特定口座年間取引報告書
(a)  源泉徴収口座に係る特定口座年間取引報告書の税務署への提出を不要とする措置が廃止されます。
(b)  特定口座年間取引報告書の記載事項に、源泉徴収口座に受け入れた配当等の額等が追加されます。
(2)  10%(所得税7%、住民税3%)の軽減税率を適用する上場株式等の配当等については、すべての配当等の支払調書を税務署へ提出しなければならないこととされます。ただし、源泉徴収口座に受け入れた上場株式等の配当等については、当該支払調書の税務署への提出は要しないこととする。
(3)  上場株式等の配当等の支払者又は支払事務取扱者は、当該配当等の支払を受ける者に対して、その支払う配当等の額等を記載した支払報告書を交付しなければならないこととされます。ただし、源泉徴収口座に受け入れた上場株式等の配当等については、当該報告書の支払を受ける者への交付は要しないこととされます。
 また、上場株式等に係る配当所得の金額を申告する場合には、当該支払報告書又は源泉徴収口座の特定口座年間取引報告書を確定申告書に添付しなければならないこととされます。

適用期日 上記(1)の(a)の改正は、平成21年1月1日以後に源泉徴収口座において処理される上場株式等の譲渡に係る報告書について適用されます。
上記(1)の(b)の改正は、平成22年1月1日以後に支払う上場株式等の配当等について適用されます。
上記(2)及び(3)の改正は、平成21年1月1日以後に支払う配当等について適用されます。


[5]源泉徴収義務の整備等

(1)  源泉徴収口座において損益通算を可能とするため、上場株式等の配当等に対する源泉徴収について、以下の措置が講じられます。
(a)  支払事務取扱者(証券会社、銀行等)を通じて支払をする上場株式等の配当等について、当該支払事務取扱者を源泉徴収義務者(特別徴収義務者)とされます。
(b)  公募株式投資信託の収益の分配に係る配当等について、当該配当等の支払事務取扱者(証券会社、銀行等)が源泉徴収義務者(特別徴収義務者)とされます。
(c)  源泉徴収口座に受け入れた上場株式等の配当等について源泉徴収した所得税又は特別徴収した住民税の納付期限は、その徴収の日の属する年の翌年1月10日とされます。
(2)  個人が公募株式投資信託の終了又は一部の解約により交付を受ける金銭の額その他の資産の価額については、その全額を株式等譲渡所得等の収入金額とみなして課税することとされます。
(3)  その他所要の整備が行われます。

適用期日 (1)の改正は、平成22年1月1日以後に金融商品取引業者等から交付を受けるべき源泉徴収口座内配当等について適用されます。
(2)の改正は、平成21年1月1日以後の公募株式等証券投資信託の終了又は一部の解約について適用されます。


[6]保有株式の贈与等による移管の容認

 一定の贈与、相続又は遺贈により取得した特定口座内保管上場株式等であった上場株式等を、次に掲げる方法により受贈者、相続人又は受遺者の特定口座へ移管できることとされます。

(1)  贈与により取得した上場株式等を当該受贈者の特定口座へ移管する際に、その受贈者が取得した上場株式等のうち同一銘柄の上場株式等をすべて当該受贈者の特定口座に移管する方法(当該受贈者の特定口座に既にその取得した上場株式等と同一銘柄の上場株式等を有していない場合に限ります。)
(2)  相続又は遺贈により取得した上場株式等を当該相続人又は受遺者の特定口座へ移管する際に、その相続人又は受遺者が取得した上場株式等のうち同一銘柄の上場株式等をすべて当該相続人又は受遺者の特定口座に移管する方法


[7]1,000万円までの非課税制度の廃止

 特定上場株式等に係る譲渡所得等の非課税制度(元本1,000万円までの譲渡益の非課税制度)は、適用期限(平成19年12月31日)の到来をもって廃止されます。

 

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