目次 I-9


9 資本的支出と修繕費の区分はどうする(2)

より良い部分品に交換した場合の区分
 L社は、本社建物の窓枠が、かなり老朽化してきたため、今回、窓枠を全部取り替えることにしました。取り替えるに当たり、従来のスチール製のサッシから、より品質の高いアルミ製のサッシに取り替えています。
 取替えに要した費用等は次のとおりでした。
 (1) アルミサッシへの取替えに要した費用:800万円
 (2) 仮に、従来と同じスチールサッシに取り替えた場合に要する費用:600万円
 なお、本社ビルの取得価額は7,000万円です。
 L社は、取替え費用800万円のうち(1)の800万円と(2)の600万円との差額200万円を資本的支出とし、残りの600万円(800万円−200万円)を修繕費として処理しています。

調査官の指摘
 800万円と600万円の差額200万円が資本的支出になるのは当然ですが、残りの600万円部分の中にも、資本的支出になるものが含まれているのではないでしょうか。

会社の言い分
 スチールサッシからアルミサッシに取り替えるための費用と、従来と同じスチールサッシに取り替えるための費用との差額、200万円が資本的支出になるので、残りの600万円は修繕費となると思うのですが。



税務判断のポイント

 調査官の指摘どおり、残りの600万円部分についても資本的支出か修繕費かの検討を行わなければなりませんが、結果的には、本事例では、L社の処理どおり、残りの600万円は全額修繕費となります。

 本事例のように、より良い部分品に取り替えたような場合の資本的支出と修繕費の区分は、I−8でも述べたように、おおむね以下のような手順で行います。
 まず、明らかに資本的支出に該当する部分を求めます。(1)の800万円と(2)の600万円との差額200万円が明らかに資本的支出に該当する部分です。
 次に、残額の600万円部分についてですが、単純には修繕費とはならず、資本的支出か修繕費かが明らかでない部分として、調査官の指摘どおり、さらに資本的支出か修繕費かの判定を行わなければなりません。
 この600万円部分については、(a)60万円未満か、(b)建物の取得価額のおおむね10%以下であれば修繕費処理が認められます。本事例のケースでは、(a)の60万円未満という基準には該当しませんが、(b)の建物の取得価額のおおむね10%以下(本事例の場合には、建物の取得価額7,000万円×10%=700万円)の基準に該当しますので、600万円部分については、全額修繕費処理が認められます。
 本事例の場合には、結果的に、残りの部分につき全額修繕費処理が認められましたが、仮に、資本的支出か修繕費かが明らかでない部分が上記(a)、(b)のいずれの基準にも該当しないような場合には、次の(1)又は(2)のいずれかの方法により、資本的支出か修繕費かを区分しなければなりません。

(1)  (イ)又は(ロ)のいずれか少ない金額を修繕費とし、残りを資本的支出とする処理を継続して行う
 (イ) その金額の30%相当額
 (ロ) その修理改良等をした資産の前期末における取得価額の10%相当額
(2)  実質判定を行う


税理士のアドバイス

 本事例のように、資産の一部を従来より品質の高いものに取り替えたような場合には、従来と同質のものに取り替えた場合の費用と、より良い部品に取り替えた場合の費用との差額のみを資本的支出とするだけではなく、残りの部分についても資本的支出か修繕費かの判定をする必要があることにご注意ください。
 なお、本事例の場合、取り除いたスチールサッシの除却損は計上できませんので、その点もご注意ください。

【参考法令】  法基通7−8−1(資本的支出の例示)
 法基通7−8−4(形式基準による修繕費の判定)
 法基通7−8−5(資本的支出と修繕費の区分の特例)

 

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