目次 III-1


 III 税務訴訟と争訟手続き


1 変わる税務訴訟の現場

1 「勝てない代名詞」といわれていた税務訴訟

 1 税務訴訟とは

 税務訴訟は、実務では税の課税・徴収という観点から、大別して、課税をめぐる「課税訴訟」と徴収をめぐる「徴収訴訟」に分類される。

 課税訴訟の大部分は「行政事件訴訟」であるのに対し、徴収訴訟は通常の「民事訴訟」がその多くを占めている。

 また、行政事件訴訟に属する課税訴訟のほとんどは「抗告訴訟」であるが、抗告訴訟に属するものとしては、「処分の取消しの訴え」、「裁決の取消しの訴え」、「無効等確認の訴え」、「不作為の違法確認の訴え」などがある。なお、行政事件訴訟に属する課税訴訟のうち、「当事者訴訟」に属するものとしては、「租税債務不存在確認訴訟」がある。

 税務訴訟の中心をなすのは課税訴訟といえる(以上、中尾巧『税務訴訟入門(新訂版)』(商事法務研究会)平成5年64ページ)。なかでも、抗告訴訟が最も多い。

 なお、平成17年4月1日施行の改正行政事件訴訟法により、「義務付けの訴え」、「差止めの訴え」が新設された。


 2 「勝てない代名詞」

 このような税務訴訟は、従来「勝てない代名詞」と揶揄されていた。客観的な数値を見ても、納税者の勝訴率が極めて低いことが理解できよう。

【税務訴訟における納税者の敗訴率】
年  度 納税者敗訴率
平成11年度 93.9%
平成12年度 94.4%
平成13年度 91.8%
注1: TKC、国税庁、東京国税局の各ホームページのデータを表にしたものである。
注2: 納税者敗訴率にいう納税者敗訴には、一部勝訴の場合を含んでいない。


2 補佐人制度の登場

 1 平成13年改正がなされる以前の実情

 このような税務訴訟の実態からすると、納税者たる原告サイドに、租税の専門家たる税理士が関与する必要性は高い。

 この点、民事訴訟法上、税理士は訴訟代理人となることが認められていないため(弁護士代理の原則、民事訴訟法第54条第1項)、税理士が原告の訴訟代理人となることはできない(この点においては現行法においても同様である)。

 そこで、税理士が税務訴訟で原告サイドに関与して出廷および陳述をするためには、民事訴訟上の補佐人になるより方法はなかった。「補佐人」とは、当事者、法定代理人、または訴訟代理人とともに裁判期日に出頭し、これらの者の陳述を補足する者である(民事訴訟法第60条)。専門的知識が必要な陳述を補足するために認められている。

【平成13年改正税理士法施行前】
【平成13年改正税理士法施行前】


3 加速する納税者勝訴―裁判例を見る

 1 専門事務所の登場

 近年は税務訴訟を専門にした弁護士、法律事務所が登場している。また、税理士補佐人制度の創設に伴い、税理士との連携を図る弁護士および法律事務所も増えている。さらには弊事務所のように税理士を複数名雇用し、税務訴訟への対応を強化している専門事務所もある。

 このように、税理士補佐人制度の創設の相乗効果として、弁護士および法律事務所の体制も税務訴訟に向けられたかたちが形成されてきた。

 被告課税庁ほどの組織性・集団性はないものの、従来の納税者代理人に比べれば組織性・集団性は向上している。こういった点も、税務訴訟が勝てるようになった原因として挙げられる。

【近時の税務訴訟における当事者の構造】
  専門性 組織性 集団性
税 務 法 律
被告課税庁
原告納税者
補佐人
税理士

代理人
弁護士
法律事務所に税理士が所属する専門事務所の出現
多くの弁護士および税理士が1つの事件に関与する専門事務所の出現

 

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