目次 III-11


11.相続開始直前に取得した資産に対する今後の評価上の取扱い

Question
 平成8年1月1日以降に開始した相続により取得した資産(土地等・建物等)については、旧措置法第69条の4の規定(いわゆる取得価額課税)が廃止されたことにより当該資産の評価はすべて財産評価基本通達の定めにより計算した金額(例えば、土地等については路線価方式又は倍率方式により計算した金額、建物等については倍率方式により計算した金額)により評価することとなりますか。

Answer
 平成8年1月1日以降に開始した相続により取得した資産(土地等・建物等)については、旧措置法第69条の4の規定(いわゆる取得価額課税)が廃止されたことにより当該資産の取得の時期にかかわらず、その評価は原則として相続税法第22条に定める時価によるものとされます。

 そして、具体的な財産評価に計算に際しては、このような抽象的概念では実務の用に供することが困難であるため、特別の定めのある場合を除き、財産評価基本通達に定める方式(土地等については路線価方式又は倍率方式、建物等については倍率方式)により計算することが原則とされています。

 しかしながら、上記のような財産評価基本通達に基づく評価(原則的取扱い)によらないことが相当であると認められるような特別の事情がある場合には、財産評価基本通達6(この通達の定めにより難い場合の評価)の規定を適用して、他の合理的な評価方式による時価の算定がなされるものと考えられます。(特例的取扱い)

 例えば、相続開始直前に取得した不動産(土地等・建物等)について、被相続人の名義をもって取得されていても実際に取得等については相続人等の関与による場合や、相続開始直後に直ちに売却して単に相続開始の一時点において形式的に被相続人の所有財産の形態を評価の安全性が配慮されている不動産に置き換えて当該不動産の時価(通常の取引価額)と相続税評価額との差額(評価のアローアンス)のみを不当に享受することを目的としていると認められる場合には、財産評価基本通達6の規定を適用した特例的取扱いの適用がなされるものと考えられます。

 なお、旧措置法第69条の4が設けられる以前に開始した相続(昭和62年12月相続開始)において、相続開始前3年以内に取得した不動産(マンション)を購入価額で評価することは、租税法律主義、遡及処罰の禁止及び平等原則に反せず適法であるとされた判決(最高裁判所第一小法廷〔平成5年10月28日判決〕)もあります。

(最高裁判所(一小):平成5年10月28日判決)

(イ)  相続人が被相続人甲の代理人として、相続開始の約2ヶ月前の昭和62年10月に全額借入金により不動産(マンション)を取得した。(不動産の購入価額は758,500,000円)

(ロ)  昭和62年12月19日に甲が死亡し、(イ)の不動産(マンション)については相続人4人が各人1/4ずつの共有持分により相続した。(財産評価基本通達に基づき評価した価額131,707,319円)(遺産分割協議の成立日は、昭和63年1月23日)

(ハ)  昭和63年4月から7月にかけて、(ロ)により相続した不動産(マンション)を774,000,000円で他に売却した。なお、当該売却代印をもって(イ)の借入金を返済している。

 このような事案において、相続人は、被相続人に係る相続財産に申告に当たって、本件不動産(マンション)の価額を財産評価基本通達に基づいて評価(131,707,319円)して相続財産に計上し、その一方でその購入資金である借入金をそのまま債務控除すべき債務として計上したが、これに対して課税庁は、この一連の行為を本件不動産(マンション)の取得価額と財産評価基本通達に基づく評価額との差額を利用することによる相続税の課税価格の圧縮効果を得る目的のためのみになされたものであるとして、当該不動産(マンション)の評価は、財産評価基本通達に基づく評価額ではなく、当該取得額によるべきであるとして争ったものでした。

 上記の争点に対し判決では、次のような判断に基づき課税庁による処分を支持して、当該不動産(マンション)の評価は当該取得価額によるべきであるとしています。

 相続財産の評価に当たっては、別段の定めのある場合を除き、財産評価基本通達の定めにより評価することが原則であるが、当該財産評価基本通達によらないことが相当と認められるような特別の事情のある場合には、他の合理的な時価の評価方式により評価することが認められるものと解すべきである。

 本件事案の場合においては、被相続人(実際には、実務の大部分を相続人が代行)が相 続開始直前に借り入れた資金で不動産を購入し、相続開始直後に当該不動産が相続人により売却(当時の市場価額で第三者に譲渡)され、当該売却代金によってその借入金が返済されているような、当該不動産と借入金との対応関係が明確なものにまで画一的に財産評価基本通達に基づいて評価することが当該不動産を客観的な市場における不動産の交換価値によって評価したときの比較において、実質的な租税負担の公平を著しく損なうもので容認し難いものであると考えられ、このような事態がイに掲げる「特別の事情のある場合」に該当するものと解されるものである。

 納税者側においては、「本件取扱い(当該不動産を取得価額により評価すること)が措置法改正によって新設された特例(旧措置法第69条の4)をその適用時限以前の相続事案に対しても適用するのと結果的に同じ効果を生じさせるものであり容認することはできない」と主張するが、本件事案は、相続により取得した財産の評価について、ロに掲げるような特別の事情が在することにより、財産評価基本通達の定めによらず、他の合理的と認められる時価の評価方式により評価したに過ぎず、財産評価の基本原則である相続税法第22条(時価による評価)の解釈の範囲内であり、納税者側の主張するような租税法律主義、遡及処罰の禁止及び平等原則に反するような事態を招来しているとは到底解し得ないものである。

 

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